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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
一章 出会い……そして、拉致…………
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俺より可愛い奴なんていません。1-15

立花たちばな あおい東堂とうどう達の後に続き、黒いバンの様な車に乗らされていた。


運転席には金髪の男が運転をしており、助手席にもう1人の東堂の仲間が、その後ろの席に葵と橋本はしもと 美雪みゆきが座らせられていた。


そして、最後尾に葵と美雪を監視するようにして腕を組み、ふんぞり返った様子で藤堂が座っていた。


前に座る2人はあっちだろ、こっちだろと行先への行き方がイマイチよく分かってないのか、あぁだこうだと行って話し合っていた。


そんな揺れる車中の中で、葵はカバンをガサガサと漁り、常に常備している化粧品と女装をするために欠かせないウィッグを取り出した。


「ど、どうしてそんなの持ってるんですか!?」


葵が化粧の準備をしていると一緒に連れてこられてしまった美雪がなるべく声を凝らしながら葵に尋ねてきた。


「念のためだ。お前も女ならこれぐらい持ち歩け」


葵は美雪の学校に通う姿を見て、美雪が化粧品などを学校に持ち込む事が無いとヤマを張りそう言うと、図星だったのか美雪は苦虫を噛み潰したような何も言い返せないといった様子だった。


「男に言われるなよ……こんな事」


「は……はい」


美雪は学校に行くのにめかしこんだりするのがあまり好きではなかったが、男に言われた事で落ち込み、俯いきながら反省した様子で答えた。


そして、会話を終わらせると葵は揺れる車中の中で、器用に手鏡を見ながら準備を進めていった。


美雪も葵のメイクには興味があったため、観察するようにジッと見つめた。


「うわぁ……」


美雪はどんどんと別人のように変わっていく葵を見て、思わず声が漏れた。


それは、気持ち悪い物を見た時に出る声ではなく、綺麗な物を見た時に感心し出るような声色だった。


葵は普通ならこんな事を男である自分がやったら間違いなく、引かれ、間違っても後者のような声は出ないだろうと思った。


「あん時も言ったけど、アンタってホント変わってるよな。普通気持ち悪いとか思うだろ」


「そんな事無いです!!」


葵はあの助けられた時にした会話をもう一度美雪に振ったが、美雪の答えはあの時と変わらず、少し当時の事を思い出した。


「そ……そか……、ありがとな」


葵は素直にお礼を伝えるのが小っ恥ずかしかったため、小さく呟くように答えた。


美雪は葵の声があまりに小さかったのか、聞こえておらず、「ん?」といった様子で首を傾げ、葵を見つめていた。


「何でもない。まぁ、とりあえずお前には危害がこれ以上加わらないようにするから安心しろ」


葵はそう言って美雪との会話を切り上げ、メイクに集中し始めた。


常備している物だけでは葵の満足のいくメイクには程遠かったが、それでもかなりレベルの高いメイクをする事が出来た。


運転や助手席に座っている奴らがダメだったのか、葵のメイクの腕が凄すぎたのか、目的地に到着する前に葵はメイクを終わらし、ウィッグを付け、美雪の助けた「たちばなさん」へとなる事が出来た。


「わぁ……、ホントに「たちばなさん」だぁ……」


葵のメイクが完成に近づけば近づく程、美雪は今までの感心は高まり、彼女は再びあの夜の美女に会えた事に歓喜極まり、思わず声を漏らしていた。


美雪にそんな視線を向けられた葵は別に嫌な気はしなかった。


美雪の反応も気になったが、葵はそれよりもまず先にやる事があった。くるりと体を翻し、後ろに座る東堂の方へと向くと、葵は真剣な表情で話しかけた。


「東堂、出来たぞ。これでいいだろ。」


葵の凛々しくも美しいその顔で言われた東堂は、普通の男ならその美しさに少し怯むところを怯むどころかニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。


「あぁ、確かに俺の知ってる葵だ」


葵は東堂の表情から変ないちゃもんを付けられると身構えたが、東堂が素直に自分の女装を認めてくれた事に安心し、小さく息を吐き肩を下ろした。


そして、再びキリッと東堂を見つめ話し始めた。


「なら、ここで車を停めて、彼女を降ろせ。もう必要ないだろ」


「ん? あぁ〜、そうしたいとこだったが、もうすぐ着く。せっかくだ、一緒に付き合ってもらおう」


東堂のそんな言葉と少し演技がかった答え方に葵は東堂が美雪を解放する気が最初から無かったことが分かった。


葵は自分を犠牲にすれば簡単に美雪を解放すると考えていたため、こういった結果になった事に絶望し、落胆した様子で肩を落とした。


美雪の友人である亜紀あきにもしっかりとあんな宣言をし、ここまで来ておいて、何も出来ず、情けなく思い、何よりも助けてくれた彼女に申し訳なかった。


「ごめん。俺のせいだ……」


プライドの高い葵が珍しく素直に呟くように謝罪すると、美雪も驚いた表情で葵を見つめた。


いつも学校にいる時は誰に嫌われようと堂々としており、1度しか会ったことは無かったが、女装をしている彼もまた、他者を寄せ付けないような気高さがあった。


そんな彼の様子が見る影も無く、弱々しく見える目の前の彼に美雪は素直に驚き、何だか彼を身近に感じることができ、嬉しくなった。


「大丈夫ですよ? 私は」


美雪の妙に明るいその声に葵は不思議に思いつつも、ネガティブな考えが少し軽くなった気がした。


◇ ◇ ◇ ◇


葵の提案も虚しく拒絶された後、数分で目的地の場所へと着いてしまった。


目的地につき、停車をするなり、葵と美雪は東堂等に降りろと命令され、両手手首を縛り付けられた。


「イってぇな……。もっと優しくできねぇのかよ」


「ちッ……相変わらずうるせぇ女だな」


「女じゃねぇ」


東堂は縛られる事を嫌がり、痛がる葵を面倒くさそうな様子で再び縛り付けていた。


その時、美雪は縛り付ける東堂が心無しか注意されていこう葵を丁寧に扱っているように見えた。


◇ ◇ ◇ ◇


そして、2人はそのまま誘導されるようにして歩かされた。


2人の頭の中には逃げるという選択肢もあがったが、逃げ切れる確証はなかった。


捕まったのが1人であるなら逃げる選択肢も取れたやもしれなかったが、二人一緒に逃げるとなると逃げ切れる確率は下がり、逃げようとした事がきっかけで、もう片方の人にさらなる危険が起きることは避けたかった。


東堂達が向かったのはもう使われていない廃校だった。


警備が緩く、日中は不良が溜まっているようなイメージがあり、夜に来れば肝試しとしても申し分ないような独特の雰囲気を漂わせていた。


東堂達の誘導により、中には簡単に入る事が出来た。


そして、指示されるまま、廃校に残された椅子に葵と美雪は座らせれ、東堂の仲間たちによって立てないよう今度は椅子と体を括りつけられた。


美雪と葵を自分の思い通り、座らせた事で満足した様子の東堂がゆっくりと話し始めた。


「さて、どうするかな。まぁ葵、お前は痛めつけ、たっぷり遊んでやるとして……」


東堂はそう言いながら、ニヤついた顔でゆっくりと美雪の方へと視線を移すと東堂が全てを話終える前に葵が遮るようにして叫んだ。


「ふッざけんなよ……、東堂……」


「ハハハッ!何がふざけるなだ葵ぃ〜……。お前、そんな事を言える立場か?」


葵に思いっきり睨みつけられ、罵倒された東堂は高らかに笑い声を上げ、ゆっくりと話しながら葵に近づき、葵の目の前まで行くと、葵の髪を鷲掴みにした。


「お前の目の前でヤってるよ……」


髪を鷲掴みにした東堂は自分の顔も葵の前まで近づかせ、葵を煽るように東堂は答えると、葵は今までに見せた事が無いような程の、険しい表情で明らかな敵意を東堂に向けた。


「クククッ……ハハハハッ!! その顔だ! その顔だよ! 葵ぃ〜!! ソソるねぇ〜……、最高だよ」


葵が睨めば睨むほど喜ぶ東堂を東堂の仲間達は目撃し、東堂が自分達の親分のような存在であったが、気味が悪くて仕方がなかった。


しかし、東堂の仲間達が引く中で、誰よりも1番引くべきであろう美雪は、そんな素振りは見せず、何故かキョトンとした表情で東堂を見つめていた。


その時だった、遠くの方でパトカーのサイレンが鳴っているのが5人の耳に届いた。


いくら通報された場所から車で離れたといえど、通報から数十分も経っていれば近場をパトカーが捜索するなど当然の事だった。


それほどまでにこの国の警察機関は優秀だった。


「と、東堂さん!」


サイレンが聞こえたと同時に葵は少し緊張が解け、東堂の仲間である金髪男ともう1人の仲間はあの時の夜と同じように騒ぎ始めた。


葵も東堂も仲間と同じように慌てる様な仕草を取ると決めつけ、彼の行動を凝視し確認したが、彼はそんな行動は取らなかった。


「ハッ!お前らまだ覚悟決めてなかったのか?もうコイツらを拉致した時点で捕まる事は決まってる」


東堂は焦るどころか、事前に括っていた腹がサイレンを聞いたと同時に更に括れた様子で、堂々した態度だった。


「まぁ、流石に2人をいたぶるのは時間的に無理そうだな……。なぁ? 葵」


「知らねぇよ」


東堂に再び煽られるように葵は尋ねられたが、内心何故逃げないのか分からず東堂に少し怯え、動揺していたがそれを悟られないよう必死に虚勢を張って答えた。


そして、ここまで強気に出れる葵には確信があった。


あくまで東堂が仕返ししたいのは自分の方であって、美雪ではない。


時間があれば美雪にも被害がいっていたかもしれないが、時間が無い今となっては葵にとっての最悪の場合(美雪が襲われる)を回避出来たと考えていた。


「ハハッ……つれねぇな……。そんじゃ……」


(はぁ……、これは過去最大のトラウマになるだろうな……。まぁ自業自得か……)


東堂が手を伸ばしたところで、葵は目を瞑り、心の中で初めて自分の悪趣味を後悔した。


「お助けの姉ちゃん……、遊んでやるよ……」


「は……?」


葵は東堂のその言葉で目を開け、素早く美雪の方へと視線を向けた。


そこには美雪の肩に手を置き、得意の薄ら笑いを浮べ、葵の反応を伺うようにこちらを見る東堂の姿があった。


葵はそれを見るなり一瞬状況が理解出来ず、思わず声が漏れた。


「どうゆう事だ! お前の好みじゃねぇだろ!!」


「おいおい……お前、それはそれで姉ちゃんに失礼だろ……」


東堂に飛びかかる勢いで椅子をガタつかせ、東堂に問いかけた。


荒立つ葵に対して、何故か東堂は穏やかに冷静にツッコミを入れた後、またニヤつきながら答えた。


「お前のその反応が見たいんだよ、俺は……。どうやらお前に何かをするよりこっちの姉ちゃんに何かをした方がお前は反応がいいからな?」


「お前……、それ以上何かしてみろ?」


葵は本気で怒りを剥き出しにし、東堂に突っかかった。


そんな、葵の反応が東堂にとっては面白く、わざと葵に見えるように美雪の髪を撫でた。


「マジで殺す……」


葵はあの夜自分が東堂達に触られた時と同じ言葉を再び、東堂達に浴びせた、その時だった。


葵も気付いていたが、東堂に髪を撫でられても動じず、怯えることなくただ先程から黙って座る美雪がようやく口を開いた。


「大丈夫ですよ?「たちばな」さん。きっと東堂さんは何も出来ません。」


美雪は真顔で東堂の内面の全てを見通すように言葉を言い放った。


美雪のそんな発言に東堂の動きはピクリと止まった。

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