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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
七章 夏休み ~沖縄編 2日目~
148/204

俺より可愛い奴なんていません。7-25


 ◇ ◇ ◇ ◇


あおい達は、まゆずみの元でのバイトを終えると、真鍋まなべ達が帰ってくるまで、時間を潰し、そして昨日と同じように合流すると、共にホテルまで戻っていった。


夕食から入浴と時間は進み、あっという間に就寝の時間になり、引率している真鍋と同じ部屋にいる、葵達、男子生徒は彼に指示されるようにして、捗る会話を中断させ、ベットについていた。


そうして、午前0時。


一度就寝に付き、昨日あまり眠れていなかったはずの葵は、目を覚まし、再び眠ろうと目を閉じても、中々寝付くことが出来ずにいた。


(ダメだ……、また寝れない…………。

ストレスか……?)


「――だとしたら、黛さんのせいだな」


どちらかと言えば寝つきの良いはずの葵は、旅行に来てからというもの、中々気持ちよく夜に就寝できずにいた。


眠れない現状に、まず疑ったのは自分の体だった。


そして、特に目立った症状が見れないのを確認すると、自分の気付かないところで、ストレスを蓄積しているのではないのかと考え、だとすればそのストレスの原因は黛だと仮定し、悪態を付きながらベットから体を起こした。


(眠れないし、またあそこ行くか……)



葵はそう思いながら、昨日の夜訪れた、一階のホテルの中庭へと向かって歩き始めた。


そして、不意に昨日と同じように、美雪みゆきと会えるかもしれないと、淡い期待のようなものを感じていた。


◇ ◇ ◇ ◇


ホテル 一階 中庭。


昨日より少し強い海風を感じながら、葵は再び、昨夜腰を下ろした長椅子へと向かって歩いていた。


一度訪れた場所ではあったが、やはり何度来ても飽きず、葵は夜のこの場所が好きになっていた。


「あ…………」


葵は、部屋でも一瞬考えたが、結局あり得るはずがないと結論付けていた事が、目の前で起こり、思わず声を漏らし、歩んでいた足をその場で止めた。


葵の視線の先には、昨夜葵が腰を下ろしていた腰掛に、腰を下ろす美雪の姿があった。


昨日よりも風が強い事により、髪が靡き、片手で時折抑えながらも、海を微笑ましい表情で見つめていた。


その姿を見て、葵は少しの間その場に呆然と立ち尽くしていると、不意に海から視線を外した美雪と視線が重なった。


その瞬間、美雪は葵を認識し、一瞬目を見開き驚いた表情を浮かべた後、先程の柔らかい印象を感じさせる笑みではなく、満面の笑みに近い、明るい笑みを葵に見えた。


美雪に存在がバレ、最初から美雪の存在に気付いていながらも、不意に視線が合ったことで、葵も表情にまでは出なかったが、心臓が強く脈を打つような、跳ねるような感覚を感じ、止めた歩みを再び進めた。


「なんとなく来るんじゃないかって思ってましたよ!」


葵が自然と会話できるくらいの距離まで美雪に近づくと、美雪は笑顔のまま嬉しそうに、葵にそう告げた。


「また眠れないのか?」


「そうですね……、なんだか癖になっちゃいまして……。

ここ来ればまた眠気が来るかなと。

立花さんもですか?」


「まぁ、そうだな……。

二日も連チャンだと、これは明日もかな……」


葵はそう嘆くように答えながら、美雪の使っている物ではなく、また別の腰掛、昨夜、美雪が腰かけた方へと腰を下ろした。



「確かに、それありえますね!

もういっそのこと、どうせ明日もここで会いそうなら、約束してしちゃいますか」


「え…………?」


何気なく呟くように言った葵の言葉に、美雪が思わぬ一言を返したことで、葵は思考が一瞬止まり、声を漏らす様に美雪に尋ねた。


「冗談です」


美雪は葵の驚いた表情を見た後、笑みを浮かべ答えた。


美雪の言葉に不意を突かれた葵だったが、すぐに気を取り直し、真夜中の変な時間ではあったが、珍しく冗談を言う美雪を見て、彼女がいつもよりテンションが高いように感じた。


二人はそのまま、少しの間言葉を交わさず、月明かりに照らされ、煌く海を見つめていた。


「あッ、そういえば聞きましたよ~、立花たちばなさん!

今日は色々あったそうで。

また、ミスコンやったんですよね?」


美雪は楽しそうに、気さくに話しかけるように葵に昼間の事を尋ねた。


亜紀あき晴海はるみもミスコンに参加していたため、それなりにイベントの事は聞けたであろうが、その中でも、葵はスタイリストとして裏方で大きく関わっていたため、美雪は葵の話も当然興味があった。


「あぁ、水着コンテストな……。

まぁ、水着だから前回と違って俺は出てないけどな……」


「立花さんなら、水着でも出ちゃいそうな勢いありますけどね!」


「それも冗談か?? 流石に無理だろ。

自分でもちょっと想像したくない……」


美的センスに拘る葵は、頭の中で自分が女装した姿を想像し、とてもじゃないが、自分が納得できるようなクオリティ―になる事を想像出来ず、怪訝そうな表情を浮かべながら、美雪の意見を否定した。


「これは冗談じゃないです。

パレオとかならいけそうですけどね。

胸とかは流石に作れなさそうですけど」


「無理だな……、肌を出し過ぎてる……。

男だとバレないようにはできるだろうけど、優勝はできないな……」


「それって出れてるじゃないですか」


真剣な表情で悩みながら答える葵の言葉に、美雪はクスりと微笑みながら答えた。


「それで?

どうでした? 水着コンテスト……」


「うん? まぁ、楽しかったぞ?

身近で本物のスタイリストの技を見れたし……。

裏方は裏方で大変だったけどな……」


「やっぱり、大変でしたか……。

亜紀もハルもスタイリストんが少なくて、急遽立花さんが助っ人に入ったって聞きましたけど……。

立花さんは誰を担当したんです?」


「えっと、橋本はしもとの知ってるところで言えば、しずかとかかな?

まぁ、俺が担当だって知って、最初は少し嫌がってたけどな」


葵は当時の事を思い出し、静が自分を担当するスタイリストが葵だと分かると、少し嫌そうな何とも言えない怪訝そうな表情を浮かべており、それを思い出しながら、楽し気に葵はその時の事を話した。


楽し気に話していた葵だったが、不意に弾んでいたはずの会話が、美雪から返事が返ってくるのを遅く感じ、、ほんの僅かな勘違いに近いような違和感だったが、美雪の顔へと視線を向けると、口元は微笑んではいたが、どこか陰のあるような暗い表情に、葵は一瞬見えていた。


小竹こたけさんだったんですね!

小竹さんって確か、2番だったんじゃないですか??

凄いじゃないですかッ!?」


葵が感じたほんの僅かな違和感だったが、そんな違和感は最初からなかったと思わせるほどに、美雪は最初会った時と同じように、笑顔で元気よく葵にそう発した。


当然、葵もそのことは忘れるように考えることは無く、再び親買いに慣れた会話のペースで話を続けていく。


「そういえば、なんだかんだ言って、結構立花さんと色々関わりありましたけど、私ってまだ立花さんに、コーディネートされた事ないですよね……」


「あぁ、そういえばそうだな……」


思い返してみれば、この一年の間で美雪と何度も色々な事で関りを持ち、二度も葵が他の女性をコーディネートをすることはあったが、美雪自身に何かをすることはなかった。


そして、呟くように話した美雪は、どこか羨ましそうにしている素振りが見えた。


「あ~~、まぁ、なんだ……。

機会があればな……?」


「はいッ! こっちは本当に約束ですよ!!」


葵が気を利かせ、何時にやるといった具体的な約束ではなく、抽象的な約束を取り付ける事しかできなかったが、そんな約束でも、美雪は満面の笑みで、力強く葵の言葉に答えた。


「お、おぅ…………」


美雪の顔を見れず葵は顔を逸らしながら、照れているのを隠すように、素っ気なく答え、海の方へと視線を向けた。


そして、再び2人の間には静寂が流れた。


数分の間、2人に静かな時間が流れると、再びその静寂を破ったのは美雪だった。


「立花さん……。

そういえばなんですが、昨日の夜言っていた事は聞けましたか……?」


「え? 昨日……?」


美雪の言葉に葵は全くピンと来ておらず、それでも美雪へと視線を送った時に見えた彼女の真剣な表情から、真剣な話なのだと言う事は、理解する事が言わずとも出来ていた。

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