俺より可愛い奴なんていません。7-24
夏場の沖縄。
16時を既に回っていても、辺りは依然として明るかったが、それでも地平線へとジリジリと寄りつつある太陽と、海を見ながら葵と黛は会話をしていた。
「今の葵の言葉は失言だったねぇ~~。
まだまだ、知り合って間もないけど大体、葵がどういう奴かわかり始めてたし、基本的に結構本音しか言わないよね~~?
事、美に関してはさ~~?」
黛は自分の話したい話題へと、どんどん流れて行っているのを楽しんでいるように、ニヤニヤと葵をからかうような笑みを浮かべつつ、葵にそう告げた。
「まぁ、否定はしないですよ……」
葵は、何かを企んでいるように見える彼女のペースで、会話が進んでいく事をよくは思っていなかったが、彼女の本当に知りたい事がわからない以上、葵は素直に受け答える他なかった。
「そんな葵がさぁあ~?
自分より可愛い子が、少しは学校にいるって認めるのって結構な事だと思うんだよねぇ~~。
葵はプライド高いから……」
「はぁ……」
思わせぶりに話す黛に、葵は言葉を促す様に相槌を打ち、そんな葵に黛は再度、同じ言葉を、今までの思わせぶりな話し方でなく、直球で、似た質問を彼に投げかけた。
「葵って、今、現在進行形で好きな人、いるでしょ?」
黛の今度の質問は、いるかいないかを尋ねる形の質問ばかりだったが、今度の質問はまるでそれを断定するかのように、確定事項を再度確認するかのような、そんな質問の形になっていた。
黛の質問に葵は海から彼女へと視線を向けると、黛も葵に視線を向けており、彼女は顔は少し朗らかに微笑んでいる表情ではあったが、柔らかい印象は彼女になく、力強いどっしりとした印象を受け、更に、両目でしっかりと葵の顔を捉え、視線を外す素振りは一切感じさせなかった。
「い、いや……、いな……」
葵は彼女から流れる真剣な雰囲気に押され、一瞬たじろぎ、彼女の目からは、全てを見透かされているようにも思えた。
そして、葵の中で迷いが生まれ、依然答えた様に即答をすることはできなかった。
「あぁ~、オッケー、オッケー。
もう、皆まで言わなくても分かるよ!!」
葵が否定しようとしたところで、黛は葵の言葉を遮るようにして、声を上げ、質問の答えを聞く前に、その話題を切り上げた。
「流石に大人げなかったかな?」
「いや、いないですよ!?」
「葵……、否定すればする程、どつぼだよ……。
とゆうか、カマ掛けただけだしね」
必死に否定する葵に対して、黛は声を出し笑いながら、余裕あるように受け答えしていた。
「バレたかと焦った??
正直、これだけ話しても葵から真実を聞かないと、本当にいるか、いないかなんてわかんないしねぇ~~」
「だから、いないですって……」
「はいはい」
依然としてしつこく、ため息交じりに否定する葵に、黛はニコニコと微笑み流す様に答えた。
少し熱くなった会話を冷ます様に、無言の時間が少しの間、二人に流れた。
そして、再び沈黙を破ったのは、黛だった。
「これはさぁ、色々経験した人生の先輩だから言えるんだけど、若いころに感じている感情には、嘘を付かない方が良いよ……?
大人になれば色々なものが邪魔をするし、誰しもが我慢が上手くなっちゃうからさ……」
海を優し気な眼差しで見つめながら話す黛は、どこか儚げで、昔を懐かしむようにも見えた。
黛の言葉は何故か、葵に響き、素直に言葉が入ってくる感じを葵は感じていた。
黛のそんな横顔に葵は少しの間、呆然と見とれていたが、すぐに我に返り言葉を返した。
「別に我慢はしてるつもりはないですけど……」
「そっか……。
なんか、葵は昔の私に似てる雰囲気を感じるんだよね~~。
葵と違って男装しないし、性格も似てないのにね~~!?
でもまぁ、葵もお節介なとこあるからなぁ~~、そこはちょっと似てるかも……」
葵の返事は少し意地を張っているようにも聞こえたが、黛はそれを指摘すること無く、やさしく相槌を打ち、再びにこやかに、笑みを浮かべながら楽しそうにそう答えた。
「お節介とか……、生まれて初めて言われましたけど…………」
「え? まじ??」
葵は素直に答えると、黛は驚いたような表情を見せた。
そして、そんな黛を見て、いままでそれっぽい事を言ってきていたが、全て見当違いのように見えてしまい、黛の言葉を信じていいのか、悪いのか分からず、締まらない黛に冷たい目線を飛ばした。
「まぁ、なにはともあれ、葵はもっと高校生っぽく青春してもいいんじゃない?って事よ!!
他の子と比べると圧倒的に達観してるような節もあるしね」
「別に達観してるわけじゃないですけどね……」
「もう! あれも違う、これも違う、否定ばっかりだなぁ! 葵は」
黛は不満そうにそう告げながら、飲み終えた缶コーヒーを投げ、近くに設置されていた空き缶を集めたごみ箱へとシュートした。
投げる瞬間にはつい力み、話の途中で一瞬言葉を強く発し、見事ゴールを決めると、「ヨシッ!」と声を上げ喜びながら、小さくガッツポーツをしていた。
「別に、黛さんが言うように青春が全てでは無いでしょう?
昔になんか、やっとけばよかったとか後悔でもあるんですか??」
小さなことで喜ぶ黛を尻目に、葵は何気なく黛に質問をした。
「んん?
そりゃあるよ~~!
あんとき好きだった先輩に、勇気出して告白してればよかったなぁ~~とか。
人並みにはあるよ~」
「へぇ~~……。
告白して振られてもですか?」
質問をテキトーに投げかけていた葵だったが、その質問を投げかけた途端、黛は葵を真っ直ぐに見つめ、真剣な眼差しでゆっくりと一言答えた。
「もちろん!」
その揺るぎない信念のような、それ以外に当然答えは無いと言ったようなはっきりな物言いと、黛のその表情に、葵は思わず顔を逸らした。
「へ、へぇ~~、そうなんですか……。
答えが分かってても告白するなんて、珍しいですね」
「珍しいかもね~~。
でも、それが青春!!
どうしたって抑えられない感情を、人間は誰しも持っているものだよ~~」
葵はそれ以降、少しの間黛の方へは視線は飛ばせず、海を見ながら中身の無い返答しかすることができなかった。




