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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
七章 夏休み ~沖縄編 2日目~
146/204

俺より可愛い奴なんていません。7-23


あおいはしばらくの間、沈黙していた。


椿つばきの質問に、なんと答えればいいのか、どれだけ考えても打開案はでず、未だにトイレからしずかの戻ってくる気配は無い。


「なんで、安藤あんどうって思うんだ?」


葵は内心、これだけ情報が揃っていれば、その答えに行き着くのは当然とは思いつつも、その質問を椿に投げかけた。


「だって、明らかにおかしいもん! お兄ちゃんが最近であったであろう女の子を下の名前で呼ぶの……。

それに、あの小竹こたけって子の声は聞き覚えあるッ!

日に焼けて、昔の頃と比べると結構見た目も変わってるけど、面影もあるし!

なんで隠すのッ!?」


椿はあくまでも真っ直ぐに、余計な回りくどい質問は一切せずに、葵を追求し、椿がここまでの事を理解している時点で、葵はこれ以上何も言い逃れすることはできなくなった。


葵は少し間を置き、息を吐くと、真剣な真似ざしで椿を見つめ、話し始めた。


「俺から椿にその事実を伝える事はできない。

あいつも話したがらないし、それにはお前の方にも心当たりがあるんじゃないのか?」


葵の言葉に、椿は図星を付かれたかのように、少し顔をしかめた。


「お兄ちゃん、少し合わない間にちょっと意地悪になったね……」


「そういう椿は、少しずる賢くなってる……」


椿は兄の事を嫌いになってきている様な素振りをわざと見せれば、葵が折れると思ったが上手くはいかなかった。


結果的に嫌味を言い合うような形になり、言い合ってはいるが不思議とお互いに嫌悪感はなかった。


「まぁ、お兄ちゃんが話すつもりが無いのはわかったし、もうあの人が静お姉ちゃんなのも大体わかったからいいや……。

お兄ちゃんは相変わらず、嘘と隠すの下手だよね?」


「下手じゃねぇよ……。

何年、女装してきたと思ってるんだ?」


「自慢することじゃないよそれ……」


先程の張りつめたような、緊迫した雰囲気は二人の間にもうなく、緩やかなお互いの慣れた、いつもの穏やかな雰囲気へと変わっていた。


葵は椿に、静との関係を現状のままでいるのかと尋ねたい気持ちもあったが、それを聞けば葵が小竹を安藤 静だと認める事にもなるため、それを聞くことは堪えた


「あ、ごめん! ごめんッ!!」


葵と椿が会話をしていると、トイレから戻ってきた静が葵達に声を掛け、こちらへと戻った。


◇ ◇ ◇ ◇


時間は進み、午後16時。


葵と静はあの後、椿と別れ、Bloomブルームへと戻ってきていた。


時間に遅れることも無く、そのままBloomの営業再開へと移行し、水着コンテストの事もあり、Bloomの賑わいは午前中の忙しさを凌駕した。


そして、その忙しい地獄の時間は15時手前まで続き、段々とお客の数も落ち着き、16時の現在には、ゆったりとした朝の開店時と同じような、落ち着いた雰囲気に戻っていた。


葵達、桜木高校の生徒達は16時という事もあり、Bloomの仕事仕事から解放されていた。


それぞれが、真鍋まなべ達の別の班が戻ってくるまで、時間を潰し、葵もまた、Bloomの近くに設置された木製の、いかにも南国の雰囲気を感じさせるようなベンチへと腰を下ろし、海を眺めていた。


16時ではあったが、夏という事もありまだまだ日は沈まず、綺麗な青い海を見ることが出来た。


特に何かを考えるわけでもなく、ただ海を見ているだけで充分楽しめ、時折、海辺で遊ぶ亜紀あき晴海はるみ、海で元気に泳いでいる長谷川はせがわへ視線を送ったりもしていた。


「な~~に、見てんだ! 葵!」


偶々、海辺で遊ぶ亜紀達に視線を取られていると、葵の座るベンチの後ろから、聞き覚えのある女性の声が葵に掛けられた。


「何って、海ですけど……」


葵は声を掛けてきた女性を見ずとも、それが黛の声だとすぐに分かり、淡々とした様子で答えた。


「嘘だね~! 女の子見てたでしょ~ッ!

葵も女装はしても、中身はやっぱり男の子だねぇ~~」


黛は楽し気にそう言いながら、葵の隣のベンチに腰を掛け、手すりに肘を立て、軽く頬杖を突いた。


葵は内心、からかわれていると自覚しながらも、周りの雰囲気のせいか、特に腹の立つことは無かった、


「まぁ、否定はしないですけどね……」


「お? 素直だねぇ~~。

ここの海に心を開かされた~?」


「まぁ……」


葵は黛のこんな絡みを面倒だと感じつつも、今の葵にはそこまで苦でもなく、広い心で受け流すことが出来た。


「そっかぁ、あの捻くれ者の葵までもが心を開くかぁ~~。

沖縄の海は偉大だねぇ~……」


黛はそう言いながら、頬杖を突く反対の腕で買ってきた缶コーヒーを持ち、手を伸ばし葵の座るベンチの手すりへと、わざと葵の気づくように、軽く小気味よい音を鳴らしながら、缶コーヒーを置いた。


「あ、奢りですか?」


「うん。葵にしか買ってないから内緒だぞぉ~?」


「すいません、いただきます」


音に気が付くと、黛の方へと初めて視線を向け、缶コーヒーを葵に渡す様に見えるその行動に、葵は確認をし、礼を述べ、それを受け取った。


葵はすぐに缶を開けると、それを見て黛も自分の分の缶コーヒーを開け、しばらくお互いに無言の時間が訪れた。


二人の間には、海から来る風の音と、浜で遊ぶ人たちの楽し気な声だけが流れていた。


お互いに飲み物を飲む、一息つくと、まず最初に言葉を発したのは黛だった。


「それじゃあ、心開いてるついでに色々聞いちゃおっかなぁ~~?」


「――どうぞ」


黛は楽し気にそう呟きながら、葵の表情を伺いつつ、葵も特に断る理由が見つからず、淡々とした様子で、返事を返した。


「やったね!

え~~と、じゃぁ、何から聞こうかなぁ~~」


黛は少しわざとらしくも見えたが、了承を得れた事に軽く喜びながら、海の方を眺めつつ、質問を考えるようにして発言した。


「よしッ! じゃあ、いきなりきわどい質問!!

葵って、彼女はいるの?」


「はぁ? 何ですかその質問……。

いないですよ……。 未成年狙ってるんですか??」


「いや、狙ってないわッ!!」


葵はいきなり恋バナになるとは思っておらず、少し肩透かしをくらったような気分になり、思わず海から黛に視線を移し、「何を言ってるんだ?」と言わんばかりの表情を黛に向けた。


「まったく……、なんでそんな思考になるかねぇ……。

私は、年収1000万男にしか、興味ないよ……」


「こわッ…………。 

もうそれ、お金しか愛せないって言ってるのと同じじゃ……。

夢も希望も無いっすね……」


「まぁね! 大人だからねッ!!

それに、夢も希望もあるよッ!! お金は夢や希望に直結してるからね!!」


黛は年下の葵を子ども扱いし、胸を張り、自慢げに答え、そんな黛も見て、葵はこんな大人にだけはなりたくないと、心に誓った。


「てゆうか、そんな事はどうでもいいんだよ!

彼女は!? いるの?」


「なんですか……、いませんよ。

まぁ、作る気もないですけどね……」


葵は、興味本位なのか、どうして黛がそんなことを聞きたがっているのか、意図が全く分からなかったが、しつこく聞いてくる黛に折れる形で、質問に答えた。


「ふ~~ん、まぁ、何となくそんな感じはしたけどね……。

逆にいたら驚きだし……」


「なんで聞いたんですか…………」


せっかく葵が答えたのにも関わらず、質問をする前と答えを聞いた後で、明らかに黛のテンションは低くなっており、損した気分しか味わえなかった葵は、深くため息を付きながら、黛にギリギリ聞こえるかぐらいの小さな声で、嘆くように呟いた。


「じゃあさッ! 葵って今好きな人とか、気になる人はいるの??」


落胆する葵に黛は、切り返す様に再び葵に質問を投げかけた。


「いないですよ」


「おぉ、即答……」


葵は今まで通り、淡々とまるで何気ない業務をこなす様に質問に答え、葵の表情一つ変えずに、返ってきた早いレスポンスに、黛は驚いていた。


しかし、葵のその質問の答え方は、まるで事前に答えを用意していたかのような、用意してなくとも体が反射的に反応して答えたかのような感じがあり、黛の質問に、一度も脳を通して思考をしていないようにも見えた。


「ほんとにいないのぉ~?

この旅行でだって、一緒に来てる子はみんな粒ぞろいじゃん。

学校結構女の子のレベル高いんじゃない??」


「それ、ウチの学校結構言われますけど、大したこと無いですよ?

まず、俺より可愛い奴、そんなにいないですし……」


「ふ~~ん、そんなにねぇ~~……」


葵は気の緩みか、聞かれたことに対して嘘偽りなく全て答えていっていまい、我の強い、いつも葵ならば、思っていても自分より可愛い、あるいは美しい者はいないときっぱりと答えていた。


葵の発してしまった言葉に、黛はニヤニヤと笑みを浮かべながら、尻尾を掴んだと言わんばかりの表情を浮かべていた。



更新1日遅れですみません。m(_ _)m

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