俺より可愛い奴なんていません。7-21
◇ ◇ ◇ ◇
葵と静は、椿と共に、出店通りを抜け、浜から少し離れた、人通りの多い大きな通りへと出ていた。
その通りには、様々なお店が立ち並び、葵達が自由に行動できる時間では、あまりに足りない程、魅力が詰まったところだった。
「うわぁ~~、凄いね、ここ……」
椿は周りをキョロキョロと見渡しながら、感動するように声を漏らした。
「でしょ~~、結構面白いものとか置いてあるよ~~。
まぁ、変な物も多いから、お土産とかでしか買わなかったり……」
「ふ~~ん」
椿に対して親切に静は色々と伝えたが、椿は最初の感動したような楽し気な声とは違い、素っ気なく、関心が無さそうにそう答えた。
椿のその反応は、誰から見ても敵意を放っているような、静の事をよく思っていないとわかる反応だった。
静はそんな椿に苦笑いを浮かべるしかなく、乾いた笑いを零していた。
「はぁ~~……、椿?
お前、いくらなんでも初対面の相手に、それは冷たいんじゃないか?」
葵は椿の静への態度を今までのも思い返しても、少し問題があるように見え、先程から何とか椿と、友好的に接しようしている静に、助け舟を出す意味も含めて、ため息交じりにそう告げた。
「あ……、いいよ、葵……。
別に私は何とも思わないし…………」
「いや、良くはないだろ?
椿の為にもならないし……」
葵は気をまわしてそれを告げたつもりだったが、静はあまり望んでいない様子で、少し暗い表情のまま答えた。
静のその姿は、まるで自分が不当に扱われる事が、仕方が無い事だと言っているようにも見え、葵はそのような態度を取る静にも納得がいかなかった。
葵の知る限り、昔の静と椿は仲が良く、年上の静を椿は、姉のような存在に思い慕っていた。
椿の実の姉である、蘭がそれを見て、「なんで、実の姉よりも慕っているんだ」と嘆いていたのは、印象的だった為、葵もよく覚えていた。
現状では、確かに椿は静の事に気づいていないとはいえ、本来であれば、二人は気の合う関係であるはずだった。
「兄さん? 妹を前に、イチャつかいないで貰えます??」
椿はにこやかに、笑顔を浮かべながら葵にそう告げていたが、目の奥はどう見ても、心から笑っているようには見えず、椿の怒りがにじみ出る様に、ふつふつと感じさせていた。
「い、いや……、別にそんなつもりじゃなかったんだが……。
悪い…………」
葵は、椿が感じていることは勘違いだと、やんわりと否定しながらも、椿の圧に押され、素直に謝罪を口にした。
「う、うん、ごめん……」
静も椿に終始強く出れない為か、委縮したまま、葵の謝罪に乗っかるように謝罪した。
しかし、その静の謝罪は納得がいかなかったのか、椿はまたもやムッとした表情を浮かべ、機嫌が悪くなったように見えた。
雰囲気は一層悪くなり、空気の重さに葵は、深くため息を付きながら、二人に提案するように、声を上げた。
「なぁ? そういえば忘れてたんだけど、姉貴にお見上げ頼まれてて、何あげればいいかわからないから、手伝ってくれないか??
選ぶの面倒だから買わないつもりだったけど、買わなかったら、めちゃめちゃうるさそうだし……」
葵はその時の事を少し想像しながら、何とかこの雰囲気を変えようと試みた。
「あ、あぁッ! 蘭さんッ!?
そうだね! 選ぼうッ!!」
「まぁ、昔から姉貴の趣味ってそんな変わってないけど、静は最近の姉貴のこと知らないだろうから、品物と言うよりも、品ぞろえの良い店を、紹介してくれるとありがたいな。
椿には、その店で姉貴の喜びそうな物を選んで欲しい……」
「うんうん! いいね!! 了解ッ!!」
静は気丈な振る舞いで、無理に盛り上げようと楽し気に声明るく、葵の意見に賛同し、葵は静が少し無理にしているようにも見えていたが、今は雰囲気を変えようとしている事もあり、その行動はありがたかった。
「悪いな……。
椿も頼めるか?」
「別にそれはいいけど……。
まぁ、お姉ちゃん変だから何を与えても喜びそうだけどね……。
むしろ、変な物であればあるほど喜びそう……」
「色々と酷いな…………。
姉貴が聞いたら泣くぞ……?」
葵は椿の表現の仕方に、姉に対する扱いに少し疑問を感じつつも、椿が同意してくれた事で少し安心もしていた。
◇ ◇ ◇ ◇
葵の提案により、椿と静は蘭のお土産選びに協力する事となり、静のお勧めで、周りのお店よりも比較的に様々な物が、置いてある雑貨屋へと訪れていた。
お店に訪れる前に、静や椿と、葵は色々とどういったジャンルの物を買えばいいのかを話題にし、近くに食べ物メインのお土産屋さんもあるという事で、静はこのお店をピックアップした。
「凄いなここ……。
色々あり過ぎじゃないか? てゆうか、これ誰が買うんだ……??」
葵はそういって気になったお土産を手に取り、静にソレを見せるようにして尋ねた。
葵がもったそれは、沖縄の守り神のシーサーをモチーフにした、マスクの様なお土産だった。
色々と文字が書かれており、ただの面白くマスクかと思いきや、美容グッズを銘打っており、マスクでは無く美容パックとして使う物だった。
「えぇ〜!? 結構人気なんだよ〜??
普通に美容マスクとしても優秀だし、それに付けてみると意外と可愛いんだよぉ〜!?」
「え……? 正気かお前…………。
てか、その口ぶり……、まさか愛用者……?」
葵はマスクを良く思ってなく、少しギョッとした様子で静に訪ねた。
「い、いや、愛用者って程じゃないけど……。
それでも使った事はあるよ…………? 次の日、肌の調子も良かったよ!?」
「マジか…………」
静の好評を聞き、葵は少しだけ考えを改め始め、手に持つシーサーマスクを呟きながら凝視した。
「写真も撮ったよ? ほらッ!」
興味深そうにジロジロと、シーサーマスクとにらめっこをしている葵に、静は携帯をささっと操作し、本当に使ったことを証明する様に、以前使用しているところ撮った、写真を葵に見せた。
葵は静のその声に反応し、静がこちらに向けている携帯の画面へと視線を移した。
「うわ、マジだ…………。
シーサーだ…………」
葵は別に疑っているわけでは無かったが、静の動かぬ決定的な証拠見て、呆然としながら、画面に映る笑顔でシーサーマスクを付ける静を見つめた。
静のその写真は、「シーサーマスクを使ってみたよ」と自分の友達に見せる為に撮ったような、そんな写真であり、かなり自然体の楽しげな笑みを浮かべていた。
「あ…………」
葵がしばらく黙り込んだまま、携帯を凝視していると、静は小さく声を漏らし、急に少し焦った様に、携帯をこれ以上葵に見せないよう、自分の方へと戻した。
葵は充分その写真を見れていたが、何の断りも無く、何なら今まで見せていたのに、静が急にこれ以上見せたくないといった様に、振る舞うような態度を取ったように見え、少し不思議感じていた。
そして、静の方へと視線を向けると、静は顔を赤く染めており、視線が合わなかった。
「あの……、兄さん?? またですか???
私が少しでも離れたらもう我慢できずに、イチャつくわけですか??」
「いや、だからイチャついてないって」
蘭のお土産を探すために、一時的に静や葵から離れていた椿がいつの間にか、二人の元へと戻ってきており、何とか少しずつ戻りつつあった機嫌が再び悪くなっていた。
葵は、椿の言葉を再び否定したが、椿は小さく「どうだか……」と呟き、まるで信用していない様子だった。




