俺より可愛い奴なんていません。7-19
「お連れ! みんなッ!」
水着コンテストに出場した静達が、黛達の談笑する場所へと来ると、黛は出場した彼女達に開口一番、労いの言葉を掛けた。
「はぁぁ~~ッ、ほんと疲れました……。
待ち時間も緊張するし……、美雪はこんな事をやってたんだね……。
楽しい事もあったけど、一回で充分かな……」
亜紀はどっと疲れたように、重たい息を吐きながらそう告げ、桜木高校の学際での美雪の気持ちに近いものを体験し、彼女の苦労をひしひしと痛感していた。
「えぇ~~!?
私はまたやりたいと思うけどなぁ~~。
ねぇ? 静ちゃん?」
「うん。
出る前はすごく恥ずかしいけど、メイクとか髪をセットしたりとかして、完成した自分を見ると、やっぱり出て良かったかな?って毎回思うよ……。
まぁ、でも次出たら三回目だし、私ももう出ないかなぁ~~……」
晴海に話を振られ、静も晴海の意見に賛同しながらも、次回出ることは無いと、苦笑いを浮かべながら答えた。
「みんな本当にお疲れ様よッ!
チーム『新生Bloom』で、二位、三位独占、他の子達もインパクトあったし、午後からは繁盛する事間違いなしよッ!!」
一位を取れなかった事を、黛は悔いている節もあったが、それでも結果で見れば、黛の言うチームBloomは大健闘であった。
そして黛の言う通り、午後からイベントで輝いた彼女たちを一目見ようと、Bloomに足を運ぶ者が多くなることは、容易に想像できた。
静達を含めて、しばらく大円団で会話を交わしていたが、時間が経つにつれ、亜紀と奈々(なな)、晴美と香也と言うようにコーディネートを担当した者と、された者の組み合わせへと会話をする相手が変わっていった。
黛は、他の静以外のBLOOMの従業員で参加していた者を集め、必然的に葵と静がその輪から溢れていた。
「清水も松野も色々と、話したい事があるんだな……」
葵は少し不器用ながらも、2人で居るのに沈黙なのも気まずかったため、楽しげに笑顔で話す亜紀や晴美静に会話を振った。
「ねぇ、葵……。
結構何度か感じたけど、昔に比べてコミ障になった??」
「は?」
葵の下手な社交辞令から入る会話に、静は少しニヤッと笑みを浮かべながら、半ば葵をからかうようにして、そう尋ねるように言い、葵は自分でも変な事を、言っている節を若干感じていたため、見事に図星を付かれていた。
「な、なわけねぇだろ。
まぁ、その、まだあんまり慣れてないだけで……」
「コミュ障じゃん……」
「だから! 違うってッ」
小馬鹿にしたように言う静に、葵は少し声を大きくし、強くそれを否定した。
葵は自分を陽キャラや陰キャラと、他人に部類されるのは、心底どうでもよく、気にもしなかったが、自分が女子と話す時に、気後れしているとは絶対に認めたくなかった。
「てか、そんなんどうでもいいよ……。
まぁ、ひとまずお疲れ……」
「うん。ありがと」
葵はこの手の話題では自分が不利だと察し、疲れた雰囲気で半ば諦めるような様子で、話題を切り上げ、まだ彼女を労った言葉を掛けていなかったため、少し恥ずかしくも思いながらも、それを静に伝えた。
静は一瞬驚いたような表情を浮かべながらも、すぐに表情は柔らかくなり、笑顔で微笑みながら優しく答えた。
「惜しかったな……、優勝。
まぁ、あれは予想外だったけど…………」
「そうだねぇ〜……、まさか本物が出場するとは……。
しかも、それが椿ちゃんだったなんて……。葵は勿論知らなかったんだよね?」
「何も聞いてない……。舞台裏でなんか話したか?」
「う〜〜ん、人が多くてわちゃわちゃしてたから話せなかったかなぁ〜……。
それに、椿ちゃんの周り人が沢山いて、忙しそうだったし……」
葵の質問に、静は少し表情を曇らせ、声にも少し暗さを感じさせ、答えた。
静のそんな雰囲気を葵は、気づいたがそれが何から来るものなのか、更に自分の勘違いかも分からなかったため、特に気にする事はなかった。
「まぁ、椿ちゃん、多分私の事あんまり良く思って無いだろうし…………」
「ん?」
静は誰にも聞こえないくらいの、自分にしか聞こえないくらいの声で、暗い表情のまま呟き、案の定、静の声は葵には届いておらず、聞き取れなかった葵は、不思議そうに聞き返すように静に尋ねた。
「ううん。何でもないッ!
あ、そういえば、葵が担当した参加者の人が葵の事を探してたよ?
なんかしたの〜??」
静は今までの少し影のある暗い表情を一気に、笑顔へと変え、取り繕うようにそう葵告げると、話題を切り替えた。
「マジか……。いや、何も心辺りは無いけど…………」
「葵は昔からデリカシーが無いからな〜……、なんか失礼な事言ったんじゃない?」
静はため息を一つ付きながら、少し呆れたような口調で葵にそう伝えた。
そして、静は視線を先ほどのイベントの関係者達が、よく出入りしている、舞台裏へ入るためのいる口付近へと視線を飛ばした。
「ほら、葵。 あそこにまだいるよ?」
静は偶々話の流れから、舞台裏近くへと視線を向けると、話に出ていた二人組の参加者を見つけ、その場所を指さしながら、葵にそう告げた。
静の話を聞き、葵が静の指先に導かれるようにして、舞台裏付近へと視線を向けると、そこには確かに葵が、一人目に担当した女性と、二人目に担当した女性がその場にいた。
二人は何かを探すようにして、辺りを見渡しており、葵はその二人を不思議そうに見つめていたが、不意に偶然にその二人の内の一人と目が合った。
そして、一人目が葵に気付くと、もう一人の女性の方を軽く叩き、葵を指さして、目当てのものを見付けたかのように、喜んでいた。
「あッ……、バレた……」
静も二人組の女性がこちらに気付いている事がわかり、思わず声を漏らしていた。
二人の女性は、葵を見つけるなり笑顔で手を振りながら、こちらへと近づいてきていた。
そして、そこまで遠く離れてはいなかった為、二人の女性はすぐに、葵達と自然に会話をするくらいの距離へとたどり着いた。
「やっと見つけたよぉ~~!!
お礼を言おうと持ってたのに、舞台裏に戻ったらいないから、ちょっとびっくりして焦っちゃった!」
「あ、それは、すいません……。
他の先輩方も抜けるという事だったで……」
葵の担当した女性が気さくに話しかけると、葵は申し訳なさそうに、丁寧な口調で、普段よりも声のトーンを上げて答えた。
葵の普段女装している時の、中世的な作った声に、静は初めて聞いたという事もあり、「おぉ……」と小さく声を上げながら驚き、その後にも葵の事を、何とも言えない微妙な表情で見つめていた。
「優勝できなかったね……
結構アピール頑張ったんだけどね。
ごめんね、化粧終えた後はイケイケ!ドンドン!って感じだったんだけどね~」
「いえいえ! こちらこそ、力に成れずにすいません……。
――楽しんではいただけました?」
葵の恐る恐ると言ったような尋ね方に、女性陣二人はキョトンとした表情を浮かべた後、そのままお互いの顔を見合わせた。
一観客としての葵であれば、特に他人の順位等には関心も無かったが、出ている側の事を考えれば、せっかく参加したにも関わらず、賞を取れなかった事に、不満を感じている可能性も無くはなかった。
静から冗談とは言えど、先程嫌な話を聞いていた手前、葵はそのことだけは気になっていた。
葵が答えを待っていると、その答えはすぐに返ってきた。
「そんなわけ無いじゃん! 新人君ッ!!
めちゃめちゃ楽しかったよぉ~~!」
「うんうん! 舞台裏から出て、君の事を探す間にも、何人かの男性からナンパ受けちゃったしねッ!!
効果絶大だよ!!」
二人の女性はお互いに顔を見合わせた後、葵へと視線を戻し、その表情は晴れやかに、言葉には少しの高揚感を感じさせていた。
葵は桜際のミスコンの際にも感じていたが、本当に楽しめているのだろうかという不安をずっと抱え、それが晴れた時の感覚は本当に安心し、不安を抱えた時も含め、この瞬間は嫌でなく、とても心地よいものだった。
「そうですか……、よかったです!」
葵は安心した表情で自然と、こぼれ出る笑顔を浮かべながら、二人にそう告げた。
「君、メイクされてる時にも思ったけど、ホントに可愛いよね!?
普段は、綺麗顔なんだけどさぁ、ふとした笑顔とか……。
なんか、女の子でも好きになっちゃいそう!」
「え……」
葵は、あまり良くないことではあったが、二人には女装をしていることはもちろん伝えておらず、更には葵の女装の出来は言うまでも無かったため、万が一にもバレるなどという事は無かった。
静以外の女性陣は、冗談半分本気半分といった様子で葵にそう言い、どっちなのかわからない葵は少し困惑したように、声を漏らした。
「そうそう! なんか不思議な魅力あるよね~~。
なんなら、さっきのナンパの男達よりも全然魅力的というか~~。
あの人たちの遊ぶより、断然この子といた方が面白そう!」
「あ……アハハハ……、そうですかね……」
バレる様子はなかったが、妙な方向へと話は進んでいき、葵は若干手詰まり状態になっていた。
そして、そんな葵を尻目に女性二人は、共感したことで話が盛り上がっていき、葵と静は少しの間、会話に置いてけぼりを食らっていた。
「イテッ!」
少しの間が出来、一息付けそうな葵が、ため息のように息を吐くと、隣にいた静が葵の脇腹をつねってきた。
葵は驚きと相まって、思わず声が漏れ、何事かと静に視線を送るとそこには不満そうに、葵を見つめる静の姿があった。
「な、なに……?」
葵はつねられた事は不満だったが、静の機嫌が良くないことを悟り、それを指摘することは無く、まずは事情を、声を押し殺しながら、静に尋ねた。
「い~や? 別にぃ~。
ただ、ずいぶん楽しそうだな~~って……」
葵の予想通り、静は機嫌が悪く、昔からの彼女の機嫌が悪い時にやる癖である、語尾を伸ばしたような話し方も出て来ていた
「楽しくない。 バレて変な空気になったら最悪だぞ??
二人ともいい人だから嫌われたくもないし……」
「へぇ~~ッ! ふ~~~んッ!!」
葵が弁明すると、静は更に機嫌を悪くさせ、やたらと語尾を伸ばし、明らかに力が入った様子で答えた。
葵は何故彼女が不機嫌になっているのか、皆目見当もつかなかったが、静の機嫌の悪いまま、そのまましばらく四人での会話は続いた。
丁寧な誤字脱字報告、本当にありがとうございます!
自分でも気を付けてはいるのですが、中々気付かず(泣
それと、気付けばブックマーク250を超えまして、こんなに多くの方に読んでもらえるとは思ってもなかったので、本当に有難いです。
これからも、暇つぶし程度でよろしいので、よろしくお願いします。




