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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
七章 夏休み ~沖縄編 2日目~
141/204

俺より可愛い奴なんていません。7-18

◇ ◇ ◇ ◇


上位3名を発表し、表彰した水着コンテストは、その後、会場の盛り上がりに対して、意外とすんなりと、予定時間を経過させる事無く、あっさりと終了した。


後に会場のステージを使った、別のイベントが控えているとはいえ、会場の盛り上がりから、少し余韻に浸るような形で、参加者に色々と話を振ったり、会場に話を振ったりと、更なる盛り上げ方は様々あったかのように思えたが、そんな事はしなかった。


水着コンテストは、司会が最後にまとめた簡単な総評と、何故か会場から少し離れた、まゆずみの店『BLOOMブルーム』の宣伝を少しして、イベントを締めくくっていた。


あおいを含めた、BLOOMで働く従業員は、そのイベントと全く関係ないBLOOMが紹介されていた事に気づき、黛が明らかに関わっているのが分かった。


そしてそれは、彼女の守銭奴ぶりならば、当然とも言える手回しだった。


イベント会場では、まだまだ様々なイベントが続く予定だったが、イベントの中でも水着コンテストは、人気な大型なイベントであり、それが終わると、会場から離れていく者も少なくは無かった。


葵達も、まだBLOOMの再開店にはまだ時間があったが、それでも、人混みから逃れるように、イベント会場から少し離れた所で、雑談をしながら、余った少しの時間を潰していた。


「いやぁ〜、凄かったな! 水着コンテスト!

どの子も可愛かったし、最高だった……。

見れなかった晴太せいたは可哀想だなッ!

しっかり後で感想伝えてやろうぜ!」


「鬼だな……、お前」


長谷川はせがわは、口では可哀想と口にしていたが、話している様子と口調から、本当にそう思っているとはとても思なかった。


そして葵は、ホテルに戻った後、前野まえのが落胆するほど、楽しそうにこのイベントの事を話す、長谷川はせがわの姿が目に浮かび、イベントを見ることが、できなかった前野を、本当に可哀そうに思えた。


「てゆうか、さっきの美人二人って誰よッ!?」


葵が前野の事を気に病んでいると、長谷川は思い出したかのように、葵に尋ねた。


「は? 二人の美人??」


「ほらッ! 今、黛さんと話してる年上のお姉さん二人組だよ!!」


葵は「誰だ?」と思いつつも、黛の方へと視線を向けると、そこには黛と談笑する、奈々(なな)と香也かやの二人の姿がそこにあった。


水着コンテストを終え、スタイリストの二人は時間が余っているようで、時間を潰すのとせっかくのビーチで、観光スポットでもあるため、黛に色々とおすすめ所などを尋ねていた。


「あぁ~~、奈々さんと香也さんね……」


葵はそういえば、二人の事を長谷川に説明していなかったなと思い出すと同時に、これから自分にとって、面倒な時間が訪れる事になると覚悟した。


「下の名前呼びッ……!?

てゆうか、イベント中もそうだったけど、立花、あの二人と話してたよな?

知り合い!?」


「別に、今日会ったばっかりだよ……、二人とも」


「いや、なんで今日会ったばかりの女性、しかも年上な美人のお姉さんを下の名前で呼べてんだよッ!?

なに? 結構フランクな感じ??」


「知らん……」


葵は長谷川の面倒くささが限界を超え、これ以上話すことは無いと、会話をプッツリ終わらせ、黛の方へと歩いていった。


葵を呼び止めようと、長谷川が少し呼びかけていたが、葵は「帰ったらな」とテキトーに答え、歩みを止める事は無かった。


「お? 葵~~ッ!

もう友達とのおしゃべりはいいの??」


葵が近づいてきたのが分かると、奈々は嬉しそうに気さくに葵に呼びかけ、奈々の呼びかけに反応し、黛と香也も会話を途中で区切り、葵へと視線を飛ばした。


「お疲れ様です……。

特に大した話もしないんで、続きは帰ってからで切り上げてきました」


イベント中もずっと接してきたとはいえ、黛も含めた三人の年上の美女から一斉に視線を浴びると、流石の葵も少し緊張を感じていた。


「今、Bloomの事、聞いてたんだ~~!

葵もお手伝いで働いてるんでしょ?? 後で顔見せに行くね!」


香也も楽しそうに笑顔で、葵にそう呼びかけ、香也の言葉を聞き、葵はまた黛がおすすめのスポットを教えるついでに、自分の店を宣伝したんだなとすぐに分かった。


確かにおすすめスポットには間違いないため、葵はまた宣伝している事を、黛に特に指摘することはなかったが、彼女の隙あらば宣伝をする精神には、執念じみたものすら感じていた。


「あ、そういえば、イベント終わったけどまだ、亜紀あきちゃんとか帰ってきてないね?

他の参加者も見かけなかったし……、まぁ、着替えとかあるとは、思うけどまだ裏で何かやってるのかな?」


奈々はイベントが終わって以降、参加者をまだ一人見ていなかった為、少し不思議そうに、舞台裏付近の様子をチラチラと確認しながら、そう言った。


化粧落としや、衣装の着替えをするのに、スタイリストである奈々や香也が、駆り出されるような雰囲気があったが、有里子ゆりこが激務の中、頑張った二人に気を利かせ、大したことでもなかったため、奈々と香也は舞台裏には戻っていなかった。


戻っていないため状況は、分からなかったが、何かトラブルがあれば、二人に連絡が来るようになっていたため、奈々も香也もそこに不安はあまり感じていなかった。


「あぁ、さっきしずかから連絡があったけど、後5分程で戻れるようになるって、連絡来たよ」


「そっか……、それじゃ特に問題もなかった感じなんだね……」


黛から現状を聞かされると、奈々はほっと息を付くようにして、安心した様子で呟いた。


そして今度は、葵へと視線を向け、奈々にしては珍しく真剣な面持ちで葵を見つめた。


「それじゃ、みんな来る前に、葵に言っとこうと思った事、先に言っちゃうか……。

みんな来てからじゃ流石に、こういう話題にもならないだろうしね!」


奈々の表情は、一見少し微笑んだ優しい表情にも見えたが、その目はただ一点に葵を見つめ、眼差しだけでもその真剣さを感じ取れる程だった。


その視線を受ける葵はもちろん、奈々のその異変を感じていたが、香也もこれから奈々が何を言うのかわかっている様子で、目を閉じ、妙に落ち着いた雰囲気を感じさせていた。


「なんですか?」


奈々と香也の雰囲気に乗せられ、葵も若干緊張を感じながら、奈々の次の言葉を促すようにして尋ねた。


そして、葵の言葉に奈々は一呼吸置くと、ゆっくりと答え始めた。


「葵……。

冗談じゃなく、本当でプロを目指してみる気……ない?」


「え……?」


今まで以上に真剣な眼差しを奈々は、葵へと送りながらその言葉を発し、葵は級の出来事から思考が上手く働かず、思わず声が漏れた。


「別に私たちの事務所に来て欲しいっていうんじゃないの……。

まぁ、本音を言ったら来て欲しいけどね?」


奈々は少し表情柔らかに、微笑みながら、葵にそう答え、再び更に続けて話した。


「ただ、葵のその技術はもちろん、女装をしてきたからならではの斬新な発想とセンスは、目を見張るモノがあるよ?

もちろん、いろんな人生、いろんな選択があるとは思う……。

あんまり、こういう言葉はよくないのかもしれないけど、その才能は活かさなきゃ勿体ないよッ!?」


「奈々~、ちょっと興奮しすぎ~~。

葵にだって何かやりたいことがあるかもしれないんだから……」


「あ……、ごめん、ついね…………」


葵に自分と同じスタイリストの道を歩んで欲しい気持ちが強いせいか、奈々は葵を誘う際に少し熱くなってしまい、今まで話を冷静に聞いていた香也は、釘をさすようにして、奈々にそう告げた。


香也にぴしゃりと指摘されたことで、奈々も過ちに気付き謝罪した。


「でも、奈々の言ってる事も一理あると思う。

私も葵には、この業界に来て欲しいと思ってるよ?

まだ、高校2年生で卒業まで1年半くらいあるし、そんなに急には答えは出さなくていい。

だけど、もし、少しでも気持ちがあるなら…………」


「――――分かりました……、今まで自分の女装の為にしか学んでこなかったし、そんな事を仕事に、将来の夢にしようとも思ってもなかったんで考えてみます…………」


香也の丁寧で落ち着いた口調ながらも、彼女も葵に心の底からスタイリストを、目指して欲しいという気持ちから、僅かに感じられる程度に言葉に熱意を乗せ、葵にそれを伝えた。


香也の言葉と、彼女の表情、また奈々の先程の言葉から、葵は今まで趣味程度でしか、考えていなかったメイクやコーディネートについて、初めて真剣に考え、すぐに答えを出すことは出来なかったが、それでも将来の選択肢として考える事を宣言した。


「別に、私達に遠慮しなくても良いからね?

ただ、気持ちが決まったらコレに連絡して……」


香也は優しく微笑んだ後、ポケットからケータイを取り出し、手帳型のスマホケースのちょっとした収納スペースから、1枚の紙を葵に渡した。


「あぁ、勘違いしないでね? いつもはちゃんとした名刺入れ持ってるんだよ!?

ただ、職業柄、プライベートで急に必要になる時とかあって、一応予備で何枚か携帯ケースに入れてあるの」


香也は社会人として、恥ずかしい所を見られたかのように、慌てて取り繕うように葵に弁明し、葵はその事に関して特に何も感じていなかったが、取り繕うようにそう続けた。


葵は今まで、真剣に話していた香也が慌てているのを見て、自然に笑みが零れた。


「分かりました。

別にまだ社会に出てるわけでも無いんで、気にしないですよ。

気持ちが決まったら、連絡します」


「うん、待ってる……。

別に、この返事が決まってなくても気軽に連絡していいからね!?

聞きたいこととかあれば、全然教えるし……」


香也のそんな厚意に、葵は有難いと感じつつ、「分かりました」と一言答えた。


香也と奈々の話も1度区切りが付き、少し真剣な雰囲気から、再びほんわかとした緩い雰囲気が、その場に漂うと、会話をしていた葵達に、不意に声が呼びかけられた。


「あッ! 黛さ〜〜んッ!! 香也さぁ〜〜んッ!!」


少し離れた所から聞こえてくる呼び声に、葵達は会話を止め、声の方へと視線を向けた。


すると、そこにはイベントを終え、着替えも終わった、BLOOMの水着コンテストの参加者の姿が数名、こちらに向かって歩いてきていた。


その集団の先頭には、晴美はるみの姿があり、こちらに向かって笑顔で手を振っており、その後ろには亜紀やしずかの姿も見えた。


「おッ……、帰ってきたね!」


黛は晴美達の姿を確認すると、笑顔で嬉しそうにそう告げ、こちらに向かってくる晴美達を、その場で待っていた。

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