俺より可愛い奴なんていません。7-16
◇ ◇ ◇ ◇
水着コンテストでの参加者は、全員が発表を終え、イベントは投票へと移っていた。
舞台上には、水着を纏った参加者が全員そろっており、投票の間、司会者が時間を潰すように、時には参加者へ話題を投げかけたりして、場をつないでいた。
投票は原始的だが、紙への記載による集計の形を取っていた。
数え間違えさえなければ、確実な方法であり、なにより勇気を出し参加した参加者への、敬意のあるやり方でもあった。
上位3名のみを表彰で発表し、表彰者には賞金や賞品が、献上される予定だった。
「さて、それじゃあ投票行こうかな~」
誰に票を入れるか決めた観覧者達が投票の為、動き出す中、奈々(なな)は誰に投票するのか決めた様子で、投票用紙を持ちながら、投票する場所へと向かい始めた。
「う~~ん、悩む……」
奈々に続き香也も、誰に投票するのか決めた様子で、投票に向かう中、黛は唸りながら悩んでいた。
「えぇ? 悩む必要あるんですか??」
葵は、黛は純粋にBloomの宣伝を狙い、従業員に票を入れ、繁盛を狙うと思っていた。
「悩む必要あるんですかって……、普通悩みまくりだよ……。
葵達みたいに、技術的に評価することもできないし、どの子も可愛いからホントに迷う……」
「Bloomの店員から選ぶんじゃないんですか?」
「もちろん、基本はBloomで働く仲間を優先して票を入れるよ?
てゆうか、チームBloomから選ぶとしても相当な悩みどころだけどね」
「そうですか……」
葵は内心「葵もBloomの経営繁盛の為、協力して」と言われるかと思ったが、そこまで黛はそれをしなかった。
投票に関しも、Bloomの午後の繁盛の為、身内びいきもありはしたが、なるべく悩み、Bloomとは関係の無い子も選考している様子が見て取れた。
誰に票を入れるか決めていた葵は、少し素っ気ない様子で呟くように答えると、自分も投票に向かうため、歩み始めた。
不意に舞台が気になった葵が、舞台へと視線をやると、丁度司会に話を振られて、その話題に答えようとする椿の事が視線に入った。
椿は楽しそうに笑顔を浮かべながら、司会からの話題に誠実に答えており、葵の視線に気づいたのか、答えながらも人ごみに紛れる葵と目が合った。
葵は一瞬そのことに驚いたが、椿は全く動揺した様子はなく、まるで初めからそこに葵がいる事を、知っていたかのような様子で、器用に質問を返しながら、葵を見つめていた。
「偶々だよな……」
葵が呟くようにそう告げると、次の瞬間葵の疑惑は確信へと変わった。
椿への質問が終わり、司会者はまた別の参加者へと話を振り出し、多く観客の視線が椿から外れると、チャンスとばかりに、椿は葵に向かって目配せをした。
(どこまでわかってて参加したんだ……)
椿は葵が沖縄に来ている事だけを知っており、沖縄で何をしているか、ましてや沖縄に来てまで水着コンテストの観覧をしているとは、絶対に思うはずがなかったが、椿のその目配せから、「すべてを知っているぞ」という雰囲気を漂わせ、葵は自分の妹ながら少し恐怖も感じた。
「な、なぁなぁ、今あの19番のモデルやってる子、こっちにウィンクしたよな?」
「あぁ、俺は見逃さなかったぜ!? あの子が俺にウィンクをするところをなッ!」
「はぁ? 何言ってやがる、俺だろ!」
葵が深刻な表情で思考を巡らせる中、葵と同じように葵の近くで椿の目配せを見た、男性二人組は口論をするように騒いでいた。
◇ ◇ ◇ ◇
観覧に集まった人達の9割ほどは投票を終え、投票時間も来たことで、イベントは遂に投票の集計、結果発表へと移っていた。
全票数は280票程、観覧に来られている人は300人いくかいかないかくらいまで、観覧数が増えていた。
中には投票をしない観覧者達もいたが、それはこのイベントをつまらなく感じているからではなく、ほとんどの者が順位に関係無く、ただ水着を美しく纏う女性たちを見て、純粋に楽しむ人達だった。
高い年齢層の方々がこの層に含まれていたが、それでもほとんどが楽しそうに、時折笑顔を浮かべ、イベントを楽しんでいた。
このイベントが初めてだった葵は、自分の過去の経験もあり投票の集計には少し時間がかかり、結果発表まではもう少し司会による、フリートークで場つなぎが必要かと思っていた。
しかし、葵のそんな考えとは裏腹に、ステージ上に一人のスタッフが颯爽と現れ、司会の女性に一枚の紙を渡すと、すぐにステージ上から捌けていった。
なんでも経験しているイベントという事もあり、毎年行う作業には慣れており、葵の思った以上のスピードで、運営は集計を終えていた。
「はいッ! それでは集計終わりましたので、結果発表に移りたいと思います!!」
先程のスタッフが渡した紙は、本大会の結果が記載された紙であり、司会はそれを確認しながら高らかに、宣言するようにして声を上げた。
スタッフが舞台裏から現れた時点で、会場はいよいよ結果発表かと、歓声などはなかったが少し空気が、浮ついたような雰囲気になっており、司会が宣言したことにより、観客のボルテージはより一層高まった。
「いよいよだね~~!」
観客の声援に合わせて、奈々も「早く結果を!」と心待ちにしている様子で、声には期待感と高揚感を、感じさせながら呟くように声を上げた。
「自分の中では色々と予想はできたりはするけど、誰が優勝するかなんて、ほんとに分からないからねぇ~」
「香也さんでも予想外れたりするんですか?」
葵は技術に関しても、イベントを見ている時も、葵では気づかなかった着眼点で、色々と評価をしてきた香也が、予想を外すことがあるとは思っておらず、少し驚いた様子で香也に尋ねた。
「するする~! 前評判はもちろん、全員の発表を終えた後の予想でも、外れるときは見事に外れるからねぇ~。
ほんとこういうコンテストは何回経験しても、ドキドキ、ワクワクするものだよぉ~!」
「そうですか……」
葵は目を爛々と輝かせる香也を見て、「そういうものなのか」と納得し、再びステージに視線を向けた。
「それではッ! 早速ですが、3位からの発表です!!
水着コンテスト3位に輝いたのは、この方ッ!!
エントリーナンバー8番ッ! 清水 亜紀さんです!」
司会の発表により、会場はこれまでにない程の歓声に包まれた。
葵や香也は、亜紀の雰囲気は観客に受け入れられ、背も高く、プロモーションも抜群なためか、少し主張の強い、異性に高圧的な美を、感じさせやしまいかと、心配していたが、亜紀の美しさは観客にも受けいられ、票数を獲得し3位へと輝いた。
発表された亜紀は、自分が選ばれると思っていなかったのか、目を丸くさせ、驚きのあまり一瞬固まっていたが、だんだんと思考が追い付いていくように、状況を理解し始め、自分が選ばれたと完全に理解すると、顔を赤らめ、恥ずかしそうな様子で、笑顔で称賛を受け入れていた。
今まで、コーディネートも彼女自身も大人っぽい印象だったため、称賛され恥じらう姿は印象的で、子供っぽい一面も覗かせていた。
「あぁ~~、亜紀ちゃんその表情は、本番にやってくれればもっと上を狙えたやもしれないのにぃ~~」
亜紀の恥じらう姿を見て、亜紀を担当した奈々は、また新しい魅力を、結果発表の際に魅せる亜紀を見て、少し悔しそうに呟いた。
「まぁ、亜紀ちゃんあんまりこの大会に乗り気じゃなかったし……。
最後に笑顔が見れただけでも良しとするかッ!」
悔しそうではあったが、亜紀が結果を聞き笑顔でいる所を見て、奈々は満足した様子で声を上げ、彼女の表情は清々しい表情を浮かべていた。
「清水さんは凄いですねぇ~。
上位三組の中でも、女性の投票が一番多いです!
まぁ~、やはり、カッコ美しいですからねぇ~、ちょっとこの美しさは憧れます!」
司会は紙を見ながら票数を確認し、亜紀の事についてコメントを残した。
「清水さん! 3位に選ばれましたけど、今のご感想をいただいてもよろしいですか?」
「はい……。
少し、恥ずかしいですけど嬉しいです」
司会の質問に、亜紀は普段では見られない、恥じらいを見せながら、それでも嬉しそうに質問に答えていた。
乗り気でない亜紀を葵は見ており、順位に関しても無頓着のようにも思えたが、やはり、女性として美しいと評価されて嫌に思う女性はおらず、いつもは高校生には思えない、落ち着いた大人っぽさを見せる亜紀が、年相応の可愛らしい女性に見えていた。
「ですよね~、やっぱり嬉しいですよね~。
メイクやセットアップが終わった時、初めて鏡に映る自分を見てどう思いましたか?」
「ビックリしました。
まだ学生なので普段あまりメイクをしないので、ここまで変わるものなのかと……。
スタイリストの奈々さんには感謝しています」
司会の質問に亜紀は恥じらいながらも丁寧に答え、真摯な態度からその答えは彼女の本心を、そのまま言葉にしていると、聞いている葵達にもよく伝わった。
「亜紀ちゃ~~んッ!!
私も楽しかったよぉ~~ッ!! ありがと~~ッ!!!」
亜紀の答えに歓喜余ったのか、亜紀の応答に静かに耳を傾ける観覧客の中、大きな声で、離れたステージに立つ亜紀にしっかりと聞こえるように、奈々は叫んで感謝を伝えた。
その奈々らしい行動に、ステージに立つ亜紀は一瞬驚いた表情を浮かべていたが、すぐにそれが自分のメイクを担当した奈々だとわかると、奈々に応えるように、ニッコリと笑みを浮かべた。
「ハハハッ! 会場からも熱い声援が飛んできたところで、続いては2位の発表に移りたいと思います。
亜紀さん、どうもありがとうございました!」
司会は質問に答えてくれた亜紀に感謝の意と、軽くお辞儀を交わすと、次の発表へと移った。
「それでは! 続きまして2位の発表です!!
エントリーナンバー15番 小竹 静さんです!!」
「んなぁぁああ~~ッ!! 静2位かッ!!」
司会の発表で盛り上がる会場の中、静の名前が呼ばれたと同時に、葵の隣で見ていた黛が悔しそうに、声を上げた。
「いやぁぁ~~、2位でも凄いよ!? なんなら今呼ばれてる子は、全員チームBloomだしね!!
でもやっぱり静には、二連覇してほしかったなぁ~~」
「確かに、Bloomで働いてる子しか呼ばれてないですね……。
八百長ですか??」
「違うわいッ!!」
悔しがる黛に、追い打ちをかけるように葵が呟くと、黛はそれを全力で否定した。
「小竹さんは素晴らしいですね~~!
去年に引き続き今年も表彰です!!
今のお気持ちをお聞かせいただいてもよろしいですか?」
「はい、去年もそうだったんですけど、こんな風に表彰いただいて、とても嬉しいです」
静は少し恥じらいながらも、昨年の経験もあってか、亜紀よりは緊張していない様子だった。
「昨年は、優勝でしたもんね~~!
今回、惜しくも優勝を逃してしまいましたけど、そちらについてどう思いますか?」
「少し悔しい思いというのも確かにあるのですが、それよりも昨年に引き続き、賞に入れて嬉しいという気持ちの方が大きいですね」
「何たる模範解答…………」
司会と静のやり取りを見ていて、静の場慣れぶりに、奈々は感心した様子で呟いた。
「静真面目だね~~。
もっと、年相応の喜びや恥じらいを見せてもいいと思うんだけどね~~」
奈々の意見に賛同するように、黛も舞台に立つ静を見つめながら、物思いに耽る様子で答えた。
静を見守るようにして、舞台を見つめる奈々と黛の中、葵は少し難しい表情を浮かべていた。
「ここで小竹さんの名前が呼ばれるのか……。
まぁ、正直3位の結果が清水だったことで、予想は外れてたんですけど……、これ1位どうなりますかね?
やっぱり、椿がくると思います??」
「う~~ん、どうだろうか?
まぁ、順当にいけば、実績のあるプロの椿ちゃんだと思うよ?
ただ、私的に晴海ちゃんが賞に引っかからないのも気になるんだよなぁ~~。
普通にレベル高いし……」
「そうですよね……」
葵の呟きに香也が反応し、香也もまた悩むように唸り、この先の結果が見えていない様子だった。
奈々も香也も葵も、前評判では椿が優勝するだろうと思っていたが、全員が賞に入ってくるだろうと、思っていた晴海が入ってきていないことで、自分たちの予想にあまり自信を持てていなかった。




