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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
七章 夏休み ~沖縄編 2日目~
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俺より可愛い奴なんていません。7-13


しずかの登場と共に、過剰のボルテージは上がり、会場は彼女の登場を待ちわびていたかのように、歓声に包まれた。


観覧の中には、静の名前を呼ぶ者が多く見受けられ、その中にはまゆずみの姿もあった。


「流石に地元からの出場な事もあって、応援がすごいですね……」


あおいは今までこのイベントを見てきて、地元の方が参加しているのも知っており、そのたびに歓声が上がる事を、承知しながら見てはいたが、静への歓声は思った以上だった。


「そりゃそうだよッ!

静はウチでも人気だしねぇ~」


「黛さん、なんか如何わしい店で働くお嬢みたいな紹介ですね……」


黛が自分の事のように自慢げに話すと、それを聞いていた香也かやは、苦笑いを浮かべながら、少し可哀そうな言い方をされている静に、同情しながらそう告げた。


黛達は会話をしながらも、会場からは一切視線を外す事無く、会場に現れた静に目を向け続けた。


「いやぁ〜〜ッ、今年もこりゃ静が優勝貰っちゃうかもなぁ〜〜ッ!」


黛は少し身内贔屓な所もあったが、静の優勝は十分に考えられた。


それ程までに、静のレベルは高かった。


「今年も?」


黛の言葉に葵あおいは引っかかり、つい視線を静から外し、黛の方へと視線を向けて尋ねた。


「あれ? 言ってなかったっけ?

静は去年のこのイベントのチャンピオンだよ??」


「はぁ〜ッ!?」


葵は去年静が出場していた事は知っていたが、結果までは知らなかったため、驚いた声を上げた。


それと同時に、葵は彼女のコーディネートをしていた時は、まるで思わなかったが、今になって少し緊張に似た感覚を感じ始めていた。


そんな葵の心を見透かしてか、今度は奈々(なな)が葵に声を掛けた。


「アハハハ〜〜……、葵、これはプレッシャーだねぇ〜〜!」


去年優勝していたという事もあり、静の優勝の確率はかなり高く、もし今年、静が優勝出来なかったとした場合、コーディネートが悪いという風になりかねなかった。


勿論、静も含め葵の担当した参加者は、奈々や香也に負けず劣らずの出来栄えではあった。


もし、静が優勝しなかったとしても、葵を責めるような人は誰一人として出てこないのは、分かりきっていた事だったが、それでも前回優勝していたということもあり、葵はそれを気にせずにはいられなかった。


「もっと色々した方が……。いや、アレでいい……あれ以上は思いつかなかったし、気を狙って滑った方がしんどい…………。

いやでも……」


「あらら、自分の世界に引きこもっちゃったよ……」


今になって葵は後悔等、色々思うところが出てきて、1人ブツブツと話しながら反省を始め、そんな葵を尻目に奈々は、苦笑しながら半ば同情気味にそう呟いた。


そんな二人のやり取りを聞きながら、黛は舞台で司会からの様々な質問に答える姿を見て、違和感を感じた。


「ん? あれ?? あの子、髪が短くなった??」


静の姿を初めて見てから、黛はずっと終始違和感のような物を感じていたが、それがようやく何なのかは分かり、答え合わせをするように、葵達に尋ねてきた。


「おぉッ! よくわかりましたねッ!

あれはウィッグですね!」


黛の指摘に奈々が反応し、一人自問自答を始めた葵に代わり答えた。


「やっぱりねぇ~~。

でもなんでウィッグ?? いや、まぁ、確かに可愛いけどかの髪型は……」


静の髪は首元、鎖骨等へんまでのいわゆるミディアムヘアの長さだったが、今の彼女の髪はもう少し短く、耳下あたりまで伸びたショートヘアだった。


全体的にパーマを当ててあり、ふわっとした仕上がりのショートボブで髪型はセットされており、活発そうな彼女の魅力をより引き出すアクセントになっていた。


「いやぁ~、でも、よくあんなウィッグなんて使おうと思ったね~、葵。

全然思いつかなかったよぉ~、てゆうか、あんなウィッグあった??」


「え? 普通に奈々さんと香也さんが持ってきた物の中にありましたよ?

まぁ、パーマは当てがってなかったですけど……」


静のコーデを改めて見て、奈々は感心するように声を上げ、奈々に問われてようやく自問自答から解放された葵は淡々と答えた。


「えッ!? あれ、当ててなかったのッ!?

えッ!? えッ!? あの短時間でどうやって……」


葵の何気ない発言に、今度は香也が反応し、驚きを隠せていない様子で葵に尋ねた。


「まぁ、あれくらいの軽い感じだったら、そんなに手間はかからないですよ?

コミケのコスプレじゃあるまいし、そんな派手にパーマも当ててないんで……」


「いやいや、結構凄いよ……、あれ……」


ウィッグの扱いに関しては、葵の専売特許であり、葵が趣味で女装をしていく中で、身に付けた技術だった。


スタイリストの中でもウィッグを加工する者もいたかもしれないが、それは希少であり、奈々と香也にとって葵のその技術は目を見張るものがあった。


「いやぁ~、ホントに葵をウチの事務所で雇いたいよ~~。

あの、静ちゃんのメイクもばっちりだしねッ!」


奈々はそう告げながら、今度は静のメイクへと話題を逸らした。


「うん、わかってはいたけど上手いよね……。

メイクはあくまでも素材を際立たせるもののように使って……、女性の魅力の引き出し方を分かってるというか。

葵って女の子じゃないよね?? 心も大丈夫??」


「大丈夫です、オカマじゃないですから……」


香也は葵の事をオカマなのではないのかと、心配になってきており、香也の心配する言葉に葵は少しムッとしながらも、何気ない様子で返事を返した。


葵の施したメイクは、そこまで濃く仕上げてはいなかったが、ポイントポイントで印象付けさせるようなメイクを施しており、可愛らしさを前面に出したメイクとなっていた。


頬には薄く明るいピンクのチークが入れられ、唇も明るい色で色を入れてあり、静はスッピンでもかなりの美人であったが、そのメイクの一つ一つが静の魅力をより引き出させた。


「いやぁ~、こりゃ誰が優勝か益々わからないねぇ~」


「そうだねぇ~、最初から結構競ってるとは思ってたけど、私も今のところは候補は3人くらいかなぁ~」


心の底から楽しそうにイベントを見ている奈々が呟くと、香也も反応するようにして答えた。


「えぇ? 香也は候補3人なの??

話の流れから、てっきり香也も晴海ちゃんと静ちゃんが、優勝候補として見てるんだと思った……。

あと一人は誰?」


「あ、あぁごめんごめん。

確かに今のところは、私もその二人のどっちかなんじゃないかな?って思ってるよ!」


興味深そうに奈々は尋ね、黛も葵も香也の話には興味があったため聞いていると、香也は申し訳なさそうに告げた後、少しどこか自慢げに、続けて話し始めた。


「まぁ、この後に控えてる子がちょっと面白いから、その子の発表次第で結構二人の意見も変わってくるかな~?とは思うけどね」


「それって、もしかして19人目の人ですか?」


葵は3人で、18人の参加者をコーディネートし終えた際に、香也がここまで自信ありげに参加者を推しているところをあまり見なかったため、必然的に19人目の飛び入りしたとされる、参加者を推しているのかと考えた。


「うん! きっとみんな気に入ると思うよ~!」


笑顔で香也はそう答えると、視線を舞台に戻し、その横顔はどこか期待感溢れる表情に満ちていた。


葵と奈々は、お互いに顔を見合わせ不思議そうに首を傾げた後、香也に倣うようにして、舞台へと視線を戻した。


◇ ◇ ◇ ◇


ミスコンの参加者の発表は、18人目を終え、ついに19人目の最後の発表へと移ろうとしていた。


19人もの参加者を一斉に評価するのは、一般人にとって、すこし大変なところもあったが、司会進行と一人あたりの紹介時間の長さ、それ以外にも様々な工夫により、観覧者がダレる様なことにはならなかった。


「いやぁ~、いよいよ最後かぁ~。

こうしてみれば一時間でもかなり濃い時間だったなぁ~~」


「そうですね……。

お店の開店の時間もありますんで、時間通りに進んでくれてよかったですね」


18人目の発表が終わると、黛は一息つくようにして、両手組みながら大きく伸びをしながらそう告げ、葵は再びケータイを取り出し、時間を確認しながらそう答えた。


「それが一番ありがたいよぉ~~。

有里子ゆりこさんにはホントに頭があがらないね!」


黛はくしゃっとした清々しい笑みを浮かべながら、そう答え、黛がその言葉を言い終えると、舞台の方から司会の声が響いてきた。


「以上エントリーナンバー18番ッ!

里中さとなか 知由ちゆさんでした!!」


司会がそう告げると会場は、今まで通り、出場した彼女に称賛の声と拍手を送り、発表を終えた女性は、舞台端へとはけていく。


「とても可愛らしくて、少しお茶目なところが一面がまたよかったですねぇ~~!

それでは、最後となりますッ!!

エントリナンバー19番のご紹介です!!」


司会もまたいつものように、去り行く発表を終えた参加者に簡単な総評を述べると、すぐさま次の発表者への紹介へと移った。


司会の言葉に、最後という事もあり観覧の者達は気が引き締まり、葵達もまた例外でなく、最後の参加者の登場を真剣な眼差しで見つめた。


「本来は18人の参加者で、終わる予定だった本イベントでした。

しかし急遽、参加を申し入れ、イベント中にメイク等を仕上げる異例の事態にはなりましたが、何とかコーディネートを終えることができました!

聞くところによると海外で、モデル雑誌に取り上げられたこともある女性だそうですッ!!」


「うわッ!! 本業の人かぁ~!!

こりぁキツいッ!!」


司会の言葉で会場の期待値が上がる一方、チームBloomで優勝を狙う黛は悲痛な声を上げた。


そんな黛を奈々と香也は、気の毒そうに苦笑いを浮かべながら見つめ、葵も黛を気にかけながらも、司会の言葉にどこか違和感を感じた。


その違和感がなぜ感じているのかわからなかったが、良い事か悪い事か、どちらにせよ何かが起こるような、そんな胸騒ぎを感じた。


そして、葵のそんな心情は、司会に知られるはずも無く、時間制限というものもあるため、お構いなしに進行を進めていった。


「どうやら、本日も日本のファッション雑誌の撮影に来られたんだとか……。

それでは紹介したします!

エントリーナンバー19番! 立花たちばな 椿つばきさんですッ!!」


「え…………」


司会の勢いの良い言葉を聞き、葵は驚き、思わず声を漏らしたが、その声はすぐさま周りの観客の声援にかき消された。


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