俺より可愛い奴なんていません。7-11
ホテル『Luna』前 水着コンテスト イベント会場。
派手な音楽と共に、イベント舞台には一人の女性が現れた。
現れたその女性は美しく、このイベントの常連である者達は、彼女の事を知っている者も多く、観覧の中には舞台の上に立つ彼女の名前と思われつ単語を叫ぶ者も多くいた。
人気のある彼女は、今回のイベントの司会、進行役として、舞台に立っていたが、彼女の美しさから、初見で見ている者達の中には、彼女が自分の紹介を始めるまで、既にコンテストがもう始まっているのかと、困惑する者の姿もあった。
司会役の女性は舞台の真中へと立つと、意外と簡単に自己紹介を済ませ、すぐにみんなの期待しているコンテストの方へと進行していった。
そして、コンテストは中盤へと差し掛かっていた。
「参加者の割に、コンテストの時間があまりないなとは思ってましたけど、意外とすんなり淡々と進んでいくんですね」
コンテストを始めから見ていた葵は、呟くようにして隣に立つ黛にそう尋ねた。
「そうねぇ~、進行は毎年こんな感じよ?
参加者も多いからあんまり一人一人の紹介に時間も掛けられないし、それに、律義に長々とやったらみんな飽きちゃうでしょ?」
「あ~~、まぁ、確かに……」
黛の話を聞き、前者の理由は葵も思っていたが後者の考えはあまりなかった。
葵自身は趣味の関係もあり、割と長い間紹介等に時間を取られても苦痛ではなかったが、一般的に考えれば、確かに飽きる人は多そうに思えた。
「それより、葵ッ!
今のところ誰が有力?」
「またその話ですか?
正直あんまり順位とかは興味ないんですけどね……」
乗り気の黛に対して、葵は表彰結果等にはあまり興味がなく、少し面倒くさそうにしながら、そう答えた。
「えぇ!? 意外……。
とうゆか、葵は順位とかそういうの気にするんじゃないの??
なんだっけ……、ほら……、あの、学祭?
あれで、ミスコンとかやった時に結構盛り上がったんじゃないの??」
「なんでそんなこと知ってんすか…………」
葵は内心どうせ、また誰かが女装の時と同じように、黛に話をしたのだろうと内心思いつつ、呆れたようにため息交じりに呟いた。
「美雪ちゃんに聞いたよ!」
「またか…………」
「ねぇねぇッ、なんで興味ないの?」
再び情報漏洩元が美雪だと知らされると、葵はより一層深いため息を付き、そんな葵を追求するように黛は続けて尋ねた。
「なんでって言われても……。
まず、俺が出てないですし、綺麗なのは大前提として、良さっていうのは人それぞれでしょ?
この人の場合はここがいいとか……。
順位に拘らないわけじゃないですけど、こういう大会とかイベントとかでは、どちらかというと、その人の武器みたいのものを、見ることの方に集中しちゃいますかね……」
「すごく意外ッ。
相対的に見るんじゃなくて、その人個人として評価してるわけねぇ~~」
「見本にするとか、そういうつもりの部分もありますけどね……」
黛は他の人からからの葵の話や、自分が接してみて感じた印象から、勝ち負けに拘ったりするのかと思っていたため、葵の意見は意外に感じていた。
「うんうん。それを踏まえた上で、葵はどう思う?
今のところ誰が有力候補かな??」
黛の切り返しに、葵は今までの話を聞いていたのかと言わんばかりの唖然とした表情で、黛を見つめたが、黛は笑顔を崩さず、その姿勢から答えるまで一生聞かれると直感で感じ取った。
「どうですかね……。
今のところで言えば、2番と7番はいいんじゃないですか? 後、清水あたりかな……。
正直好みになるんで当て、にしないでくださいね?」
「当てにするするぅッ!!
なんたってプロと仕事してるわけだし!?
それになにより、候補の中にチーム『Bloom』の二人がいるしッ!!」
別に葵は黛の機嫌を取るために、答えたわけではなかったが、葵の候補の中に亜紀ともう一人のBloomの店員がいたことで、黛は嬉しそうにテンション高くそう答えた。
「おッ、葵は2番と7番……それと8番の子か……。
なるほどねぇ~~」
黛と葵の会話が聞こえたのか、近くにいた葵と共に参加者のコーディネートをした奈々(なな)が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら楽し気い会話へ入ってきた。
先程、有里子に呼ばれ連れられた香也はまだ帰ってきてはいない様子で、奈々は大会を難しい表情を浮かべて見たり、時折、葵に会話を持ち掛けて生きたりしていた。
「あ、えっとスタイリストの奈々さん?」
「はいッ! さっきは葵を貸してくれてありがとうございます!
凄く助かりましたよ!」
会話に入ってきた奈々だったが、葵と話す黛とはまだ会話が無かったため、お互いに簡単にあいさつを済ませた。
奈々は屈託のない笑顔で、黛に葵を手伝いにつれて、来てくれた事について礼を述べていた。
そのまま二人は軽く社交辞令の混じった会話を繰り広げていたが、奈々も黛も明るい性格で、歳も近く、似ている部分も多かったため、打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
「奈々さんはどう思います?
今の段階で」
お互いに社交辞令を済ませると、黛は葵と先程まで話していた無いように話題を戻し、奈々に尋ねた。
「私は2番、5番、8番が今のところは、頭一つ抜けてる感じがしますね!
葵、2番のあの子って葵が二人目に担当した女性でしょ??
あの感じで大人っぽく仕上げたのはナイスだねッ!」
「まぁ、あの女性は特徴が顕著に出ていたので……。
やりやすかったですし、何を強く印象付けさせればいいか、すぐに分かりましたから……」
奈々も葵も共通で現状で優勝候補に挙げていた二番の女性は、葵が二人目にコーディネートを施した女性だった。
葵の担当したその女性は、普段普通にしている時はとても色っぽく大人な印象を感じる女性だったが、笑うとどこか可愛げのある表情になる女性だった。
そのため、葵はわざと素の表情で魅力的に見える方の印象を強くするのではなく、笑顔になった時に、彼女の幼さが少し出てくるような、そんな可愛らしい愛嬌が出るようなメイクを、施していた。
葵は自信はもちろんあったが、不安もあったため、奈々に評価されたこと素直に嬉しく感じていた。
「あの子のメイクしてる時、葵ちょっと緊張解れて楽しそうだったもんね?
もしかして、惚れちゃったり??」
「そんなわけないですよ……」
奈々は楽しげにニコニコと葵をおちょくるようにして葵に尋ね、葵は内心、面倒なのがもう一人増えたと思いながらも、奈々に返事を返した。
「てゆうか、香也さんは?
遅くないですか??」
葵はこのまま絡まれても面倒だったので、話をわざと逸らすようにして、奈々に尋ねた。
「う~ん? そういえば遅いねぇ~~。
もう終わっててもいい時間だと思うけど……。
ナンパされてどっか連れられちゃったかな??
香也はちょろいからなぁ~~」
葵が尋ねると奈々は辺りをキョロキョロと見渡し探すような素振りをみせた後、冗談っぽくヘラヘラと笑いながら答えた。
奈々が香也がいないことをいいように、テキトーな事を答えていると不意に、どこからともなく女性の声が、投げ掛けられた。
「奈々ぁ~~、またテキトーなこと言ってぇ~~ッ」
急にかけられた声に、葵達が声の方へと視線を向けると、明らかに不満げな表情を浮かべた、香也の姿がそこにあった。
「あ、か、香也……、いたの?」
「今来たのッ!
で? さっきの冗談は何??」
「いやぁ~~、まぁ~ね?」
香也の圧に負けるように、奈々は歯切れ悪く返事を返すことしかできなかった。
「まぁね? じゃないわよッ!」
「だ、だってッ! ホントの事じゃん~~。
仕事でアメリカに行った時だって、黒人さんにナンパされて、「見た目は少し怖いけど、話すと優しい?」とか言って、ナンパに引っかかってたし……。
プライベートに韓国に行った時だって……」
「あ、ちょッ!! それ、今言う事ッ!?
奈々だって芸能人のスタイリスト担当として仕事で海外に行ってるのに、クラブとかに夜繰り出してたでしょッ!?」
「でもナンパには引っかからないもんッ」
奈々と香也のどっちもどっちな会話に、黛は苦笑いしかできず、葵は呆然と言い合う二人を見つめる事しかできなかった。
二人とも凄い腕を持ったスタイリストには、かわらないことを、一緒にメイクをした葵は知ってはいたが、二人の話はスケールが大きく、住む世界が違いすぎる感じもしていた。
二人の会話はどんどんとエスカレートしていき、イベント会場という事もあり、周りに人も多くいたため、二人は次第に周りから視線を集め始めていた。
そのことに気付いた葵は、今まで呆然と二人を見ていたが、我に返り、その場を収束させるため、声を上げた。
「そんなことより、香也さん。
遅かったですね? なんかあったんですか??」
葵はそこまで気にはなっていなかったが、すぐに思いついた話題がそれだったため、香也に尋ねるようにして話を振った。
「んん? あ、えぇ~と確かにちょっとかかったかも……」
奈々と話題がヒートアップし始めていた香也だったが、葵の声には反応し、少し落ち着きながら、葵の質問に答えた。
「一人じゃなかったんですか?」
「いや、一人一人!
ちょっとこだわりの強い子でね?
結構苦戦しちゃった、へへへッ……」
葵は香也の話を聞き、香也の腕前も知っていたため、香也が苦戦したと言った女性には素直に興味が出た。
「時間的にも参加の順番的にも、発表の順番を繰り上げて、早々に出てくることはないと思うから、多分トリでの発表になるかなぁ~~。
まぁ、本人はもっと早く出たがってたけどねぇ~~」
香也は少し苦笑いを浮かべつつ、その時の事を思い出しながら話した。
「ふ~~ん、香也がそこまでいうとはねぇ~~。
ちょっと楽しみかも」
「綺麗な子だったよ? 期待していいと思うよ!!」
奈々と香也のそんな会話えを片耳で聞きながら、葵は再び水着コンテストのステージへと視線を戻した。




