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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
七章 夏休み ~沖縄編 2日目~
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俺より可愛い奴なんていません。7-9

◇ ◇ ◇ ◇


あおいしずかの担当になり、作業を始めて数分が経過した。


髪のセットももう仕上げに入っており、葵はそろそろ三人目の参加者である、静のコーディネートを終えようとしていた。


髪をセットしている間にも、葵は静に聞かれたことについて真摯に答えていた。


静からの質問のには、静が葵の前から姿を消した後の話を中心的に聞かれ、静はそれを黙って聞いていた。


静にとってはもちろん、葵にとってもあまりいい思い出ではなく、暗い話が続いていたが、その話を聞いている中で、静の表情はとても穏やかだった。


「ふ~ん、それじゃあ、葵のその女装は、私が転校してからするようになったんだ……。

なんで? 確かにらんさんは、スタイリストになるって、いろいろ勉強してたけど、葵はそうじゃなかったよね?

当時興味もなさそうだったし……」


「それは、まぁ……、なんというか…………」


静と葵の話題は、ついに葵の女装をした経緯についての話に変わり、葵はこの話をすることになるだろうとは覚悟していたが、いざ話すとなると言葉に詰まっていた。


「もう、別に隠すことじゃないでしょ?

別に笑ったりしないから!」


葵の姿を鏡越しに見て、ニコニコと笑顔を浮かべながら、葵に言葉を促すようにそう告げた。


「別に隠してるわけじゃねぇよ……。

はぁ……、まぁ、なんといか最初は憂さ晴らしみたいな理由だったんだ」


「憂さ晴らし? なんのよ」


葵の話を楽しそうに聞く静は、笑わないと告げてはいたが、時折笑い声を挟みながら葵の話を聞いていた。


「ちょっと、嫌な女子がいてさ。

そいつに復讐みたいなのをしようとしたのがきっかけ……。

ウチの家系が美人顔多いから、女装してみたら意外とハマって、そこからまぁいろいろ……」


「いろいろって?」


「いろいろはいろいろだよ。

その嫌いな女子が狙ってた男子を誘惑して落としたり……、彼氏誘惑して落としたり」


葵は昔なじみの友人である静には、あまりにも女装の事に関して話ずらく、具体的なことはあまり答えることができなかった。


「えぇ~~、なんというか最低な趣味を……」


「いろいろあったんだよ、もうこれくらいでいいだろ?

女装についてはほっとけッ……」


この話題をこれ以上話すことを耐え兼ねなくなった葵は、ギブアップを告げるようにそう言い放ち、嘘をついてはいなかったが、女装を始めた本当の、核心たる理由については、結局のところ話すことができなかった。


昔仲良くしていた異性の友人が、少し合わないうちに、変な趣味を覚えていた事を知った静は、当然ショックは感じていた。


だが、それを理由に葵を嫌いになったり、軽蔑したりといった事はなく、女装をする葵からは違和感は消えなかったが、それでも昔と同じように、会話を交わすことができていた。


そしてなにより、静は葵が女装に目覚めたという事を知り、自分の中で、昔のように接することが、出来ないのではないかという不安も抱えていたため、葵と普通に昔のように会話をできたことは、素直にうれしくも感じていた。


「ほんと、最初に女装している葵の姿を見て、その後に他の人からあれは葵だと教えられた時は、何事かと思ったよ……。

数年ぶりに会っていろいろ話せるかなとか、考えてたけど、前と同じように話せるのかの方が気がかりだったし……」


「まぁ、それについては悪い……」


「心は男の子だっていうのもわかったしねッ」


静の感じていた不安を始めて葵は知り、申し訳なさそうに葵が謝ると少し暗い雰囲気になっていた。


そんな雰囲気を吹き飛ばすように、静はニヘラっとしたいやらしい笑みを浮かべながら、葵をからかう様にそう告げた。


静は葵に遠回しに、オカマになってしまったのかと思っていたと、言っているようにも見えて、葵はそんな姿に若干イラつきを感じていた。


「お前だって、初めて見た時、見た目じゃわかんなかったぞ?

そんな黒ギャルみたいに焼けて……」


「黒ギャルじゃないよッ!! ホント、デリカシーないところは相変わらずだね?」


反撃と言わんばかりに葵が告げると、静はその可愛らしい頬を膨らませ、ムッとした表情を浮かべながら言い返した。


今まで何度か言葉を交わしてきた二人だったが、こんな何気ない言い合いが、一番昔のような懐かしい感覚を思い出せていた。


「デリカシー無いわけないだろ。

今じゃ、お前よりもモテる自信があるしな」


「えぇ~! 見た目だけでしょ??

葵のその空気の読めなさは筋金入りだよ……、女心もわからないハリボテ女子だね。

女じゃないけど」


意地を張る葵に対して、静は楽しそうにケタケタと笑いながら答えた。


「いや、男を落とすために勉強してた事もあるから、わかるね」


「勉強ぉ~? そんなに言うなら試してみようよぉ~。

女心がわかるクイズみたいなのがあるからやろ~よ!」


静の言うそのクイズに葵はすぐにピンときた。


「またそれか! 流行ってるのか知らないけど、あんなのあてになるかッ!」


「えぇ~! 流行ってるんだからそれなりに当たるんだよ!

……もしかして? 経験者?? どうせ酷い点数だったんでしょ??」


葵が思い出したのは、桜木さくらぎ高校のミスコン優秀者と北川きたがわ等といったカラオケで、加藤かとう あや二宮にのみや 紗枝さえ達にやらされた女心をどれだけわかっているのかを判断するというクイズだった。


静の読み通り葵の回答は散々なもので、女子から、主に綾から顰蹙を若干買っていた事があった。


そんな昔を思い出せるような会話をしている内に、葵は静の髪のセッティングを終え、静のコーディネートを完成させた。


「ほら! これで終わり」


葵は静の会話を名残惜しく感じがらも、用もないのにこのまま静を座らせ、会話をすることもできなかったため、照れ隠し半分に、「さっさと行け」といったような、そんな様子で静に伝えた。


「おぉ、終わりかぁ~。

意外と速いね! あっという間だぁ~」


「一人最低でもこれぐらいの時間で終わらせなきゃ、イベントに間に合わないからな……」


「あ~、まぁ、それもそうだね……」


静はそう呟いた後、鏡に映る自分の姿をもう一度確認した。

「うん、流石だね」


「そりゃどうも……」


鏡に映る自分の姿を見て、静は満足したようにそう告げた。


葵はやっぱり自分のメイクを褒められる事を、純粋に嬉しく感じたが、それを悟られるのも心外だったため、まったく気にしていないような様子で、そっけなく答えた。


「はぁ~、なんで私の友人はこんなことまで、できるようになってしまったのやら……。

あたしがやるよりうまいし……」


「あたりまえだろ? 経験が違う。

明日もセットしてやろうか??」


ため息交じりに話す静に、葵は先ほどのお返しと言わんばかりに、嫌味っぽく静にそう告げた。


「もういいよッ!!

大体メイクの時、はずいんだよ……、もうッ……」


葵の煽りに静は怒りだし、席を立つとそのまま、ぶつぶつと文句を垂れながら、参加者が集まる方へと向かって歩き始めた。


葵はそんな拗ねた時に、昔からやっていた彼女の癖を見つけ、懐かしくも思いながら、視線を外し、最後の参加者を迎える準備を始めた。


◇ ◇ ◇ ◇


「はぁ~~~~~ッ! やっとおわったぁ~~~!」


午前11時50分。


イベント開始まで10分を残し、葵とスタイリストの奈々(なな)と香也かやは、全ての参加者のコーディネートを終えていた。


全てが終わると、奈々はやっと解放されたと言わんばかりに、疲労した様子で、大きく声を上げた。


「ねぇ~! ホントしんどかったよ……」


奈々の声に反応するように香也も、同意するように答えた。


奈々も香也も、南の島という事もあったが、体を動かしたため体力を使い、汗をかくており、時には額の汗を拭うような動作をしていた。


「葵ちゃん~、ホントありがとねぇ~~。

すごく助かったよぉ~!!」


「いや、俺は二人に比べれば担当した人は少ないので……」


奈々は本当に感謝している様子で葵に告げたが、葵からすれば二人よりも担当した人数が少ないため、自分の仕事に満足はしていなかった。


結果からすると、奈々は6人の参加者を、香也は5人、葵は4人の参加者のメイク、髪のセットを終えていた。


序盤は完全に二人のスピードに付いて行けずに、彼女たちが二人の参加者を仕上げている時間に、葵がようやく一人目の参加者を仕上げるといった形だった。


ただ、回を重ねるごとに葵のスピードは上がっていき、本来のペースであれば三人程しか担当できないはずであった所を、何とか4人担当することが出来ていた。


「そんな謙遜することないよぉ~!

正直に言うとね? ホントは二人くらいはやって貰う事になるかな~、程度にしか葵ちゃんの事を考えてなかったんだ……。

それが倍の4人もやって貰っちゃって……、ほんと大助かりだよ!!」


葵の謙遜するような答えに、香也は全力で否定するような形で、葵にそう告げた。


葵は別に過小評価されていた事が気に障ったわけではないが、そこまでの成果しか期待されていなかったことを初めて知っていた。


確かに、プロでもない素人にそこまでの仕事を期待するとは思えなかったが、奈々と香也は自分たちで、あの短期間で6人半分の参加者のコーディネートを、やる覚悟でいた。


「そうそう、ホント助かった!

ありがとね~、葵!」


「あッ! ちょっと奈々? それは慣れ慣れしいんじゃない??」


「いいんだよ、この地獄を乗り越えた仲間なんだしぃ~。

それにメイク上手だしねッ! ウチの事務所で囲っとこうかな?みたいな??」


奈々と香也はようやく解放された解放感からか、清々しい様子で、楽し気に会話を繰り広げていた。


「誰が優勝するかねぇ~……。楽しみだよね!」


「そうだねぇ~、それじゃ、私たちはお役御免だし、そろそろ会場の方に戻ろうか!」


奈々と香也はそう話すと舞台裏から去ろうと歩き始め、葵は一度参加者が集まる方へと視線を飛ばし、静の姿を確認すると、満足した様子で前の二人に続くように、その場を後にした。

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