表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
七章 夏休み ~沖縄編 2日目~
131/204

俺より可愛い奴なんていません。7-8

思いがけない方向からのエールにより、二人のプロのスタイリストの速さと正確さに押され、若干気落ちしていたあおいは、意持ちを持ち直し、少しずつだかペースを上げていっていた。


「はい、終わりました!

どうでしょう?」


葵は二人目の女性のコーディネートを終え、鏡を前にして座る参加者の女性にそう声を掛けた。


「……うんッ! めちゃくちゃいいよッ!!」


葵の問いかけに少し間を置いた後、問いかけられた彼女は笑顔でそう答えた。


葵の目にはその笑顔で答える女性が、気を使って言っているようには見えず、葵は彼女が喜んでいることを確認すると、そこで初めて、メイクを始めてからホッと一息つくことができた。


まだまだ忙しいのは、変わらなかったが、葵はその一言だけで安心することができた。


「ありがとうございました。

これでセットアップは全て終了になります、お疲れさまでした」


「ううん、こちらこそありがと!

期待してた通りだったよッ! 優勝しなくても後で写真撮ろッ!?」


「はい、ありがとうどざいます。その時は是非」


葵とその参加者の中で仲間意識のようなものが生まれ、共にこのイベントを戦う仲間としてお互いをよく思えていた。


誘いに応じた葵を確認すると、その女性は小さく「じゃあねッ!」と一言告げると、コーディネートを全て終えた、参加者が集まる場所へと向かっていった。


葵はその女性が向かうべき場所へと向かったのを確認すると、最初にメイクを終えた時よりも清々しい表情で向き直り、次の参加者呼ぼうとした。


「こちらの席空きましたッ!

次のか…………」


葵が全てを言い終える前に、葵が次に担当する女性の姿が見え、葵はその女性の姿を見るなり、言いかけた言葉を途中で切り、固まってしまった。


「ずいぶん楽しそうだねぇ~、葵……」


葵と先ほどの参加者とのやり取りの一部が見られてたのか、葵の次の担当する参加者であるしずかは、笑ってはいたが、その声色から明らかに不満を感じている様子だった。


◇ ◇ ◇ ◇


葵が静を担当して数分、その間、葵と静の一言の会話もなかった。


葵は最初は静を担当することを動揺していたが、時間的にも急がなければいけなかったため、すぐに集中し、静のコーディネートに勤しんでいた。


葵の集中力は、時間が経てば経つほど上がっていき、速さと正確さはどんどんと増していっていた。


頭の片隅には、女装の事や彼女が自分の知る、安藤あんどう しずかなのか確認したい等と、話したいことは思い浮かんだが、話の切り出し方も時間制限もあったため、葵から沈黙を破る事はなかった。


そんな中、葵は静のメイクを終え、今度は髪のセットへと移ろうとした時、不意に静が声を上げた。


「ねぇ、葵は私をメイクしてる時、ほとんど睨めっこ状態だった訳だけど、恥ずかしさとかは無いの?」


「え……?」


葵はこのまま無言のまま、この時間を過ごすことになるかと覚悟していたため、彼女からの受け答えにすぐ反応する事が出来ず、思わず聞き返しているような声を上げてしまっていた。


「だからぁッ! ずっと、異性の、女の子の顔をよくじっと見られるねッ!って話!」


静はメイクの途中、メイクをする関係上目を閉じたり、開けたりとする事があり、その際にどうしても近い距離で葵と一々目が合っていた。


終始、恥ずかしさを感じていた静は、若干怒っているような様子で、今までに受けた恥ずかしめを爆発させるように、声に出した。


「あ、いや、まぁ、慣れてる訳じゃないけど……。

初めてじゃないし……」


静の砕けたよく知る友人に話しかけるような口調に釣られ、葵も砕けた口調で静に答えた。


「ふ〜ん……、そッ……」


素直に答えた葵の言葉がお気に召さなかったのか、静は明らかに不満を持った様子で、つまらなそうに答えた。


「悪い……」


「別にぃ〜、謝って欲しい訳じゃないし…………」


「あ、いや、そうじゃなくて、今から髪触るから…………」


「ッ!!」


葵の最初の謝罪に、不満気な自分への謝罪かと思ったが、静の思っていた謝罪の意味と、葵の言葉に出した謝罪の意味の解釈は違い、結果恥を描くような形になってしまった静は、顔を赤く染めた。


そして、更に静の不満を葵は買ってしまっていた。


顔を赤く染め、葵を少し睨むようにこちらを見つめる静を見て、葵は再び彼女の反感を買ってしまったと思い、声の掛けづらい状況へと逆戻りになってしまっていた。


「ねぇ、どうして葵は気付いてはくれないの……?」


再び沈黙が流れつつあった二人の間に、静は少し暗い表情を浮かべながら、今度は悲しげな声と表情でそう呟いた。


「あッ、いやッ!」


いつも楽しげで、笑顔をよく浮かべる明るい彼女が、そんな表情をした事に葵は驚いたが、上手く言葉も出ず、中途半端な声しか上げれずにいた。


「じゃあ、もう昔と同じようには接したく無いって事?

気付いているんでしょ? もう、私が安藤 静だって事に……」


葵が聞き出そうとしていた事は、彼女の口から放たれ、十中八九そうでは無いかと葵も思ってはいたが、いざ言われるとどう返事を返していいか分からなかった。


今まで止まらなかった作業の手も初めてそこで止まっていた。


「今聞くことじゃ無いんだろうけど、聞いていい?

最初会った時は、こっちから言い出すつもりは無かったんだけど、そんな格好されてちゃね……」


葵が自分に対して何の感情も持っていないのかと、そんな不安を感じていた静は、自分の言葉に今まで止めなかった、作業の手を止めてまでも動揺してくれた事に少し安心し、段々と彼女の明るさが、少しずつだが戻ってきていた。


「……分かった。

作業のしながらになるけど、答える」


葵は自分が確かめたい事もあったため、彼女の申し出に腹を括ったように答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ