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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
七章 夏休み ~沖縄編 2日目~
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俺より可愛い奴なんていません。7-4



「はいッ! じゃあ、軽く朝礼はじめるよぉ~!」


Bloomブルームの開店時間間際。


Bloomの制服へと着替えた従業員達が続々とフロアへと集まると、まゆずみは店内に備え付けられた時計を一瞥した後、全員に呼びかけるようにして声を上げた。


昨日は途中参加でお店を手伝っていた事もあり、あおい亜紀あきも朝礼には初参加だった。


慣れない葵達に周りのスタッフが支持を出し、慣れないなりも朝礼に参加することができた。


「それじゃあ、まずは確認ね?

今日はホテル『Luna』の前の浜のとこで例のイベントがあるから、お店は11時半で一度閉めます。

その後、大体イベントが定例なら一時間半もすれば終わるから、13時45分からお店を再開します。

知ってる人も多いと思うけど、かなりの人が来るから、今年はTV取材?撮影?みたいのもあるみたいだし、心しておくようにッ」


黛は今回の浜でのイベントの件を含めて、再度従業員に知り渡らせ、忙しくなることを前提とした話の仕方で、従業員の気を引き締めさせた。


「また、昨日出勤してた子は知らないかもしれないけど、今日もお店の方を桜木さくらぎ高校の生徒達に手伝ってもらう事になってるから。

えぇ~と、一応挨拶だけしてもらおうかな?

それじゃ、葵から自己紹介お願い」


黛はそう言って、葵達へと挨拶を促し、葵達多それに答えるように、一人ずつ順番に挨拶を返していった。


「うんッ、これで全員かな。

桜木の生徒はもちろんわからないこと事が、たくさんあるかと思うけど、その時は周りの先輩に尋ねるように!

みんなも、桜木の子達をなるべく気にかけるようにお願いねッ。

まぁ、昨日の働きぶりからあんまり心配しては無いけど……。

それじゃあ、今日もよろしくッ!!」


黛はそう最後の挨拶を締めくくると、Bloomの従業員たちは続けて「よろしくおねがいします!」と元気な声で返事を返し、葵達も遅れながらも、先輩たちの真似をするように挨拶を返した。


そして数分後、Bloomの看板がcloseからopenへと変わった。


◇ ◇ ◇ ◇


Bloomの序盤の集客はまずますだった。


朝方は海の近くに位置する店だったが、お得意さんが多く入店し、店内は比較的ゆったりとした雰囲気が流れ、ピーク時のBloomとはまた違った表情を見せていた。


初のBloomでの仕事という事もあり、今のうちにならす形で、晴海を中心に、新人に数多く仕事をこなさせて、とにかくやって覚える方針で店に慣れさせようと、周りも積極的に仕事を振った。


「覚えること多い~~……」


来店したお客のオーダーを一通り取り終え、席が埋まっているテーブルには、料理をほとんど出し終えたため、オーダーは滞り、暇な時間が少しの間ができていた。


そんな中、初めから詰め込まれるように、仕事を覚えてきた晴海が、愚痴を零すようにして、バックヤードで呟いた。


「確かに、オーダーを取るハンディの使い方も慣れないと難しいしね……。

昨日、やってて何度か感じたけど、忙しい時に打ち間違いした時なんて、ほんと最悪だったよ」


嘆く晴に同意するようにして亜紀も愚痴を零した。


「あぁ……、今ですら間違い多いのに、ピーク時に上手くやっていけるんだろうか……」


「大丈夫ッ! 大丈夫ッ!!

亜紀も葵も最初は手こずってたけど最後には使いこなしてたし、昨日はピーク時からの参加だったけど、今は比較的ゆったりとした時間だから、何とかなるよッ!!

今のうちに覚えちゃいなッ!!」


これから起きることがほぼほぼ予定されているピーク時の事を考え、完全に意気消沈している晴海に、話を聞いていたのか、キッチンにいた黛が、厨房から晴海に話かけた。


「はぁ……、かなり不安です……」


励まされた晴海だったが、前向きにはあまり考えられず、そう呟くと、そんな晴海を呼ぶようにして、お店の来店を知らせるベルが鳴った。


「来てしまった……」


晴海は悲し気にそう呟くと、来店した新しいお客さんを接客しに、再びフロアへと戻っていった。


「大丈夫かな、晴海……」


「大丈夫だってぇ~。

心配ないよッ! 確かに裏ではあんな感じだけど、きちんとお客さんの前に出れば笑顔で接客できるし、何より、あの子の笑顔はとっても魅力的だしねぇ~

なぁ~んの心配もいらないよッ!」


暗い雰囲気が漂う晴海の後ろ姿を見ながら、亜紀が呟くと黛は再度、亜紀に心配何とそう伝えた。


そんな黛に、厨房に引っ込んでいるのにも関わらず、晴海の事をよく見ていることに、亜紀は驚いていた。


「店長~、オムライスミニ1つとやきそば1つ。

注文入りました~」


亜紀と黛が晴海の心配をしていると、丁度、オーダーを取り終えた葵が、気の抜けた声でバックヤードに戻りながら、黛にそう呼びかけた。


「はいよ~~」


葵の声に反応した黛は、再び厨房へと引っ込んでいき、バックヤードは亜紀と葵の二人きりになった。


普段、特段仲がいいわけでもなく、どちらかと言えば仲の悪い二人が会話を自主的に行うこともなく、会話の無い静かな時間が流れた。


沈黙の体制が無い者であれば、沈黙に耐え兼ね、何か当たり障りのない話題でも出すであろう状況だったが、あいにく亜紀も葵も、沈黙に対して特に抵抗があるわけでもなく、お互いに料理が出るのを待っていた。


葵は少しの間、ぼぉっとしながら厨房で働く従業員を見ていたが、特に面白いわけでもなく、暇に思い、バックヤードでもできる小さな仕事をし始めていた。


そしてそのまま、料理が出るまで会話の無い空気が流れるかと思われたが、不意その沈黙は亜紀の声によって破られた。


「ねぇ、アンタ昨日の深夜、美雪みゆきと会ってた?」


亜紀の何の感情も感じられない声から発せられた言葉に、葵は洗浄機から上がったばかりのスプーンを落とした。


甲高い金属音が二人の間で鳴り響いたが、亜紀はピクリともせず、葵に一切視線もくれずに淡々と話した。


「昨日深夜、美雪が部屋から出ていくのを見て、飲み物でも買いに行くのかと思ったら、30分程部屋に戻らなかったんだけど……?」


「さ、さぁ……、知らない……」


葵は内心動揺していたが、亜紀に本当の事がバレれば、厄介になることは違いなかったため必死に隠した。


「ふ~ん、そう……。

誰のせいか知らないけど、美雪、今日はそれで寝不足だったみたい。

いくら南の島と言えど、夜は冷えるし、風も引きかねないからホントにいい迷惑だと思わない?」


「付き合わされたんだとしたら、いい迷惑かもな……」


亜紀は冷たい表情と声で、葵を細めた横目で見つめながら半ば威圧するように、牽制するように葵にそう言い放ち、葵はこれ以上亜紀を刺激しないように、無難な答えを返した。


亜紀は100%葵を疑っていたが、確信できる程の証拠も証言も無く、葵を完璧には責めることができずにいた。


葵はこんな状況になるのであれば、断然無言の空気の方がよかったと内心思いつつも、何とかこの話題が終わることを願った。


すると、そんな葵を手助けするように、厨房から黛が顔を出し、フロアと厨房をつなぐカウンターへと料理を出した。


「はいッ! 亜紀ちゃんのオーダー!

三番テーブルねッ!!」


狙ったかのように会話に割って入った黛に葵は救われ、同時に亜紀が待っていたとされる料理も出された。


「はい、ありがとうございます」


亜紀は出された料理を手に取ると、それと一緒に伝票も一緒に持ち、料理をお客に出す準備を進めた。


慣れた亜紀はすぐに準備を済ませると、フロアの方へと体を向けた。


「二度目は無いから」


葵にとって気まずい時間が終わったかと思われたが、亜紀は去り際に一言、いままでと同じ、冷たい口調ではっきりと葵にそう伝え、フロアの方へと向かって行った。


「葵ぃ~、何かしたの~??」


「いや……、別に……」


不思議そうに尋ねる黛に、葵は若干に引きつったような笑みを浮かべながら、小さく呟くようにして答えた。


◇ ◇ ◇ ◇


優雅なゆったりとした時間は流れていき、どんどんと客は増え、次第にBloomは忙しくなっていった。


「3番テーブル 焼きそば2つッ!!

たこ焼き1つッ!!」


「はいよ~~」


元気のいい掛け声がバックヤードには絶えず飛び交い、店内はお客さんでごった返し、がやがやと騒がしい店内、まさしく海の家のような姿へと変わっていた。


「葵ッ!!

これ、6番と19番ッ!!」


「了解」


「2番、10番、お会計です!!

テーブル誰かお願いしますッ!」


バックヤードでもその忙しさは騒然としており、指示が飛び交う中で声を発すためにはそれなりに声を上げなければ、通らないほどだった。


そしてそんな地獄のような時間は、あっという間に過ぎ去り、Bloomは約束通り11時半をもって、一時閉店をした。


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