俺より可愛い奴なんていません。6-18
「そういえば、橋本って珍しく先生とは割と親しげですよね?」
葵は真剣なまなざしで、どこか問い詰めるような雰囲気も出しつつ真鍋に問いかけた。
「そうか? まぁ、悩みを聞いてた時もあるしな?
それにほら……、俺って悩み相談しやすそうで、頼れそうじゃん??」
葵の雰囲気とは違い、答える真鍋はどこか葵との会話を楽しむような、そんな雰囲気で会話をしていた。
「いや、話しやすいのは歳が近いってだけが理由で、頼りになるってのは勘違いです。
そんな事より、何を相談されてたんですが??」
「えぇ~? そんなことって……。
てゆうか、個人の相談を言えるわけないでしょ?」
ベラベラと話していた真鍋だったため、このまま葵の聞きたいことも聞けるかと思ったが意外と口は固く、美雪の内面のデリケートになる部分は決して言わなかった。
しかし、葵は怯まなかった、少しアプローチを変える形で真鍋に問いかけた。
「俺も、アイツから相談受けた事あります。
確か友達が欲しいとかで……」
葵は過去に美雪からそんな感じのニュアンスの話をしたこと思い出し、それをきっかけに葵が少し手助けをしたような事が過去に少しあった。
「えぇッ!? 橋本がお前にッ!?
ほんと何がどうなってるんだか……」
人見知りのあった美雪と、女子のことが嫌いで不機嫌な態度ばかりを取る葵を知っていたばかりに、美雪が葵に相談をするなど、とても考えられないことだった。
「それで? どんな相談受けてたんです?」
「なんか、尋問受けてるみたいだな……。
同じだよ、立花とまったく同じ。
クラスに馴染めないっていう相談」
葵はそんなんじゃないかと内心感じていたが、真鍋の答えによりそれは確信へと変わった。
そして美雪が真鍋に相談していた過去を知ったことで、葵は桜祭終了後に真鍋と美雪が二人きりで話していた事などを思い出した。
その思い出は、どこか重々しく、どす黒いような感情を葵の中に感じさせ、思い出す中で、脳裏にちらつく光景は真鍋と話していた時の美雪の笑顔だった。
「お前が代わりに応えてくれたんだな。ありがと……」
葵が物思いに耽っていると、真鍋はとてもやさしい表情と声で葵にそう告げた。
感謝しているのと、自分が救えたわけではないが、美雪と葵が以前とは違った学校生活を送っている事を、心から喜んでいるような、そんな雰囲気が真鍋にはあった。
「い、いや……俺は、別に…………」
真鍋の様子を見て完全に、葵は面を食らったよ様子で、いままでの問い詰めるような勢いは、今の彼になく完全に委縮してしまっていた。
心の底から感謝している様子の真鍋に、葵は先程まで感じていた感情の事もあり、後ろめたさのようなものを感じ、かなり複雑な思いがあった。
「……ってゆうか、お前は俺と橋本が親しげだって言ってたけど、俺からしたらお前の方が親しげだぞ?」
「え……?」
真鍋の切り返しに、葵は不意を突かれ、間抜けな声をだしてしまった。
「ほんと運命ってわかんないよなぁ~……、人見知りの橋本と女嫌いの立花が仲良くなるんて……」
真鍋は昔の2人を思い出しては、懐がり面白おかしく笑っていた。
「まぁ、おかしな関係ですよね……」
「うん! おかしいッ!」
小さく呟く葵に、真鍋は元気よくそう答えた。
◇ ◇ ◇ ◇
夜は深まり、葵達は夕食も色々と楽しい時間を過ごしていた。
夜の12時近くまで話は盛り上がってしまい、真鍋も教員という立場でありながら、やはり旅行というものは羽目を外すもので、最初は寝ろと注意していたはずが、後半では一緒になって会話を楽しんだりしていた。
夜は耽っていき、時間も深夜という事もあり、真鍋の一言で部屋の葵達はようやく就寝に付いた。
就寝についてから12時半。
葵は布団に入って明日の事もある為、寝ようとして目を瞑っていたが、どうしても寝れずにいた。
周りではいびきをかいて寝る者もいれば、寝相悪く、自分の布団を遠くへ吹っ飛ばしている者も見受けられた。
「寝れねぇ……」
葵は別にいびきとかで寝れないなどという事は過去にあまり無く、どちらかと言えば寝付きは良い方だった。
それが、いつもとは違う事もあってか、色々な条件が重なり余計に寝れなくなっていた。
「駄目だ……、ちょっと夜風にでもあたってくるか……」
葵はそう一言呟くと、布団から起き上がり、周りの人物を起こさないように部屋を後にした。
時間も時間という事もあり、ホテルは静まり返っており、起きている者は見当たらず、ホテルの従業員も葵達の部屋の階では見当たらなかった。
葵はホテルに来てからずっと、1度は行ってみたかった場所へと足を運んでいた。
それはホテルの中にはであり、周りは植栽でいろいろな植物に彩られ、近くにはホテルのプールがあり、僅かに風に揺られる水面に、月の灯りが水面に当たり、チラチラと光を反射せていた。
海からの風がそよやかにながれ、遠くには海が見え、波の音がここまで聞こえてきそうな、そんな雰囲気すら感じた。
葵はそんなホテルの庭へとたどり着くと、屋根付きの木製のテーブルと長椅子が備え付けられた、休憩場所のような所へ向かい、腰を下ろした。
腰を下ろすなり葵は深いため息を付き、遠くに見える海へと視線を向け、ただ呆然と海を見つめた。
ただ時間を潰すだけだった葵だったが、何故か脳は働き、いらない事まで勝手に考え始めた。
それは美雪と真鍋の事だった。
今日の夕食にも感じたが、真鍋が悩んでいる所へ美雪は協力的に話しかけ、親切に真鍋の悩みを解決しようと悩んでいた。
「はぁ〜……、どうでもいいだろこんな事…………」
ゆっくりと何も考えたくない葵は、ため息を付きながらそんな事を呟くが、自分の脳はそれを許してくれず、考えないようにしようと思えば思うほど、余計な事を考えてしまっていた。
(やっぱり、橋本は真鍋の事を……好きなのか……?)
仲良さげに話していた2人を思い浮かべれば浮かべる程、余計な事を考え、遂には葵はずっと思わずにいた事をふと、頭に思い浮かべてしまった。
「うわぁぁぁああ〜ッ!! 何で俺がこんな事考えなきゃッ…………」
葵はここのロケーションや雰囲気にやられたのか、思いもよらない事を思い付き、普段では思いつかない様な事を考えた自分が恥ずかしく、大きく叫び、頭を抱えた。
葵は途中で声を上げるのをやめ、急に正気に戻ったように黙り込んだが、傍からみたら完全に変な人だった。
今は周りに人も居らず、葵は変人扱いを受けずに済んだが、いたら周りの人々が逃げ出す程の狂いっぷりだった。
(BLOOMで働くのが思った以上に疲れてたんだな……。
もう部屋に戻って寝よう……。
ここにいたら頭がおかしくなる……)
葵は全てここの環境のせいにして、ここに来たばかりだったが、部屋に戻って寝る事を考えた。
急に叫んだり、黙り込んだりと情緒が不安定な葵は椅子から腰を上げ、ゆっくりと戻ろうとした。
そして、葵が1歩目を踏み出した時、不意に後ろから女性の声が葵に投げかけられた。
「立花さん??」
葵はその呼びかけられた声から嫌な予感がして仕方なかったが、振り返らない訳にはいかず、ゆっくりと声の方へと振り返った。
すると、そこには少し息を切らせながら、頬を少し赤く染めた美雪の姿がそこにあった。
普段の葵であれば、こんな情緒不安定の状態で、しかも彼女の事でおかしくなっているかもしれない状況で会えば、1番初めに思う事は嫌だという感情であっただろうが、今の葵は少し違った。
確かに今ここでは会いたくは無いのは確かではあったが、それと同時に嬉しくも感じている自分も何処かにいる事を感じていた。
「な、何して…………」
葵は若干声を震わせながら、美雪にそんな言葉しか返すことが出来なかった。
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誤字脱字報告助かります、ありがとうございました。




