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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
六章 夏休み ~沖縄篇~
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俺より可愛い奴なんていません。6-17

◇ ◇ ◇ ◇


時間は流れ、あおい達の訪れたホテルの夕食の時間へと進んでいた。


葵と同じく、本日泊っているであろう宿泊者達も食堂へと集まり、いくつも並べられた席に、自由に自分たちで席を選び、食事を楽しんでいた。


がやがやと人の声が飛び交う食堂の中、葵達も自分たちの座れる人数用意されていた席へと集まっていた。


夕食はバイキング方式になっており、皆それぞれが自由に好きな料理を配膳して席についていた。


「なぁ、なぁ……、女子ちょっとヤバくね?

お風呂上がりだから色気が…………」


全員が席につき、食事を始めると、向かいに座る女子には聞こえないように、小声で前野まえの長谷川はせがわへと話しかけた。


「確かにヤバい……。

風呂の時もちょっぴり話声聞こえてたし……、なんか余計にヤバい……」


長谷川と前野が小声で盛り上がる中、葵は知らん顔をしたまま、黙々と食事をとっていた。


前野達とは対照的に、美雪みゆき達は明るく楽し気に、普通に会話を挟みつつ、食事を楽しんでおり、真鍋まなべは難しい表情を浮かべながら、バイキングをじっと半ば睨みつけるように見つめながらブツブツと呟いていた。


「先生、何をさっきからブツブツと言ってるんですか?

気になってしょうがないんですけど……」


今まで、黙々と食事をしつつ時折、長谷川達の会話に返事を返していた葵が、我慢できずに真鍋にそう尋ねた。


すると、今まで女子だけで話していたはずの美雪も気になっていたのか、会話を止め、視線を真鍋へと向けていた。


「んん? いや、当日もこのバイキング方式で夕食をとるから、当日の修学旅行はどうしようかとな?」


「そんな事今考えてたんですか……。

テキトーにクラス順でいいんじゃないんですか??」


若い教員であることと、実習を兼ねて、以前に桜木さくらぎ高校に訪れていたこともあり、現在も生徒との距離がどちらかと言えば近く、彼に少し気の抜けた印象を持つ者も多くいた。


しかし、実は真鍋はかなり真面目であり、この事前旅行も当日の事ばかりを考えては、頭の中でシュミレーションしていた


「そうしたらA組が順番的に可哀そうだろ……。

他のクラス待っている間に料理が冷めかねないし……、だといって一斉には無理そうだしなぁ……。

やっぱ全クラスでのバイキングは無理そうだよなぁ……」


真鍋はため息を付きながら、諦めたように呟いた。


真鍋の呟きはどこか口めいたものがあり、なんとなくだが、教員の間か生徒の要望かで、バイキングの話が持ち上がり、真鍋がこの期待に応えるために試行錯誤しているのだろうと、葵は思った。


「なんか、先生この間に禿げそうっすね……」


「おいッ、怖い事言うなよ……」


真鍋の気苦労を思い葵は何気なくそんな言葉を掛けると、真鍋は真剣な表情で葵に訴えた。


「入浴みたいにクラス分けるのはダメなんですか??」


葵と真鍋が話していると、二人の会話を見ていただけだった美雪が声を上げ、真鍋に尋ねた。


「う~ん……、なんでか教頭先生が分けたがらないんだよねぇ。

夕食はみんなの方が良いだろって…………。

それにここのホテルも夕食の取れる時間は決まってるし……、部屋で食べるとかならまた違うんだろうけどねぇ~……」


「そうですかぁ……、う~ん……、どうすればいいんですかね…………」


真鍋は生徒に相談するように事情を話し始め、美雪はそんな真鍋の悩みを解決させようと悩み始めた。


(いや……、なんで生徒に相談してんだよ……)


葵は教員である真鍋が生徒に相談し始めたことで、内心そんな彼にツッコミを入れつつも、そんな少し頼りななさそうな彼だからこそ、生徒達との距離が近づき、真鍋のそんなところはとても彼らしいなと感じた。


「バイキング諦めればいいんじゃないっすか?

別に、俺はおいしく食べれれば何でもいいし……」


ここのホテルの料理はおいしく、葵は別にバイキング自体には何の興味も無かったため、そのまま自分の意見を伝えた。


「立花……、お前そんな簡単に言うなよぉ……。

これで先生がバイキングは難しそうでしたって先生方に言ったとして、バイキング無しになってみろ? 生徒たちの批判がたくさんくるだろぉ~」


「いや、別に先生にくるとは限らないじゃないですか……」


真鍋に会話を振った葵がだんだんとめんどくさく感じているのに対し、真鍋は情けなく、葵に愚痴を続けて吐いた。


「それがくるんだよなぁ~……」


「なんで?」


「ここに来る前に、いくつかの生徒に任しとけ、お前たちの要望、叶えてやるって啖呵切ってきちゃったんだよねぇ」


真鍋の言葉に葵は、呆れたようにため息を付き、美雪も苦笑いを浮かべ、何も答えることができない様子でいた。


「真鍋先生そういうとこありますよね……。

なんか偶に、前野とか長谷川とかと話してるんじゃないかって、勘違いする時ありますよ」


「いや、お前それは失礼だろ。

先生に対してはもちろん、友達に対しても……」


葵の辛辣な答えに、真鍋は若干傷ついていた。


「立花さん、なんか打開策みたいなのないですか?」


葵は真鍋の自業自得だなと結論付け、それ以上このことについて考えようとは思わなかったが、そんな葵に呼びかけるようにして美雪が声を掛けた。


それは、葵の思っている方向とは別の方向から助け舟だった。


「え……、いや、まぁ、無くはないけど…………」


急な美雪からの言葉に、何の考えも無かった葵は、思ってもみない言葉を口にしており、気づいたときには、美雪からの期待のような視線にさらされ、真鍋と同じ二の舞を踏んでいた。


「ま、まぁ……、なんだぁ、普通にいただきますの挨拶みたいなのをした後に、各二クラスずつでも料理に取りに行かせるとか?

混雑は避けれるし、教頭のやりたかったことには添えるんじゃ?」


葵はその場でテキトーに考えた事でもあったため、自分の考えにはまるで自信は持てず、会話の終わりは必ず疑問形のような、答えを確かめるような口調になっていた。


「自信満々のわりに、答え微妙……」


葵が自分の答えを言い終えると、いつから聞いていたのか、亜紀あき晴海はるみも会話を聞いており、亜紀は冷たい表情で葵を見つめ、辛辣な言葉を葵にぶつけた。


「び、微妙じゃないだろ、無難だろ……」


葵は内心確かに革新的な答えには思えず、微妙な答えにも感じていたが、そんなことは口が裂けても言えず、強気に亜紀に言い返して答えた。


「まぁ、確かに、そうするしかないよなぁ……。

ホテルのバイキングの規模もデカいから、二クラスでもすぐに配膳とかは終わりそうだし、数分数分で、ずらしながら配膳してもらっていくしかないよなぁ」


葵の答えを聞き、真鍋も似たようなことを考えていたのか、葵の答えに納得するように呟いた。


「私は断然バイキングかなぁ~ッ!

みんなでやったら絶対楽しいよッ!!」


「私もバイキングの方がいいと思います」


真鍋の考えが諦めから、実行に揺れ動いているような呟きを聞き、晴海は元気よく大賛成をし、晴美の答えに美雪も賛同した。


「バイキングでスケジュール考えてみるか……。

もちろん、お前らもやりたいからには協力しろよ?」


「いいよぉ~!!」


「わかりました!」


真鍋は美雪達に押されるように考えを変え、美雪達にそう言い放ち、そんな真鍋の答えに晴海は元気よく返事をそれぞれ返した。


そんな中葵は、「いや、俺は……」とやんわりと参加を拒否したが受け入れ通らず、結局その夕食の話題は、長谷川や真鍋も巻き込む形で、修学旅行の本番に向けての意見出し合いへと変わっていった。


◇ ◇ ◇ ◇


真鍋の修学旅行についての相談会のようなものは、予想以上に盛り上がり、皆が一生に一度のイベントなこともあってかいろいろ真剣に考えた。


葵も基本は、ここの温泉と夕食が食べられればなんでも良かったのだが、意見を聞かれてはそれなりに考えつつ発言をしていた。


「こんなもんか……、よし、いろいろ分かってきたぞ!

ありがとなお前たち、まぁ、今女子いねぇけど……」


いろいろと考えがまとまったのか、真鍋は自分の会話に付き合ってくれた、先程スイーツを取りに行った女性人以外の葵達全員に、感謝の言葉を述べ、全員での会話は終わり、再びここの会話へと戻っていった。


りゅう、立花、俺、また料理取ってくるけど、なんか持ってこれる物でほしいものある?」


「あぁ、俺も行く」


真鍋の会話も終わったことで、前野はもう一度自分が料理を取りに告げることを伝えると、前野も行くつもりだったのは自分のお盆を持ち、席を立った。


二人とも行くのであればと葵も思い、「俺も」と声をあげようとした途端、それを遮るようにして真鍋が声を上げた。


「あぁ、立花、ちょっといいか?」


葵はその声に反応し、真鍋の方を向くと、そこには真顔でどこか真剣みのある雰囲気が漂っていた。


丁度、女性陣もスイーツを取りに行くと席を離れていたため、ここで残れば席には真鍋と葵しか残らないそんな状況だった。


「俺は後でいくからいいわ……」


葵は前野達にそう告げると、真鍋の方へと視線を戻した。


「で? どうかしたんですか?」


葵がそう告げると、真鍋は少し難しそうな表情を浮かべた後、意を決したように話し始めた。


「えぇ~っと……、そのぉ~、なんだ?

あの頃と比べて少し考え方とか変わったのかなぁ~って……」


真鍋は話し出した割には歯切れが悪く、どこか遠回しに物事を訪ねるような、そんな様子で葵に聞き出すように話しかけた。


「……え?」


もちろん容量を得ない抽象的な質問に葵は、頭の上にはてなマークを浮かべるような様子で聞き返し、真鍋は伝わらなかったことでさらに難しい表情になりなっていた。


「いやぁ~、その……、昔先生に面と向かって言った言葉あったろ?

ほら、お前があんまりに女子と仲が悪くて、一部の女子から俺にクレームみたいのが入って、二人で色々話したあの時……」


こころの中で、真鍋は聞くことを諦めようかとも考えたが、真鍋のソレは、前回桜木さくらぎ高校を離れた時に思い残したことの一つであり、ずっと気になっていた事の一つでもあった。


そのため、葵にはどうしてもそれを尋ねたく思っており、また、最近の葵があのころとは違うように思える部分が多々あったため、確かめたいことでもあった。


「あぁ、あの時の……」


葵には心あたりがあった。


「どうして今そんな事を?」


「いや、ずっと気になってたんだよ。

あんな調子でこのまま高校生活が上手くいくのか?とか、何か大きな問題を起こすんじゃないのか?とか」


葵と真鍋が過ごした時間はほんの僅かな時間であり、真鍋は今とは違い、そのことがあった時は、仮配属のようなもので、偶々生徒から相談された事だった。


それなのに、真鍋は学校が去った後も葵の事を気にかけ、親身に考えていた。


葵はそのことに驚いた事と、真鍋が生徒から好かれる理由は、こういったところにもあるんだなと再確認した。


「まぁ、あの頃にくらべたら多少は考えも変わりましたけど……」


「そっかそっかッ!! それはよかった!」


少し恥ずかしそうに答える葵に、真鍋は満面の笑みを浮かべ自分の事のように喜んだ。


「なにがお前をそうさせたんだぁ?

やっぱり恋か??」


「料理取ってきます」


「あ……、待て待てッ! 悪かったって……」


真鍋のおちょくりにイラっと感じた葵はすぐに会話を切り上げ、席を立ち上ろうとするも、真鍋に制され、それを阻まれた。


「まぁ、なんだ……先生はうれしいよ!

こうやって、気にかけてた生徒が二人も学生生活が上手くいってて」


「二人……?」


「そう、お前と橋本はしもと


葵は楽しそうに話す真鍋のその言葉を聞き、ドキッと胸をはねらせた。

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