俺より可愛い奴なんていません。1-12
大和達から別れ、立花 葵は呼び出された橋本 美雪について行っていた。
目的の場所はスグそこで、彼女達の席が近い廊下側の端だった。
確かに周りに人はいなかったが、葵は(教室から出ないのかよ)と心の中でツッコミを入れた。
席の近くにまで来ると、ここまでコソコソと小さな会話をして歩いていた美雪と二宮 紗枝、加藤 綾は会話をやめ、クルリとそれぞれ振り返って葵の方へ向いた。
「それで? 委員会の話って何?」
葵はあの居心地が悪くなった大和達の集団から偶然にも抜け出すきっかけをくれた事には感謝していたが、彼が女子とあまり会話したくないのはいつも通りであった。
出来ればとっとと用事を済ませ、トイレにでもいって少しほとぼりを冷まして再び大和達の元へと戻ろうと考えていた。
そんな葵の冷たい態度にも狼狽える事無く美雪は話し始めた。
「あの、今日も実行委員の週会があるから放課後よろしくお願いします」
「あぁ、今日もあんのか……、分かった」
美雪の話に葵が簡単に答えるとそこで2人の間の会話は無くなり、沈黙が流れた。
何も話さなくなった美雪に葵は不思議思い、まさかと思いつつ質問した。
「そんだけ??」
「え? う、うん。それだけ」
美雪の返事に葵は驚きのあまり、スグに返答出来なかった。美雪が、こないだといいホントに何を考えているのかまるで理解できなかった。
また少し2人の間に沈黙が流れた後、葵は今度、ため息まじりに話し始めた。
「はぁ〜……。それだけならあの場で一言言えばいいだろ……、わざわざ二宮や加藤まで引き連れなくても……」
「い、いや。人多いかったから……。すいません」
美雪は確かにここまでわざわざ御足労いただいた葵には申し訳無く感じていた。
そして、ここまで2人の会話を聞くだけだった2人もようやく口を開き、話題に入ってきた。
「え、えっとね。これは橋本さんの人見知り克服でもあるんだ。少しでも慣れさそうとね、ごめんね変な事に付き合わせちゃって……」
「そうそう。はしもっちゃんと紗枝と3人で考えた作戦なんだ〜。とゆうか、私の名前知ってるんだ!? 意外〜……」
紗枝は葵に付き合わせてしまったことに美雪と同様に申し訳なく思っている様子で謝罪をしてきたが、加藤はそれどころでは無く、あの女子嫌いな葵が自分の名前を知っていた事に興味が移っていた。
「いや、別にそれはいいんだけど。それと、加藤はいつも休み時間うるせぇから嫌でも名前は覚える」
「うぐッ……」
葵は謝罪する2人にそこまで気にしてない事を伝えるといつも通りに嫌味のように加藤に話した。
加藤は痛いところをつかれたと言わんばかりな表情を浮べ、思わず声を漏らし、小声で「少しでも嬉しいと思った私が馬鹿だった」と呟いていた。
「とゆうか、なんでそんなにモジモジするんだ?」
葵は兼ねてからずっと疑問だった事を美雪にぶつけた。葵がそんな疑問を持つことは当然で、あの日内心、「怖い」と感じながらも相手にそれを悟られないよう堂々とした振る舞いで、葵を精一杯助けてくれた事を知っていたためだった。
「え? いや、どうしても緊張しちゃって……」
「あんなモテないアホ共で何を緊張するんだ?」
「初めて話しましたし……」
美雪の理論は葵にはよく分からなかった。
いつもの葵ならばそれが人見知りの見解なのだろうと割り切り、割り切った後は何も言う事は無かったが、葵は何故か納得がいかなかった。
「だとしても、いつまでもそれじゃあ居られないだろ……?……まぁ、俺が言うことじゃあないんだけど……」
「はい……努力してみます」
美雪のその自信の無さげな言葉を聞き、葵は遂に美雪にこれ以上何かを言うのやめた。
「まぁ、それじゃあ今日の放課後な? 報告ありがと、それじゃ」
葵は素直に感謝の言葉を美雪にかけ、その場を離れていった。
美雪は最後に離際の彼の横顔を視界に捉えた。美雪から見た彼の表情は悲しげで落ち込んでいるようなそんな気配が感じ取れた。
その瞬間、美雪は葵に声をかけ、引き止めたくなったが理性が邪魔をし何も言うことが出来なかった。
「立花がやけに冷たくない……」
引き止められなかった事と自分の咄嗟の行動に美雪が戸惑っていると、横にいた加藤がポツリと言葉を零した。
「だからぁ〜、前からそんなに嫌な人じゃないよ?」
「いや、だって、女子の子はほとんど嫌いだし、私も冷たく接しられた事何度もあるし……」
紗枝は「こないだも言ったじゃん」とばかりに加藤にそう言うと、加藤も過去の事を思い出しつつ、それでもやはり葵が素直で優しかった事など1度もなかった事を確認し答えた。
2人のそんな会話を聞きつつも美雪はある事が脳裏に過ぎって仕方がなかった。
美雪は、葵を止めた先程の自分の行動が、こないだ女装をした男性『たちばなさん』を助けた時の衝動と全く同じだった事に気づきそれが気になっていた。
少しの間、考えたがやはり答えは出ず、親友である亜紀が出した答えにもまるで辿り着かなかった。
そして、美雪の中でただシュチュエーションが似ていたため、強い思い出である『たちばなさん』との思い出が過ぎったんだとそう考えた。
(たちばなさんかぁ……なんだか懐かしいな)
美雪が呑気にそんな事を考えていると急に加藤が美雪に質問をしてきた。
「ねぇ、橋本さん? どうして、橋本さんと立花君って親しげというか、普通なの??」
「え……?」
加藤の質問に美雪は一気に現実に戻されたような感覚になり、話をしっかりと聞いていなかった事もあり、どうしてそんな話の流れになったいるのか分からなかった。
「確かに、立花君橋本さんと話す時は割と饒舌だよね……」
「アレで饒舌なんですか?」
美雪は、知り合う前までは彼も自分と同じ人見知りなのかと思っており、話すのが苦手な同じ仲間だとすら思っていた。
そして葵にとったら、美雪には言われたくないだろうが、一般的に考えてあの葵の先程のあの様子で饒舌とは、少し言い過ぎだと美雪は素直に思った。
美雪の言葉に紗枝達も「橋本さんにだけは立花君も言われたくないだろうな」と思いつつも、それを直接本人には言えず、思わず苦笑いが出てしまっていた。
「ま、まぁ、私達と話す時よりは遥かに喋ってるよ?
私も去年、一緒のクラスで紗枝と私と立花君と後、もう1人男子と4人で一緒に委員会やった事あるんだけど、基本、立花君は「あぁ」とか「そう」とかしか言わなかったもん」
「そうなんですか……。ん?」
美雪は呟くように言った後、2人を見て何かに気づいたかのように変な声を上げ、少し考え込んだ。
そして、ニヤニヤとしながら小声で「なるほどなるほど」と呟いた後、顔を上げ話し始めた。
「思春期特有の照れですね!!絶対に」
美雪は「コレだ!」と言わんばかりに2人に宣言した。しかし、2人はキョトンとした顔で納得していない、理解していない様子だった。
「お二人共クラスでもかなり人気のありそうな可愛い顔立ちでは無いですか!? とゆう事は、きっとそうです。クールぶってて案外ウブなんですね彼は……」
美雪は葵が見たら間違いなくイラッとするような笑みを浮べながらトンチンカンな事を言い出し、冷静な紗枝は内心絶対に違うだろと思いながらも、自信たっぷりに答える美雪に指摘出来なかった。
再び苦笑いをするしかなく、加藤は褒められ完全にその気になっていた。
美雪の言った通り、加藤もまぁ間違いなく好きな男子はいるだろうといったような容姿をしており、明るい性格と何より巨乳だった、それもかなりの。
紗枝は言わずもがな、年相応な可愛い系の顔をしており、分け隔てなく接する優しい彼女はクラスで1番モテると言っても過言では無かった。
「で、でも橋本さんも可愛いと思うよ? とゆうか、美人だよね」
「いえ、私は地味です」
紗枝は気を利かせ美雪のフォローを入れたが、美雪は即答でキッパリと答えた。
あまりの思い切りのいい答えに紗枝はそれ以上何も言えなくなってしまった。
◇ ◇ ◇
時間はまだまだ昼休みという事もあり、廊下では生徒達が大い賑わっていた。
葵は美雪の短い用事を済ませた後、男子トイレへ向かい用を済ませ、再び自分のクラスへと戻っていた。
葵はトイレに向かう際もトイレから戻る際も同じ事をずっと、考えていた。
(いや、あの様子だと昨日も分かったがホントに一致してないんだな。まぁ一致してないならしてないで全然問題無いんだが……)
葵は始終美雪の能天気ぶりを不思議に思い、その割には何か意図があるのか夜で魅せたあの姿で学校へ登校する事は1度もなく、性格も学校ではモジモジと別人なようだった。
(何があってあんな地味な格好してんだホント……。女なら着飾るべきだろ花の女子高生だし)
葵は自分が女装をし、美というものを探求する者だからこそ、今の美雪は見ていてあまり気分のいいものではなかった。
そんな事を考えながら少し俯き気味に歩いており、ふと視線を上げ前に向けると、前から女子にしては背の高い、綺麗でカッコイイ系である女子生徒が視界に入った。
女装のこなせる葵はそこまで身長が高くは無かったが、それでも男子である葵に迫る勢いの背の高さだった。
しかし、葵は、前から歩いてくる彼女には失礼だが、男装が似合いそうな彼女の見た目が気になったというよりは、彼女の目が気になっていた。
おそらくそこまで面識がない、彼女の目が何故か葵を睨んでいるようなそんな気がしていた。
葵は何か面倒な事になりそうな気がしたため、視線を逸らし何事もなく彼女の隣を通りすがろうとした。
どんどん彼女との距離をつめ、通り過ぎようとした時、葵は異変に気づき、立ち止まった。
「ねぇ。アンタが立花 葵でしょ?」
葵が通り過ぎようとした彼女は葵の行く手を塞ぎ、通せんぼをするようにし、腕を組み偉そうに立ち止まった葵にそう言い放った。
あまりの彼女の威風堂々っぷりに葵は自分の方が少し背が高かったが、見下されているような感覚すら感じた。
葵に強気に話しかけてきたのは美雪の親友である亜紀だった。
「そうだけど? なに?」
葵は先程美雪と話していた様子とは違い、あの普段から女子に取るような不機嫌な嫌な感じで、答えた。
「話しあんだけど……、ちょっと付き合って」
亜紀もまるで引くこと無く強気に葵に言い放ち、傍から見たらまるで2人は喧嘩しているようにすら見えた。
「またかよ……」
葵はガッカリとした様子で小声で声を漏らして、あれだけ寝てダルさを取ったというのに再び疲れを感じ始めた。
そういって今度はまた亜紀の後ろに着くようにして、葵は歩いていった。
再び、女性の後ろからついて行くように歩く自分に何故か葵は虚しくなり、情けなく感じてきていた。
そして、何となくだが先程のようにはいかず、この話は根が深く長くなりそうな嫌な予感がしていた。
 




