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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
六章 夏休み ~沖縄篇~
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俺より可愛い奴なんていません。6-10


不意に声を掛けられ、声の方へと視線を向けると清水しみず 亜紀あきの姿がそこにあった。


亜紀の綺麗な顔立ちは不満げな表情を浮かべ、声は明らかに敵意のこもったようなそんな声だった。


「なッ……、何って……」


亜紀の表情と発した言葉から、あおいは自分の正体がバレている事を察し、何とか返事を返そうと答え始めた。


そして、葵が声を上げた途端、今度は別の人物によってその声は遮られた。


「おぉッ!! なになに、君も今の話聞こえちゃってて、会話に入ってきた感じ??」


葵の声を遮ったのは二人組の男子客の片割れで、こともあろうに葵だけでなく、亜紀までも会話に巻き込み始めた。


亜紀はそんな男の問いにすぐには答えず、二人組の男から視線を外し再び、葵へと顔を向け、「は?」と言わんばかりの表情で葵に訴えかけた。


「いや、俺にそんな顔すんなよ……」


葵は誰も聞こえないくらいの小声で、小さく愚痴をこぼすように呟いた。


「は?」という表情を向けられ、ばつが悪そうに亜紀から顔を逸らした葵を見て、埒が明かないと結論を出し、今度は男性客の方へとアプローチをかけていった。


「あ、あの~、お客様?

いったいどういうお話でしょうか??」


亜紀はすっとぼけるような感じで、あくまで丁寧に接客として男性に尋ねた。


「えぇ? もう察しが悪いなぁ~……。

今ちょうど、そこの金髪の彼女と遊ぶ約束を取り付けてて、なんなら他の女の子の友達も誘ってきてよって交渉してたんだよねぇ……」


「はぁ……」


楽しそうに話す男達とは対照的に、亜紀は心底どうでもよさそうな、つまらなそうに返事した。


しかし、そんな亜紀の反応もお構いなしに、男達はぺらぺらと話し続けた。


「なんか、彼女も友達連れてきてくれるみたいでさ、最初は……ほらッ!

今ちょうどあそこで接客してる女の子も、一緒に連れてきてくれるって約束してたところで、ようやく話もまとまっててさぁ……。

そんな中、君が僕たちにちょうど話かけてきてくれたから、君も一緒にこの後どうかな?って……」


最初からそうだったが、男たちはどんどんと調子づきだし、ついにはまったくのでたらめを息をするようにぺらぺらと話し続け、葵だけでなく、少し離れた位置で仕事をこなしていた美雪までもが、この仕事が終わったら、男たちと遊ぶことになっていた。


ふざけたことを続けてベラベラと話す男達に先ほどからイラっとしていた葵が、鋭く睨みつけるように視線を飛ばしたが、男たちはそれに気付くことなく有頂天で、気分良く話していた。


ゲラゲラと笑いながら2人で盛り上がり始めた2人組の隙を見るように、亜紀は小声で葵に話しかけてきた。


「ねぇ、どうゆう事?」


亜紀も親友の美雪が巻き込みかけているのに、怒りを感じている様子で、いつもより、先程よりも葵に敵意の篭った、棘のある感じで葵に問いかけた。


「接客をしてたら絡んできた。

橋本はホントにたまたま目をつけられてる……」


「ふ〜ん……。

なんでこんな調子付くまで好きに言わせてんの?」


「そ、それは…………」


葵は狙いは全くなかったが、結果的に葵の対応の仕方により男達を調子づかせる結果になってしまい、亜紀に質問され、上手く答える事が出来なかった。


「はぁ~……、それで? どうするの? 私たちじゃこうゆうの対応できないし、先輩達呼ぶ?」


「先輩か……。

まぁ、困った時は呼んでいいとか言ってたし、呼ぶしかないか……」


亜紀の問いかけに、葵がそう答えると亜紀はすぐに行動を起こすため、近くの従業員を探し始め、亜紀が探し始めたのを見て、葵もあたりを見渡し始めた。


するとすぐに、偶々近くに葵達とは違い元々Bloomで働いている一人の店員を亜紀が見つけ、そのまま声をかけようと亜紀が口を開くと、何故か遅れて気が付いた葵がそれを制するように、亜紀の体の前に手を伸ばした。


「ちょ、ちょっとッ!! 何ッ!?」


二人で合意し、良かれと思い声を上げようとした亜紀は、葵にそれを止められたことで不機嫌そうに声を出した。


幸いにも、依然として問題の男性客達は妄想に夢を膨らませるように二人で話し合って盛り上がっていたため、亜紀たちの行動には気づかなかった。


「ま、待て! まだ頼るのはよそう」


葵は少し慌てた様子でそう言いながら、亜紀の方には視線を向けず、亜紀の声をかけようとした女性店員と方をずっと見つめていた。


亜紀の声をかけようとした女性店員は、小竹こたけ しずかであり、Bloomの店員で葵の知っている限りでは、それなりの年数Bloomで働いていることを知っていたが、別の理由で今、彼女には頼りたくはなかった。


葵は今、小竹には女装の事を隠している身であり、葵の古い知り合いである静であるかどうかもわからない状態で、女装がバレるのは避けたかった。


「ほら、小竹さんは確かにベテランだけど、俺たちとそう歳は変わらないんだぞ??

他の人に声かけるか、自分たちで何とかしないと……」


「はぁ?? アンタさっきと言ってることめちゃくちゃよ?

それに小竹さんなら心配ないわよ。

なんらなさっき似たような場面に遭遇した時助けてくれたし……」


静となんとか距離を置いたままでいたい葵は、何とか適当な理由をつけ話したが、亜紀は全く納得がいっていない様子で、更には葵の知らないところで亜紀は、一度静にナンパから救ってもらっていた、


「なら尚更だろ! そんな何度も何度もいちいち絡まれたくらいで呼んでたら、小竹さんの仕事にも迷惑がかかるだろ!」


「はぁあぁ~~?? それじゃあどうすんのよ……」


頑なに静に助けを求めることを拒む葵に、亜紀が大いに不満を感じつつも折れ、葵に何か他に案があるのか尋ねてきた。


亜紀の問いかけに葵は一瞬黙り込み、妥協案を考え、すぐに考えをまとめると、亜紀に提案するように話し始めた。


「俺が何とか諦めさせるから、お前、話合わせろ」


「はぁ??」


葵の上からの提案に、イライラとし始めていた亜紀は反発するように声を上げた。


しかし、葵もこれを却下されたら後がないため引かず、続けて話した。


「こうゆう手の輩は慣れてるから俺に任せろ。

これからめちゃくちゃな事を言い出すけど、お前はそれを肯定するだけでいい」


「なるほどね、女装しまくるから慣れてるわけだ……」


「うるせ……」


嫌味を挟む亜紀に対して、短く葵が反発すると、亜紀は続けて葵を指摘するように話した。


「でも、アンタ。

上手く対応できなかったからこうなってるんじゃないの?」


「今度は問題ない」


「はぁ? なんでそんな簡単に言い切れ……」


不安要素がまだ拭いきれない亜紀に対して、葵はこれ以上の問答をめんどくさく感じ、亜紀が全てを言い終わる前に、行動を起こした。


「お客様、すみませんちょっとよろしいでしょうか?」


自分の話を無視された挙句、勝手に行動を開始した葵に、亜紀は思わず短く声を漏らしていたが、葵はそんな亜紀に目もくれず、声も女性の甘い声を作り、完全に集中していた。


「お? なになに?? どうした? お話固まった??」


男は依然として上機嫌のまま、まだ葵達から了承を得ていないのにも関わらず、完全にその気でいる様子だった。


「あの、ホントに大変申し上げにくくて、ずっと言えずにいたんですけど、私、レズなんです……」


「は……?」


葵は顔を赤く少し染めながら、恥ずかしそうな表情を浮かべながら、さすがとしか言えない演技で、平然と嘘を付いた。


葵の咄嗟のカミングアウトに、男たちは反応できず、先ほどまで笑顔をちらつかせていた表情が一変し、間抜けな顔のまま、口を少し開き固まっていた。


亜紀もそんな咄嗟な支離滅裂な嘘を信じてもらえるはずがないと、思っていたがそれよりもなにより、葵の恐ろしいまでの演技力に完全に引いていた。


「ごめんなさい、ホントにずっと言い出せなくて……。

私、可愛い子にホント目がなくって、男性とかそういう目で見れないんですよねッ!」


「は、ははは……、じょ、冗談だよね?」


葵のハキハキと話す話し方は、いかにもといった感じで、妙に真実味があり、顔はとても可愛いが性格がとても難がありそうな、そんなめんどくさそうな女感を醸し出していた。


男たちは先ほどの笑顔とは種類を変え、明らかにひきつった笑顔を浮かべ乾いた笑いをしていた。


「冗談だといいんですけどね~……、こんなんだから彼氏とかもできなくって……。

自分でも見た目は相当かわいい部類だと思うんですけどねぇ~。

まぁ、可愛い子が好きな分、自分も最低限度は可愛くないと許せないってだけなんですけどねッ」


「へ、へぇ~そうなんだ……」


葵は話せば話す程、残念な感じを醸し出し、男の方は葵の話を聞けば聞く程、萎えていっている様子だった。


葵のこの手は、今の彼らにはかなり有効だった。


男たちは手っ取り早く遊び相手が欲しかっただけで、彼女が欲しいとかではなく、今の葵のような付き合うと面倒そうな女性は、遊ぶ相手としては望んでいなかった。


「で、でもほらッ!

遊ぶだけでもさッ!」


「遊ぶだけなら良いですけどぉ〜……、エロイ事は今後も絶対無理ですよ?」


「なッ……!!」


今まで何を言われても笑顔で返してきた葵だったが、最後の言葉は真顔で冷たい表情を浮かべ、声の調子も変わらず、まるで威嚇するよう答えた。


危険な香りが漂い過ぎて、簡単に遊び誘えないようなそんな感じを男達は感じていた。


葵の男だからこそ堂々と言える不意を着く言葉に、男達は思わず声を上げ、普通なら色気を感じるその言葉に何故か脅されているような感覚を覚えた。


今の葵は金髪で、このBloomの中ではかなり遊びなれているような雰囲気があったため、男達にはノリの良さげで軽そうに見えていた。


そのため、葵さえ約束を取り付けてしまえば、後はどうとでもなると男たちは甘く見積もってナンパをしている節があり、葵はこの問答でその甘さを見逃しはしなかった。


「き、君もどうかな?

俺たちと遊ぼうよ……」


男は動揺しながらも、唯一の望みを託すといった形で、亜紀に声をかけた。


亜紀の見た目は、高校生にしてはかなり大人っぽく、美人だが気の強そうでしっかりとしてそうな見た目だったため、男達からしたらこんな軽いナンパに付いてきてくれる望みは薄かった。


「い、いや私はッ……」


亜紀がそう言って断ろうと口を開いたその時、亜紀の言葉は再び遮られ、横にいた葵が再び遮るように声を上げた。


「もうッ! 駄目ですよ~お客さん!!

亜紀ちゃんは、彼氏いるんですから~」


先程、今までの明るい声が嘘のような冷たい声で言い放った葵が、再びいつもの調子で、会話に割って入った。


葵の急な答えに亜紀は反応出来ず、葵の方を驚くような表情を浮かべ見つめていた。


「彼氏……」


割った入った葵の声に、男達は再び暗い雰囲気を漂わせ、「当然だよな」と言わんばかりに、小さく小声で呟いていた。


その声も葵は聞き逃さず、続けて追い打ちをかけるようにして話し続けた。


「居るに決まってるじゃないですか〜。

それに、亜紀ちゃんの彼氏さんは凄いですよ〜!

凄いお金持ちで、しかも昔からの幼なじみ! 実は婚約も済ませちゃったりしてます!!」


葵はこれでもかと言わんばかりに、嘘を並べまくり、まるで漫画の設定にありそうな、現実ではあまり有り得なさそうな事を次々に話した。


「ね? 亜紀ちゃん?」


葵の息をするように付き続ける嘘に、亜紀は圧倒され、「うん」と小さく答え頷くことしか出来なかった。


「ま、マジかよ…………」


「ほ、ほらッ! で、でも! そんな婚約とか堅苦しいじゃん?

たまには息抜き程度に軽く遊ぶのもいいんじゃない?」


男達は葵のでっち上げた嘘に、ため息を付くようにして落胆しつつも、それでもしつこく諦めず、亜紀を遊びに誘った。


まだ食い下がる男達に葵は内心「しつけぇ〜」と呟きながらも、引かずに答えた。


「う〜ん……。亜紀ちゃんって結構いつも凄いとこで遊んでるよね?

お食事行くのにも、高級レストランとかだったりするし、お家も厳しい家だから、ジャンクフードとかもあまり食べさせて貰えないんだよね??」


「え、え〜と……、そうだね……」


葵の質問に亜紀は頷くことしかできなかったが、葵の機転に任せていれば何とかいい方向には進みそうには思えた。


「で、でもほらッ! なら尚更そういうの珍しいんじゃない?

庶民の遊びというかさ? 俺ら得意だよ??」


葵の嘘にも負けじと男たちは更に食い下がった。


(はぁ~……、もうホントッ面倒だな……。

ここまで嘘並べてるわけだし、これから大きな嘘が2、3個増えようが問題ないか……。

でも、さすがにこれを清水に聞かれんのもなぁ……)


他のスタッフも忙しい中、せっせと働いており、一団体のお客様に二人のスタッフがこれ以上かまっている余裕もないため、葵は亜紀にちらりと視線を向け、意を決して一人の男性客の方へ耳打ちをするように顔を近づけた。


「お客さん……、実はですね。

亜紀ちゃん、こう見えて腐ってるんですよ?

ちなみに、さっき小声でお客様お二人ならどう妄想するか、教えてくれたんですけど……、

お客さんお二方ならば、アナタの方が受けだそうです」


葵は口元に手を当て、色っぽく、その光景はなにやら誘惑しているようにも傍から見えたが、葵の話す内容を聞かされた男は、たまったもんじゃなかった。


「お、おいッ! どうした!? 何言われたんだよ!!」


耳打ちされなかった男性客は、葵の耳打ちの光景を羨ましそうに見ており、耳打ちされなかったことを悔しそうに思いながら、少し興奮した面持ちで、耳打ちされた側に問いかけた。


「も、もうやめようぜ……ナンパ。

俺たちじゃ、無理だよ」


耳打ちされた側は完全に萎えてしまい、落胆した声で、暗い雰囲気のままそう呟いた。


「それではッ、お客様! ごゆっくり!」


男の急な敗北宣言に、亜紀は驚いた表情を浮かべ、葵はこの場に留まれば、葵が最後に付いた嘘の話を亜紀に聞かれると思ったため、すぐに話を切り上げるようにそう言い放ち、その場を去ろうと歩み始めた。


亜紀も少し放心状態だったが、葵が通常業務に戻ろうとしたのを見て、男性客にお辞儀をすると、葵の後を追うようにして、その場を離れた。


「ちょっと、アンタ、最後何言ったのよ!」


「あぁ? えぇ~と、まぁ適当に後で個別で会いましょ的な?」


速足で葵に追いつてきた亜紀は、小声ながらも力強く問いただすように葵に尋ね、葵は当然本当のことを言うわけもなく、はぐらかすようにしてテキトーな答えを答えた。


葵の答え方から、その答えはすぐに嘘だと亜紀は勘づいたが、同時に葵が本当の事を話すつもりがない事も分かり、不満げな表情を浮かべながら、そのことについて聞くのをあきらめた。


不満げな表情を浮かべながら、自分の後ろをブツブツと小声で明らかに不満を垂らしている亜紀に、葵はこれ以上通級されなかった事と葵の、まぁ間違いなくバレたら怒られる嘘がバレなかった事に少し安心し、一息つきながら不意に店内を見た。


葵が店内に視線をやると、偶々店で働く静と目が合った。


葵は咄嗟の出来事に視線を勢いよく外してしまった。


(やべぇ、不自然すぎたか? バレてねぇよな??)


葵は再び様子を見るように、静の方にバレないようにゆっくりと視線を向けると、静は業務に戻っており、再び目が合うようなことはなかった。


(なんとかバレてないか……。

なんか、最初目が合った時、顔をかしげてたような気もしなくもないが……、まぁ、大丈夫だろう)


葵は何とか女装をしている状態での、静との接触を免れ、やっと本当の意味で一息つくことができた。





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