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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
六章 夏休み ~沖縄篇~
112/204

俺より可愛い奴なんていません。6-9

まゆずみと別れたあおいは不安を感じながらも、フロアへと出ていた。


「戦場だ…………」


葵は目の前に広がる光景を見ながら、小さく誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。


葵の前には、相変わらずの盛況を見せているBLOOMブルームの光景が広がり、忙しなく店員が接客の為動き回っていた。


BLOOMの店は、海の家にしては大きく、見てくれはそこまで大きさを実感しないがいざ、働いてみるとそれなりの広さを誇っていた。


手伝いで入った美雪や亜紀を含めても、フロアに店員は6人おり、デーブルやイスが多く並べられ、6人が動き回っていてもそれほどの圧迫感は無かった。


(てゆうかこれ、さっきよりも混んでね?)


葵があまりの盛況っぷりに、呆然とその場に立ち尽くしていると、不意に女性から声を掛けられた。


「君ッ! もしかして、新しいお手伝いさん??」


「え、あ、まぁ……、そうですけど……」


葵が声を掛けられた方へと視線を向けると、元からこのBLOOMで働いているのであろう女性店員がそこに立った。


女性店員の声に葵は少し歯切れ悪くも答えると、女性は葵に近づいていくと、途端に葵の手を取った。


「えっ、えッ!?」


葵は急な出来事に頭が付いていかず、ただ困惑した声を上げ、そんな葵に構うことなく女性店員は、葵の手をひき、キッチンから料理を受け取るためのカウンターの方へと誘導されていった。


「な、なんですか? 急に……」


「え? あ、あぁごめんね! ちょっと忙しさが半端無いからあんまり余裕ないんだ〜!

お客さんの方で指導するわけにはいかないから、なるべく人がつかない所にね?

それと、アタシは篠崎しのざき 京子きょうこ

歳もそんなに変わらないと思うから、京子さんでもいいよ!!」


まだ困惑気味の葵に、京子は嬉しそうに話しながら、葵の手を引き、手短に葵に情報を流していった。


「指導っていってもホント大したことは無いんだけどね〜。

ただお客さんの注文を取って、料理を運ぶだけだから!

あぁ、でも何かトラブルがあったら絶対すぐに周りのスタッフに声を掛けてね!

後は私達が上手く解決するから!!」


「は、はぁ…………」


会話の主導権を握られ、どんどんと話される京子に葵は少し押され気味になり、呟くように答えた。


そんな問答をしながらも、カウンターの方へと辿り着くと、ようやく葵の右手は解放され、落ち着いて立ち話をする事が出来るようになった。


「あ、あの……、このBLOOMのフロアに出てる人って全員凄い美人じゃないですか??

そういった感じのお店になるんですか?」


葵はBLOOMに来てからというものずっと気になっていた事を口にし、チラチラとフロアの方へと視線を向けた。


「えぇ? 別にそういう訳じゃないよ?? そういう性的サービスはしてません!

意外とおませさんだねぇ~君ぃ」


葵よりも年上な彼女は年上感を出しつつ、葵を小ばかにするようにしてからかった。


「別にそんなんじゃないですけど……。

なんかお店の雰囲気からして、都内とかにあるメイド喫茶に似てるんで」


「あぁ~……、まぁ確かにねぇ~。

でも、別にご主人様呼びなんかはしてないよ? この可愛らしい制服とかは完全に店長の好みだしね。

ここに来てるバイトの子とかもそうだけど、かわいい制服ってことで、働きたいって子結構多いんだよ~?」


「へぇ、そうなんですか」


葵は篠崎の話も聞きつつも、店内で働く店員たちの雰囲気を観察するように見つめていた。


篠崎の言った通り、店内で働く女性たちは楽し気で、忙しそうには見えるがそれでも笑顔が絶えることはなかった。


「とゆうか、君。

さっきから女の子にしては声が低くない?

口調も男っぽいし……。あッ……、ごめん、これってあんまり言われたら嫌なヤツだった?」


先程から葵は特に声を取り繕う事無く、普段の素の声で話していたため、見た目に反してかなり不自然であり、当然京子もそれに気付き指摘した。


葵は京子のそんな質問に驚いた表情を浮かべ、てっきり黛が知っていた事もあり、全員知っての事かと思っていたが、京子は葵が男だという事を知っている様子は無かった。


そして、そんな京子に葵が答えようと口を開くと、京子は慌てたように、自分が過ちを犯してしまったのかと、触れてはならない事に触れてしまったのかと、気を使い始めた。


「あ、あぁいえ……、今日はちょっと声の調子悪くって……。

口調は……、まぁ、この髪の色を見てもらえば、何となく察せるかと……」


葵は本当の事を話そうかと一瞬思ったが、それを話せば余計に時間を取られ、更には更なる質問攻めを食らい、面倒な事になりかねなかったため、その場で即興でそれらしい理由を付けた。


葵の為に用意されていたウィッグが、金髪の長髪だったため、見た目はギャル、不良のようにも見えなくも無かったため、声は少し無理があったようにも見えるが、京子はそれ以上追求することは無かった。


「そ、そっかそっか!

それじゃ、あんまり時間も無いことだし、店内で使う機械、まぁ私たちが規範使うのはこれね?

注文取る機械……」


篠崎はそういって葵に見せるようにして、自分の制服のポケットから機械を取り出して見せた。


「これの説明とお客様への接客の基本をさらっと教えるから!

まぁ、店内で君の学校の他の子も働いてるし、他の子を見る感じ容量もよさげで、機転も利くから君たちの学校って頭良さげな感じするしなんも心配してないけどね!」


「はぁ……、お願いします」


葵は美雪や亜紀のおかげか、かなり評価が高く期待されている感じがひしひしと感じていた。


葵はバイトをしたことはあったが、レストランのような場所で、作る側であるキッチンではなく、お客様の対応をするフロア側をやった事がなかったため、若干不安も感じていた。


ラフな感じで話す篠崎とは対照的に、葵は少しこわばった、緊張した面持ちで篠崎の話を真面目に聞いていった。


◇ ◇ ◇ ◇


篠崎の指導を受け、数度の接客を経て、葵はそこそこに流れを掴みかけ、緊張も当初よりは緩み、周りを少し意識する余裕も出てきていた。


(とりあえず状況を整理すると、俺の女装は黛以外にはバレてないみたいだな)


葵が働く中で最初の方は新しく店内に入ってきた従業員という事で目を引いたが、それもすぐ無くなり、特に誰かからその事に問われたりするといったことは無かった。


橋本はしもと清水しみず……、清水は最初俺の事を疑るような怪しい目線で見てたから微妙だが、まぁ、多分バレてはない……。

アイツらの前では初めて見せるタイプの女装だしな。

それともう1人、重要な人物……)


葵は美雪と亜紀の様子を再び確認し、異常がないことを確かめると、今度は違う女性店員へと目線を移した。


葵が送った視線の先には、笑顔で楽しそうに接客をする小竹こたけ しずかの姿がそこにあった。


(小竹 静……、俺の知ってる安藤あんどうかどうかはさておき、あんまりバレたくないしな……、寧ろこの状況はラッキーだ。

半分バレてるかとも思って少し諦めかけてたとこもあったしな……、このまま隠し通そう)


葵はそう決心し、再び業務に集中し始めた。


「なぁなぁ、お前どの子声掛けるよ??」


「えぇ~、どの子もめちゃかわだからなぁ~。

めっちゃ迷うわ、今俺、人生で一番迷ってるわ~」


葵が接客の為店内を歩き回り、ある二組の男性が座っている席を横切ると、不意にそんな会話が聞こえてきた。


その男性たちから離れていった葵は気づかれないように、声の方向へ視線を送ると、そうには二人組のいかにも遊びなれてそうな男二人組がそこにいた


店内にいる女性従業員を見渡しながら、先ほどのような怪しげな会話を繰り広げていた。


店舗に女性店員しかいないことと、露出等は全くないが、メイド服に近い形のデザインをした可愛らしい制服を着用しているため、そのようなお客が出てくるのは当然のことでもあった。


(あの二人はめんどそうだな……)


いち早く厄介そうなお客を見つけた葵は二人を警戒しながら、他のお客様の注文を取り、注文を取り終えると葵は、カウンターの方へと戻っていこうと再び歩みだした。


その時だった。


「すみませ~ん!」


葵が警戒していた男性二人組のお客が、手を挙げ店員よ呼ぶそぶりを見せ、近くで仕事をこなしていた葵は必然と彼らと目が合った。


(うっわ……、最悪……)


葵は一瞬、嫌がる表情を表へ出しかけたが、今はこのBloomの店員ということもありグッと堪え、少しぎこちない笑顔を受けべながら返事をし、彼らの元へと向かっていった。


「俺、やっぱあの都会に居そうなちょっと気が強そうなギャル行くわ。

ギャルって軽い子多そうだしさ」


葵が近づいていくと再び、段々と彼等の会話が聞こえ始め、その会話は下心丸出しだった。


(聞こえてるっつぅの)


葵はその若干マヌケ感も感じる2人組に、男ではあったが心の中では嫌な気持ちを募らせながら近づいていった。


「はいぃ〜、お客様ぁ〜? お呼びでしょうか〜??」


葵は満面の笑みで、キッチンに入ってから使い始めた作り声で、元気で明るい女性店員を演じながらそう呼びかけた。


葵が好意的な態度を示すと、2人組もニヤニヤと笑みを浮かべ始め、営業スマイルを良いように捉えているのか、2人組はいきなり砕けた区長で馴れ馴れしく葵に語りかけてきた。


「へぇ〜、お姉さん超可愛いねぇ!

俺、結構タイプだわ〜! 連絡先教えてよッ」


(コイツ……、いきなりかよッ)


来るとは思っていたが、思っていたよりも早い、それどころか会話の初っ端にその話題を持ってこられるとも思ってもいなかったため、上手い返しも思いついてもおらず、完全に面をくらっていた。


それと、普段の葵であれば可愛いと言われれば否が応でも、気分が良くなり、少しサービス精神のようなものも湧いてきたりもするのだが、それは明らかに自分が優位な立場にいればの話で、今この状況は当てはまらなかった。


葵はお店に働く従業員であり、目の前の2人組はその店に来たお客様、立場的に見れば葵は弱く、上の立場から言われているような感じが、葵には気に食わなく、いつもとは違い、葵は余計に気分を悪くした。


(コイツら偉そうに……、お前ら程のレベル、都内に行けば腐り尽くす程居るってのッ)


葵は調子に乗り始めている2人組を前に、心の中で悪態を付きながら、それでもギリギリ営業スマイルは崩さなかった。


「またまたぉ〜、お客様は御二方ともイケメンですよぉ?

彼女さんもいらっしゃるんでしょ? 怒られちゃいますよ〜」


葵は精一杯に出来るその場凌ぎの逃げ口上を述べた。


内心、これだと若干どころかかなり口上にしては弱いと感じながらも、このまま気分よく終わってくれと思いながら、彼等の反応を見た。


「え、え? 俺らイケメン??」


「ま、まぁ……、確かにちょっとはモテるかもな〜」


(クッソッ! ド三流ッ!!

顔だけでなく、中身もそれに伴ってやがった……)


葵の淡い期待は直ぐに打ち砕かれ、男達の気分をよくし、更に調子に乗らせただけだった。


葵の思い通りに彼等が行動したとしても、葵は心の中で彼等をバカにしていただろうが、葵にとってあまり良くない方向へとどんどん流れていっていた。


「まぁ、イケメンな俺らだけどさぁ?

今、ちょっとフリーで彼女居なくて、結構困ってるんだよね〜!」


「お姉さんなら可愛いし、大歓迎だよ!?

俺たちと仕事終わったら遊ぼうよ! 俺らそれまで待つしさぁ〜。

なんなら、誰か1人お友達連れてきても良いんだけど……」


「え……、えっとぉ、ちょっと困ります。

まだ、御二方の事何も知らないですし……」


葵の切り返しがよからぬ方向へと余計に進ませてしまい、2人組は畳み込むように話を持ちかけていった。


葵は2人の勢いに押され気味になり、ややこしくなってしまったこの状況をどうにかしようと必死で考えた。


「困らない! 困らない!!

あ、それと、さっきのお友達の話、なんならここのお店のお友達でも良いんだよ??

俺的には、今あそこで接客してる女の子なんて連れてきてくれたら、凄い嬉しいかな〜……」


男は更に調子に乗り、リクエストまでし始め、葵に連れてきて欲しいと店内で働く女性の1人を指さした。


葵がその指さした方向を目で追うように視線を向けると、そこには、優しい笑顔で少しご年配の方を接客する美雪の姿がそこにあった。


(コイツら……、いい加減、調子乗りすぎだな)


葵は関係の無い美雪にまで被害が及びそうになっているのを確認すると、葵の中で何かが切れた。


「あ、あの〜、お客様、いい加減にッ……」


葵がお客に反抗しようと声をあげた瞬間だった。


「アンタ、こんなとこで何やってんの?」


不意に葵の声を遮り、クールで落ち着いた澄んだ綺麗な女性の声が割って入った。


葵はその聞き覚えのある声へと、視線を向けると、そこには無表情で佇む女性にしては大きい身長の清水 亜紀が立っており、亜紀よりもちょっと身長が低い葵を見下していた。

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