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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
六章 夏休み ~沖縄篇~
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俺より可愛い奴なんていません。6-7


小竹こたけ しずかは、自分の着替えを済ませると、BLOOMブルーム店内へと戻ってきていた。


静の仕事は主にフロアでの作業なため、厨房にはあまり入らず、どうしても厨房の手が回らない時に限っては、キッチンの作業も行っていた。


キッチン作業といっても、流石に調理までは行わず、パフェなどのデザートの盛り付け等が主に手伝う範囲だった。


まゆずみの元で働いている経験があるため、広い範囲で仕事をこなすことができ、黛も信頼を置いていた。


あおいのクラスメイトの手も借りるほどに忙しかったため、静もすぐさまにフロアに戻ろうと、厨房を抜け、店内に若干早足で向かっていた。


「あッ……、静!」


急ぐ静に、厨房で忙しそうに料理を作っていた黛が不意に静に声をかけ、その声に反応するように静は足を止め、黛の方へと視線を向けた。


「あの少年……、えっと、葵だ! 葵はどうした??」


黛はてっきりBLOOMをあまり詳しく無い葵を戻りも案内する形で、一緒に来るかと思っており、静だけが戻ってきたことを不思議そうに感じている様子だった。


「あ……、えっとなんだか、後から行くから先行っててって言われちゃって……。

更衣室からここまで入り組んでるわけじゃないし……、いいかなって」


「ふ~ん、なるほどな」


黛の問いかけに静も、少し困惑した様子で、何も考えうる大きな心配ごとはなかったが、静は少し不安そうな表情を浮かべ答えた。


そして、静の答えを聞くと、黛は何故か納得したような表情を浮かべ、そのあとに何やらニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。


静はそんな黛の表情を見ると、不思議に思うと同時に少し恐怖も感じていた。


若干黛に引きつつ、これ以上この場に自分も留まれば何か良からぬことが起きそうな感じがしてならなかった。


(店長がああいう表情してる時は、大体良かぬことを考えてるからなぁ~。

葵の同級生を巻き込んだ時と同じ表情してるし……、今回のターゲットは葵かぁ…………。

葵……、強く生きてね……)


静は黛との付き合いもそれなりのため、何か黛が良からぬことを考えているとすぐに見抜き、会ったばかりの葵を気にしていたため、その標的が葵だという事まで見切っていた。


(いったい何を考えるのやら……)


静は黛のおもちゃになりかけている事を不憫に思いながら、逃げるようにしてその場を後にした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


時間は少し巻き戻り、葵は静と別れ用意された衣類を着るため、ロッカーを探っていた。


「なんだこれ……」


葵はここに来る途中で、静から教わった通りの部屋に入って一番右隅に据えられていたロッカーを開け、困惑したような声で呟きながら、しばらく固まっていた。


開けたロッカーの扉から手を離せずにいたが、このままずっとそうしているわけにもいかず、葵はゆっくりとロッカーの扉を持つ反対側の手をロッカーの中へと入れ、中にかけられた衣類をゆっくりと外へ出していった。


(なんで……、女物が用意されてんだ……??)


葵の持ったそれは、明らかに女性物の衣類であり、なんならつい先ほど、見知った顔の女性たちがそれを着て元気に店内を歩き回っていた。


葵は自分の手に持った制服を呆然と眺めながら、ひたすら頭にはてなマークを浮かべていた。


(誰の差し金だ?? それとも偶々入ってただけか?)


葵は自分が女装をするものだと、黛にバレているのかと考えたが、あまりそっちの方向には考えを持ってきたくはなく、偶然だろうと思いながら、部屋を見渡し始めた。


部屋を見渡すと壁に備え付けられるように、ロッカーが囲うように置いてあり、部屋の真ん中には簡易的なベンチなような物があった。


葵が開いたロッカーには、名札のような物は付いておらず、来客用か予備用なのか、誰かが特定で使っているという訳では無いというのがわかった。


そしてそんなロッカーが幾つかあり、葵は人の使用しているロッカーだった場合は少し気まずいなと思ったが、非常事態だった為、1度手に持った女装物の衣類をロッカーへと戻し、他の使っていなさそうなロッカーを開けていった。


「駄目か……」


葵は片っ端からそれっぽいロッカーを開けていったが、殆ど中身は無く、中身が入っていたとしても荷物のようなものしか入っておらず、制服が入っているようなロッカーは見当たらなかった。


名札が付いているロッカーは、中に予備の制服が入っている事も考えられたが、中に貴重品等が入っているかもしれない事を考えると、開けれず、中に制服が入っていたとしても、それはそのロッカーの持ち主の者であるため、勝手には着れなかった。


葵は大きくため息を吐くと、自分が1番最初に開けたロッカーの前へと戻っていき、再び中を確認するように中を開けた。


中には変わらず、先程見た女性物の制服がそこに掛かっていた。


葵はそれを再び手に取ると、中央のベンチに置いた。


(別に、女物の洋服を着ることは全然、全くもって問題無いんだが、服だけ来てもしょうがないしな……)


葵はこれから女装する事になることを腹に決めていたが、それでも女物の制服を着るだけではあまりにも味気なく、流石の葵もなんの手も施さずに女装物を着るだけでは、いつものような美しさは手に入れなかった。


葵はため息をつきながら、不意に衣類の入っていたロッカーへと視線を戻すと、中にまだ何かが入っているのに気が付いた。


それを手に取り、ロッカーから取り出すとそれはポーチのような物で、女性らしいかわいい柄をした小物をいれるのにピッタリだった。


そして葵はそれを手に取った瞬間に、なんとなく中に入っている物がわかり、その小物入れをよく見るとそれは確信に変わった。


(なるほどね……。

これは、誰かの告げ口だな。 前野まえのか? 清水しみずの可能性も無きにしも非ずだな……)


小物入れを軽く振り、中の入っている物の音を確認した後、チャックをあけ中の物を取り出すと、そこには、沢山の化粧品がよくわかった。


葵はすぐに自分が売られた事に気付き、こんな状況になった原因の人物を幾つか思い浮かべた。


葵の女装を割と気に入っている節がある、美雪みゆきが是非見て欲しいと、黛に言った可能性も無くは無かったが、そういった話の方向に行かない限りは、美雪から進言して葵に女装をさせようとは言わない事は何となく想像が付いた。


その為、美雪はスグに候補から除外し、後は面白がって口を滑らしそうな前野と、基本的に葵を嫌っている節がある亜紀あきが嫌がらせのつもりか、言った可能性があった。


「はぁ……、面倒な事になったな」


葵は、珍しく女装をする事を渋った。


それもそのはず、葵が女装をしてお店に出るという事は、小竹 静にもその姿を見られるという事でもあった。


葵はしばらくの間、どうするか考えていると、不意に部屋の外から聞いた事のある女性の声が、葵に向かって呼びかけるように投げかけられた。


「あ、葵君〜ッ! 私、準備出来たけどそっちはどお〜??」


葵を呼びかけたその声は静であり、葵もそれにはスグに気づいた。


名前呼びに少し慣れてないような、名前を呼ぶ時に少し詰まっている印象があったが、葵が了承した事もあって、立花と呼ぶ事はこれからもなさそうだった。


「あ、あぁ、悪い!

ちょっと時間かかりそうだから先行ってて貰っていいか??」


「え……、あ、まぁ、それは良いんだけど……、大丈夫??

場所も複雑じゃないから戻ってこれるとも思うけど……」


静は一緒に戻るつもり満々で、葵にそう尋ねたため、葵に拒まれた事で一瞬戸惑ったように声を上げ、声色も少し落ち気味になって、残念そうな雰囲気が声からも感じ取れた。


しかし、静はそんな自分の気持ちを後回しにするように、葵の心配を優先に、気遣うように葵に呼びかけた。


「大したことでも無いし、大丈夫。

悪いな、せっかく気を使って貰ったのに……」


壁越しの会話だったため、葵からは静の表情なんかは読み取ることは出来なかったが、声色から気を落ちしている事は確かだったため、葵は、悪びれるように静にそう言った。


「え……? あぁ、いやッ!? 大丈夫! 大丈夫!!

こっちは大丈夫だから! それじゃ、先行って待ってるから!!」


葵に謝られてしまった事で、簡単な事で自分が気落ちしている事が相手に伝わってしまったあるいは、余計な心配を掛けてしまっていると考え、少し焦ったようなそんな口ぶりで、慌ただしく会話を閉じり、葵にそう呼びかけ、お店の方に向かってかけて行った。


葵はそんな静を不思議そうに感じていたが、今はそれよりもまず先に考える事があり、スグにその事を考えるのをやめた、目先の問題に集中した。


(見た感じこれだけだし……、しょうがない。

着替えるか……)


葵は女装をするため腹を括り、そんな事は人生で初めて女装をした以来だった。


(まだ確定じゃないけど、久しぶりにあった友達が女装をしてたらドン引きだよなぁ~……)


葵はつい先ほどに決断した判断が、間違いだったのでは無いかと不安に思いながらも、仕方なしに渋々女装をし始めた。


「こんだけ嫌々、女装すんのも久しぶりだな」


葵は小声でため息まじりに呟いた。


いつも読んでくださり、ありがとうございます。

そして、誤字脱字報告ありがとうございます。

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