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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
六章 夏休み ~沖縄篇~
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俺より可愛い奴なんていません。6-4

◇ ◇ ◇ ◇


前野まえのと、見知らぬ現地の美少女、小竹こたけと合流したあおいは、前野達に連れられ、まゆずみと呼ばれる者の元へ向かっていた。


途中、黛の所で具体的に何を手伝っているのだとか、小竹と黛は苗字が違ったため、どういった関係なのかなど、色々と疑問に思ったことを葵は聞いていた。


葵の質問に、前野と小竹は次々と答えていき、葵も知りたい事がそれなりにあったため、黛の所に行くまでに会話が尽きる事は無かった。


基本無愛想な葵にしては珍しく、会話を途切らせる事がなく、それは、何故か小竹が自然と話しやすく感じた事も大きかった。


話を聞いていく内に色んな事が分かり、どうやら小竹も扱い的には前野達に近い扱いで、黛の所ではバイトとして働いているようだった。


そして、小竹は両親が沖縄に居たが、小竹の両親と黛が昔馴染みでかなり中が良かったという事もあり、大きな黛の家に一緒に住まわせてもらっているという事だった。


小竹はそのお礼も兼ねて、手伝いとして黛の所で働いているつもりだったらしいが、黛が働くのであればキチンとバイト代は出すと言って、家の手伝いと言うよりは、どちらかと言うとバイトに近い扱いになっていたそうだった。


「なるほどね……。

それでやけに、バイトにしては店長と仲が良かったんだ……」


小竹の事情を知らなかったのか、前野はなるほどと言った様子で声を漏らした。


前野が働いている時に、そういった場面がいくつもあったのか、思い返してはなるほどと呟いていた。


「手伝いとして、お店に出ているからバイト代は要らないって言ってるんだけどね……。

ウチは、半旅館みたいな事もやってるからお金には困ってないって……」


「こっちに住んで長いのか?」


少しため息混じり話す小竹に、葵は続けて質問をした。


葵の質問はシンプルな物だったが、その質問の答えで知りたい事は色々あった。


まず、言葉の通りの意味合いで滞在してる期間を聞きたかったのと、その期間が長いのか短いのかを知りたかった。


短ければ、別に親の友人である黛の家の数部屋を借りるのは、あまり問題ないのかと思ったが、長期滞在なのであれば、ここに家を建てたりしないのかが、気になっていた。


「う〜んと、2年目くらいかな?」


「割と住んでるんだな……。

これから先もここに住む予定なのか?」


「どうだろ……。お父さんの仕事が結構転勤が多い仕事だから、また他の所に住むことになるかな」


「なるほどな……」


葵の質問攻めに、小竹は少し不思議に感じていたが、特に嫌な様子も見せず、親切に丁寧に一つ一つ答えていた。


たわいも無く、特にそこまで重要かと言われればそうでも無い会話だったが、自分を知っている様子な彼女が少し気になっていた為に、周りから見れば少し不自然だったが、質問を繰り返していた。


「おいおい、葵〜。そんなこと聞いてどうすんだよ〜……。

もっと他に聞くことあんだろ?? 普通さぁ……」


葵の質問を退屈に感じていた前野は遂に痺れを切らして、少し愚痴を零すようにそう言った。


「んあ? 他に?? 何聞くんだよ……」


「はぁ〜……。これだから、変人は……」


まるでピンと来ていない葵に、前野は呆れたようにため息を着き、女装趣味が定着してきていた葵を皮肉混じりに、変人呼ばわりすると、今度は小竹の方に視線を向けた。


そして、前野はパァっと表情を明るくさせ、興味津々といったような様子で、小竹に尋ねた。


「小竹さん! 小竹さんってさぁ、その……、彼氏とかっているのッ!?」


前野は意気揚々と小竹に質問し、小竹は急なプライベートに踏み込んだ質問に驚きつつ、葵は「またいつものやつか」といった様子で、呆れたため息を着いた。


「え? えッ??」


興味津々で目を輝かせて尋ねる前野に対して、小竹は、急な質問に完全に動揺していた。


しかし、小竹の動揺はすぐに収まり、少し恥ずかしそうにしながら答え始めた。


「彼氏かぁ……、今は、いないけど……」


「え!? マジッ!!

やったぁ~!! 俺ッ……、俺、立候補しま~す!!」


小竹の答えに前野はさらにテンションが上がり、声も大きくなり、必死にアピールをし始めた。


小竹も前野の言葉に再び、あたふたとし始め、どうしていいかわからないといった様子で明らかに困っていた。


そんな小竹を気まずく思ったのと、前野の節操の無い所はよく知っていたため、特に邪魔してやろうなどといった気はなかったが、それでも葵は口を挟んだ。


「お前……、いつもその調子で、ちょっと相手に失礼じゃないか??」


「え……?? いつも……?」


葵の声は二人に届き、小竹は好意を向けられたことで、恥ずかしそうにしながらも顔を赤らめ、葵からは喜んでいるようにも見えたが、葵の一言により、小竹の表情は固まり、だんだんと小竹の熱が冷めていくように見えた。


「ばッ! あおッ!!

ち、違うよ?? 小竹さん……。 別にいつもこんな感じなんかじゃなくて……」


必死に前野は弁明をしていたが、しゃべればしゃべるほど胡散臭く、誠実にはほど遠い印象だった。


「もう、諦めろ……。

沖縄の空港着いた瞬間に、長谷川とキョロキョロしながらかわいい現地の娘探してただろ?」


葵は具合が悪い中でも、当時の前野たちの行動を見ており、空港で前野たちに飛行機が苦手だという事を馬鹿にされていたことをまだ根に思っており、少し仕返しをする感じで、とどめを刺すようにそう告げた。


「ま、前野君って……、チャラいんだね……」


葵の言葉により、遂に前野の信用は地に落ち、小竹の少しトーンの低い声に前野はあきらめたように落胆した。


お調子者の前野から小竹を守った形になったが、そんな会話をしながら歩いていくと、目的の場所がもうすぐそこまで来ていた。


ヤシの木が並んでおり、南国の雰囲気がプンプンと漂う、何とも歩いてるだけでテンションが自然と上がってくる、そんなロケーションの浜が見渡せる海岸沿いの道路を歩いていた三人だったが、目的の黛がいるであろうところのビーチの一角だけは人が多く集まっていた。


もちろん広いビーチには満遍なく観光客がいたのだが、その一角だけやけに人を集めていた。


「あれか?」


葵はそれに気づくと小竹に尋ねるように声を上げ、人の集まる箇所を指さした。


「え? あぁ、うんッ! あそこ」


「なんか人が多くないか??

イベントでもやってんのか?」


葵は時間もお昼を少し過ぎている14時だったこともあり、海の家を経営していると話には聞いていたため、この時間に飲食関係で人を集めるのは珍しいと感じていた。


「あ、あぁ~、まぁ……、ちょっとサービスはしてるかな~……」


「見てのお楽しみだぞ? 葵ッ」


葵の質問に何故か小竹は歯切れ悪く答え、前野は先程まで振られた形になっており、かなり沈んだ雰囲気だったが、店が近づくにつれ元気を取り戻しており、何故か機嫌が良いように見えた。


(こいつ……、情緒不安定かよ……)


葵はコロコロと態度が変わる現金な前野を見て、心の中で呆れたようにつぶやき、黛達がいるとされる所に向かっていった。


◇ ◇ ◇ ◇


「なんだ……コレは…………」


黛の家に着くなり、葵が呟いたのはその一言だった。


目の前に広がる光景は、なんとも異様で、理解するまでに時間が掛かった。


店は遠くから見ていたとおりに大盛況で、人が多く利用していた。


そこは別になんら問題なく、店の風貌も凝った作りにはなっていたが、突飛な作りな訳ではなかった。


問題は、そこで元気よく働く者達だった。


葵は死んだ魚の目のような目で、その光景をただ呆然と見つめていた。


そこには、前野と同じで手伝いという名目で、駆り出さられた美雪みゆき亜紀あきの姿があり、他にも数名の女性スタッフが、忙しそうにテーブルの合間を縫って、忙しなく働いていた。



そこまでは至って普通の光景だったが、問題は店で働くスタッフの制服だった。


「ここは、メイド喫茶かなにかなのか……??」


葵は南国のビーチで明らかに違和感のある店を呆然と見つめ呟いた。


葵の言葉に小竹は苦笑いしか浮かべることができず、前野は首を縦に振り満足そうにしながら、帰ってきたことに喜びを感じていた。


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