俺より可愛い奴なんていません。6-3
(久しぶり……?
は? 何のことだ……??)
目の前に立つ見知らぬ美少女を前に葵は完全に呆然としていた。
ただ綺麗な可愛らしい女性だなと見つめていたつもりが、彼女と目が合い、こちらに寄ってきたと思えば、次の瞬間にその言葉を言われ、突然の出来事に完全に頭がついて行っていなかった。
「えっと……、どちら様で?」
葵は考えても考えても目の前の女性に心あたりはなく、少し間抜けな感じで、彼女にそう尋ねた。
葵の言葉に、今まで少し恥ずかしそうにこちらをチラチラと伺っていた、可愛らしいのその女性は、葵の言葉に表情が一瞬で固まり、驚いた表情へと変わっていった。
「え……?? 覚えてない??
人違い?? え? え?? 立花 葵だよね??」
久しぶり再開を二人で分かち合えると思っていたのか、葵の言葉で彼女は一気に取り乱し始め、オロオロとしながら葵に不安そうに質問した。
「そうだけど……。え? 誰??」
葵は一瞬自分の名前を当てられた事に驚きつつも、質問に答え、目の前の彼女が自分とそう都市が変わらないと感じた葵は、丁寧な話し方をやめ、いつもの口調で受け答えし始めた。
「え? だ、誰って……、覚えてないの??」
「まぁ……」
「マジか…………」
葵は記憶力には自信があったが、目の前に立つ彼女がわからず、再度確認する彼女に葵が心あたりが無いことを伝えると、彼女は小さく呟いた後、絶望したような表情を浮かべ大きく落胆した。
彼女が落胆して小さく呟いたのを聞いて葵は何か違和感のような、引っかかる何かを感じた。
しかし、それについて考えさせる間も無く、微妙な空気が流れる二人にまた別の声が掛けられた。
「お~い、小竹さ~ん!」
エントランスのロビーにまぁまぁ響き渡る大きな声で呼びかけられ、小竹という名前に反応した彼女は、声のする方へと視線を向け、葵も彼女の視線を追うようにして、声の方へ視線を向けた。
どこか聞きなじみのある声だと思いつつも、視線を向けるとそこには、葵の感じたとおりの人物がおり、こちらに向かって手を挙げながら、歩み寄ってきていた。
声をかけた人物は、前野であり、葵と同じく今回の修学旅行の事前調査として、沖縄にきた修学旅行実行委員の一人だった。
「黛さんに頼まれた物ありました~??
って……、立花? お前なんでこんなとこいるんだよ」
相変わらずの大きな声と、周りに人がいようとお構いなしな前野の行動に葵は、少し嫌気も感じつつもその明るさが前野のらしいところでもあったため、憎みに憎めなかった。
そして、葵はもう一点前野の言葉で気になることがあった。
前野は明らかに目の前にいる、日焼けした目の前の美少女に向かって知り合いのように、声をかけており、目の前の彼女は葵のことを知っているような口ぶりだったが、前野の呼んだ小竹という名前に心当たりはなく、黛の名前にも心当たりがなかった。
葵は本当に知り合いなのかと、余計に疑心暗鬼になり、彼女が自分を誰かと勘違いしているのではないのかとしか考えられなかった。
「いや、喉乾いたから飲み物買いに……。
そっちこそなんでここにいるんだ?」
「え? 買い物頼まれたんだよ。
小竹さんと俺で……」
葵は状況がうまく呑み込めず質問したが、前野の答えに益々訳が分からなくなっていた。
数時間、班のようなものから離れ、ホテルの自室で寝ていたつもりが、たったその数時間で、前野は知らない明らかに地元の人かと思われる同年代の女性と買い物に出掛けているこの現状に、何をどうしたらそうなるのか理解ができなかった。
「真鍋先生は?
とゆうか、あいさつ回りに行ってるんじゃないの??」
葵が少し取り乱し始め、動揺しているのを見て、前野は「あぁ~、そうだった」言わんばかりに声を漏らし、葵がホテルにずっといたため、何が起こっているのかまるで理解できていないことに気が付いた。
「葵は知らなくて当然か。
今、挨拶回りの一環で、黛さんのお店の手伝いしてるんだよ。
えぇ~と、俺と清水さんと橋本さんでね!」
「いや、ごめん。その説明だけじゃ全然理解できない……」
前野のあまりにはしょった要点だけの説明じゃ、葵はどうしてそんな状況になっているのかわからなかった。
ただ、何故か手伝いとして、美雪と亜紀、それと前野が黛と呼ばれる人の下で働いていることは理解できた。
「なんで、その~黛さん??って人の手伝いをすることになったんだ??
修学旅行で民泊をさせてもらう人たちに、回って挨拶するだけじゃないのか??
それに、他の連中は?」
要点しか言わない前野に対して、最初から説明してほしい葵は、聞きたいことを続けて尋ねた。
「まてまて、そんな一気に質問するな……」
葵の質問攻めに待ったといわんばかりに、前野はそう答え、簡単な質問をいくつかしたつもり葵は、早く答えろと若干イラっと来たが、何も言わずに前野の頭の整理がつくのを待った。
「えぇ~っと……、まず、葵の言ってた通り、最初は民泊でお世話になるところに二班で別れて、あいさつに行ってたんだ。
それからいくつか回って、何件目だったかな~?? 三軒目ぐらいに黛さんの家を訪ねたんだ。
黛さんの家って結構デカくてさ、普通の観光客とかも泊まるとこらしくて、浜近くではさ、海の家みたいなこともやっててさ。
それで、あいさつ行ったときに丁度黛さん、浜のお店の方いて、かなり忙しいそうにしてたんだ。
その時は一応、真鍋先生もいてさ、アポも取ってるから一応、近くに行ってみて無理そうなら、後に回して改めて来ようってなったわけよ」
前野は一から何があったか説明していき、葵はそれを静かに聞いていた、途中うなずいたり、小さく合図地を打つなりして聞いていると、何故か隣にいる美少女がだんだんとうつむいていき、気まずそうな反応をしていっていた。
葵はそれに気づいていたが、特に前野の話をやめせようなどとは思わなかった。
「うん、それで??」
「近くまでいったらさ、やっぱりすごい混んでて忙しそうで、諦めようって話をしてたんだけど、黛さんがこっちに気づいて、一旦店を離れて俺たちのところにまで来てくれたんだ。
真鍋先生とかもさ、悪いことしちゃったとか言ってたんだけど、黛さん俺らのところに来るなり、「良いところに来たッ!! 手伝って!!」とかって言われちゃって、少し強引だったけどそれで手伝うことになってさ。
今はその手伝いの一環で買い出し……みたいな??」
前野は別に迷惑だといったそんな感じは一切なく、淡々と起こった出来事について説明していき、なんなら、泊めてもらう事になる場所だから、それぐらい当たり前でしょ?といった様子で話し終えていた。
しかし、黛の家、あるいはお店の関係者なのか、隣に立つ小竹と呼ばれていた美少女は小さく、申し訳なさそうに「すみません」と答えていた。
「ふ~ん、なるほどね……。
まぁ、確かに手伝うのはしょうがないかもね、これから迷惑かけるわけだし……」
「お礼にうまい飯おごってくれるらしいしなッ!! 俺的にはラッキーだよ!
仕事もバイト感覚だしね!!」
納得する葵に対して、前野は小竹を気遣った訳ではなく、心の底からそう思っている様子で、上機嫌にそう答えた。
少し居心地の悪そうにしている小竹にしてみれば、後腐れ無いといった様子の能天気な前野の言葉に少し救われたのか、表情が明るくなり、笑顔も見れた。
少し暗い表情をしていた彼女だったが、笑うとその容姿はインパクトがすごく、笑顔のよく似合う女性で、前野はその笑顔により、デレデレとし始め、葵も珍しく一瞬、目を奪われた。
「てゆうか、葵も具合治ったなら、手伝い来いよ。
バイト感覚とは言ったけど、忙しいのはマジだからさぁ~」
前野は思い出したように葵のあまり触れてほしくない話題を持ち掛け、飲み物を買った後は、部屋で寝る気満々だった葵だったが、元気な姿を見られ、あまつさえこれからお世話になるかもしれない人を前にして、それを断ることは難しかった。
「そうなるよな……」
葵は当然の方向に話題が向いたことにがっかりした様子で、それは葵の声色にも表れ、行きたくないような感じが伝わってきていた。
「え? 葵、具合悪いの?? 別に無理しなくてもいいよ……。
あ、ごめん……、立花君」
小竹は癖なのか、葵に会ったときから下の名前で呼んでおり、葵が自分のことを忘れているのだとついさっき知ったばかりの小竹は、すぐにそれに気づき申し訳なさそうに、付け加えて謝罪した。
普段の葵ならば、馴れ馴れしいなと毛嫌いする事だったが、何故か小竹とのやり取りは違和感がなく、いやな思いなど微塵も感じなかった。
それほどまでに、小竹の葵呼びはすんなりと葵の耳になじんでいた。
「いや、もう具合も悪くないしいいよ。
それと、無理に立花って呼ばなくてもいいよ、小竹さんと前に会ってるか分からないけど、俺が思い出せてないだけなのかもだし……」
葵は少しこっぱずかしかったが、悲しそうにしている小竹を見過ごせず、自分自身もそれほど嫌な感じはずっとしていなかったため、無理に下の名前から変えなくてもいいと小竹にそう告げた。
「うんッ!! ありがとッ!」
葵がそう答えると、小竹の表情は一気に明るくなり、今までにない程の笑顔を葵に向け、元気な声で葵にそう告げた。
葵はその明るい笑顔を向けられ、恥ずかしさに耐え切れず顔を逸らした。
年頃の男の子に取っては、同い年ぐらいの女の子から下の名前で呼ぶことを承諾すふのは、かなり恥ずかしいものがあり、葵も例外じゃなかった。
「えっとぉ~、二人は知り合いなの??」
終始二人のやり取りをみていた前野は当然の質問を葵達に問いかけ、前野は小竹のことを気に入っていたのか、少し不満そうだった。
「いや、俺も思い出せなくてよくわからない」
「大丈夫ッ! 昔に会ってるよッ!!」
本当に覚えていない様子な葵に対して、小竹は上機嫌に自信たっぷりにそう答えた。




