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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
六章 夏休み ~沖縄篇~
105/204

俺より可愛い奴なんていません。6-2

◇ ◇ ◇ ◇


沖縄 本島 マーリンズ・ホテル


あおい達は空港からタクシーを二台使い、目的のホテルへと到着していた。


マーリンズ・ホテルはかなりの大きさで、正直に言ってかなりいい部類のホテルに入っていた。


ホテルに着くなり、タクシーの会計は真鍋まなべが済ませ、葵以外の生徒達は、ホテルのエントランスに入るなり、それぞれが歓声を上げてテンションが上がっていた。


ホテルのエントランスをそれぞれが見渡し、ワイワイと話している前野まえの美雪みゆき達を尻目に、依然として乗り物酔いをしている葵は、具合が悪そうに口元を手で押え、心の中で早く部屋に案内してくれと思っていた。


「す、すげぇな!

ウチの学校そんなにお嬢様とかお坊ちゃま学校じゃないのに、こんなにいい所泊まれんのか!?」


「ま、まぁ、修学旅行費は親が払ってくれるから学校は関係無いのかもしれないけど……。

これは、ちょっと良いかもな…………」


前野と長谷川はテンション高く、辺りをキョロキョロと見渡しながらそう話していた。


「いやぁ〜、やっぱり実行委員になって正解だったね?

みゆっち、あっちゃんッ!!」


前野達とは、別に女性陣も盛り上がっている様子で、その中でも晴海はるみはテンションが高かった。


「確かに、綺麗なホテルだね。

親にお願いして、今回の旅費のお金を出してもらったけど、これは感謝しなきゃ……」


「うんッ! そうだね!」


当たり前だが、今回の旅費は学校負担という訳ではもちろん無く、生徒達個人にそれぞれに請求は行き、勿論学生に直ぐに用意出来る金額でも無かったため、親にお願いして旅費を出してもらう者が多かった。


ホテルに感心しながらも、亜紀あきは冷静に親への感謝を述べ、美雪もそれに賛同した。


「おぉ、意外と広いなッ……。

ほらッ、お前達、部屋の鍵を取ってくるから付いてこいよ〜」


タクシー代を払っていたため、少し遅れた真鍋が生徒達の後からホテルのエントランスに入ってきて、生徒達に呼びかけた。


真鍋の声に、気分の悪い葵以外のは返事を返し、真鍋の後へと続いてぞろぞろと歩いて行った。


真鍋が少し不慣れな様子でエントランスで受付をした。


時折、そんな慣れない様子の真鍋をからかうようにして、女性陣や男性陣はからかい、からかう度に真鍋は不満げな表情を浮かべ、ブーブーと文句を垂れていた。


部屋割りは当然だが男女で別れ、真鍋は受付から二つの鍵を受け取っていた。


そうして、部屋の鍵をエントランスから受け取ると、軽く部屋までの行き方を教えてもらい、階層を別れ男女で部屋を取ったため、途中まで一緒に行動していた。


階段を一つ上がり、二階に差し掛かると、女性陣はさらに上へと上がっていき、二階に部屋のある男性陣とはそこで分かれた。


「ここか……」


部屋番号を見ながら、自分が持つ鍵の番号と見比べ、それらしき部屋を見つけると、真鍋は呟き部屋の前で立ち止まった。


真鍋に続いて廊下を歩いていた葵達も立ち止まり、これから泊まることになる部屋をまじまじと見つめていた。


真鍋が扉の鍵を開け、扉を開けると心地よい風が葵達の間を吹き向けた。


扉を開け、部屋を見るとそこには目を見張る景色が広がっていた。


部屋は四人部屋で取っており、仕切りは余りなく風通しの良い、開放感のある部屋になっていた。


玄関からベランダまで見通すことが出来、ベランダの向こうには青い海が広がっており、景色の良い部屋だった。


涼やかに吹く風には微かに海の香りが漂い、着いたばかりだが直ぐに海に入りたくなるようなそんな高揚感を沸き立たせた。


教員である真鍋もその美しい景色と、海の香りにすぐにでも浜に出たい気持ちが湧き出たが、いい歳した大人が、しかも引率としての身分で来た者がそんな子供のような事をする訳にも行かず、グッと気持ちを押し殺した。


「ほら、突っ立ってないで、荷物置いて。

荷物置いたら、これから数日お世話になる所に挨拶しにいくから」


真鍋は部屋に入っていきながら、海の景色で上がり始めた長谷川はせがわと前野、それと海を見た事で少し顔色が良くなっていた葵にそう言った。


「やべぇ、やべぇッ!!

めっちゃ綺麗だなッ!!! 沖縄おれ、初めてだから感動がやべぇよッ!!」


初めての沖縄と言う事もあり、前野のテンションは爆上がりし、海をもっとよく見ようと、荷物を頬ってベランダに向かって走っていき、声も必然と大きくなっていた。


「俺、3回目〜!

でも、やっぱり何回来てもすげぇよな、この海は」


長谷川も前野の後に続くようにして、歩きながらテキトーに荷物を下ろし、ベランダに近寄った。


ベランダは広く、木製の丸いテーブルと同じ素材で作られた木製の椅子が2つ置いてあり、端には同じく木製の2人用のベンチが備え付けられていた。


かなりオシャレで、ムード良く、その部屋の様子に更に前野達のテンションは上がった。


「なんだ〜? 自慢か〜??

全然羨ましくねぇ〜な〜。寧ろ、今の俺のこの初めての沖縄で高ぶる感情を経験出来ないお前の方が可哀想だし」


「いや、お前何言ってんだよ。

俺はもうそれをとっくに味わったんだよ」


「いやいや、今のこの1番感受性の豊かな歳に、初めて沖縄を見ることに意味があるんです〜。

物心つかない時に、見たって大した感想出ねぇだろ……、ましてや頭の悪い長谷川が……」


前野と長谷川は沖縄マジックにより、テンションは変な上がり方をし始め、どうでもいい事で争い始めた。


そんな2人を見て、葵は少し冷めつつ、自分の端に置くなりベットに勢いよく倒れた。


葵も沖縄マジックにより、不思議な高揚感から今までの体調の悪さが和らいだが、それでも、まだ本調子までには回復してなかった。


「お、おいッお前らッ!!

前野と長谷川は、荷物をほっぽんなッ! 荷物置いたら直ぐに挨拶行くって言ったろ??

立花も! ベッドにいきなり倒れるな! まだ誰がどのベッドで寝るか決めてねぇだろ!」


真鍋は多少は覚悟していたが、自分勝手に好き放題行動する生徒達に慌てながら、葵にはよく分からない理屈で怒っていた。


真鍋の意味の分からない言葉に葵は「ブッ」吹き出したが、それでも顔を上げることなく、ベッドに顔伏せながら死んだように眠ろうとしていた。


「真鍋先生〜、挨拶、挨拶って、民泊する予定になる人達の家でしょ??

まだ、大丈夫じゃない? 着いたばかりだよ?? ちょっと泳いでから行こ〜よ!」


ベッドで寝ようとしている葵を起こそうとしている真鍋に、長谷川は駄々を捏ねるようにそう言った。


長谷川の意見に前野は、賛成と言わんばかりに、「そ〜だ、そ〜だ」と声を上げた。


「ダメだ。まずは、やる事やってからだ!

自由時間はちゃんと用意してるから、まずは本来の目的!

ほら、葵も起きろ!寝るな!」


「いや、ほんとに具合悪いです。」


駄々を捏ねる長谷川達にそう言い放ち、何とか葵をベッドから起こそうとしたが、葵はうつ伏せのまま一向に動こうとせず、具合悪そうにそう答えた。


葵の具合は、少しづつ良くなってきており、再び乗り物に乗ったりとしなければ、普通に生活するくらいには問題ない程回復していた。


ただ、少し体にダルさと、つい先程まで吐き気を感じていた為か、気分はあまり良くなく、動く気力はわかなかった。


「えぇ〜〜……。

あぁ〜、もうッ、分かった!

ならちょっと休んでろよ? 1度部屋に出て、挨拶しに行ったりしたら、もう先生達は部屋にめったに戻って来れないから、なるべくホテルから出てフラフラしたりするなよ??

飲み物とかならホテルの1階の売店で売ってるから」


真鍋はあぁだこうだしている間にも時間を取られている感じがし、葵の対応は仮病を使っているようには見えなく、具合が悪いと言っている生徒を、無理に連れまわすわけにもいかないと判断し、引率の立場としては後ろ髪をひかれる思いだったが葵をここへ置いていく判断をした。


真鍋のそんな思いも葵に届いているかどうかわからなかったが、葵はベッドにうつ伏せになりながら、こもらせた覇気のない声で、「おぅ」と短く返事を返した。


葵の反応に真鍋は不安を感じつつも、葵がわざわざ仮病を使ってまで、遊びに出ていってしまうような、そんなアウトドアな性格では無いことも知っていたため、これ以上何かを忠告することなく、一言「安静にしてろよ~」と言いながら、部屋を出ていった。


真鍋に続くようにして、長谷川も前野もしぶしぶといった様子で部屋を出ていこうとし、途中ベッドに倒れ込んでいる葵に一言、二言、心配するような声を掛けながら部屋を出ていった。


長谷川も前野も真鍋も部屋から出ていった事で、先程までガヤガヤとうるさかった部屋は静かになり、部屋の窓を気を利かせてか、そのまま開けて部屋を出て行ってため、涼しく心地よい海風が部屋に流れ込んで来ていた。


そんな心地の良い部屋で、葵が眠りにつくのにそう時間はかからなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


涼やかな風が流れる部屋で、小さく寝息を立てながら、葵は眠っていた。


眠りについてから、二時間程しか経っておらず、眠りには最適な今のその部屋で、葵はたった二時間程の睡眠で目を覚ました。


普通であれば、どこまででも寝られるような、そんな環境にいたが、葵は睡眠を妨げられた事により目を覚まし、葵の睡眠を妨げたものはいたってシンプルなものだった。


葵はむくっと起き上がると、眠そうに目をこすりながらベットから降り、とぼとぼと歩き始めた。


「おしっこ……」


完全に寝ぼけている葵は、小さく呟き、傍から見た葵は幼児退行しているようにも見え、本人は全くそんなつもりはないが少し愛らしい形になっていた。


葵はそのままトイレへと向かい、部屋に一つ備え付けられた水洗トイレを使った。


用を足す内に、少しずつ意識がはっきりとし始めていた。


(体調は良くなってるな……。

ダルさももう無いし、気持ち悪くもない……けど)


葵は自分の体調を確認しながら、思考を巡らせていたが、なによりも自分の尿意で体が反応し、半ば無理やり起こされたような感覚に近かったため、眠くて仕方がなかった。


「のどもからからだな……」


葵は眠そうにしながらも、今ののどの渇きのまま寝るのはあまり得策ではないと考え、用を足し終えた後に、少し売店に行き、飲み物を買ったのち、部屋に戻り二度寝をしようと心に決めた。


葵はトイレを済ませると、小さく「はぁ~」とため息を付き、本当はこのままベッドに戻り眠りたいところ、面倒くさそうにしながら、部屋を出ていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


部屋を後にし、ホテルの売店までたどり着くと、一回のエントランスに近いこともあってそれなりに人がいた。


静かに風の音しか聞こえないあの部屋に比べて、人の話し声などが多く、エントランスは少し雑音が多かった。


まだまだ眠気を感じている葵にとっては、それは少しうっとおしく、早くあの部屋に戻りたいという気持ちでいっぱいだった。


売店へ訪れ、スポーツドリンクを一つ手に取るとそのままレジへと向かい、他の商品には一切目もくれなかった。


会計を済ませ、売店を出ると葵は、不意に一人の女性が目に入り、特に何を思ったわけでもないが、その女性が気になり、見つめていた。


そんな葵の視線に気づいてか、その女性も葵の方へ振り返り、葵と目が合った。


急な出来事に葵は少しドキッとしながらも、特にリアクションを取るわけでも無くただ平然としていた。


逆に相手の女性は、目を丸くさせ、驚いた表情を浮かべ葵の顔を見つめていた。


その女性の反応はどこか不自然で、葵は明らかに知り合いでは無く、見たこともない容姿の女性と偶々目が合っただけで、自分が視線を合わせていた分、急に視線を合わされたことに少しびっくりする程度だったが、その女性の驚きようは何故だかそれだけではないように思えた。


葵は一瞬知り合いかと思い考えたが、思いつくような人は頭の中に現れず、とゆうよりも、知り合いであれば目の前にいる女性を忘れるはずがなかった。


そう思えるほどに彼女は美しく、厳しい葵の目にもそれはとても美しく、それでいて可愛らしくも見えた。


南国で育ったためか、肌はこんがりと焼け、褐色のきれいな肌をしており、髪は黒くきらびやかに流れるような髪をしており、焼けた肌のせいか、活発そうにも見えなくもないが、顔つきがおとなしく優しい顔をしているためか清純そうにも見えた。


都会なんかではぜったいに合わないタイプの魅力を持つ彼女に葵は素直に感心していると、驚いた表情を浮かべていた彼女がゆっくりと葵に近づいてきた。


葵はそのことに少しびっくりしながらも、何もやましいことなんかはしていなかったため、逃げるなんてことはせず、彼女が近寄ってくるのを待った。


彼女はすぐに葵の前に到着すると、やはり葵の前で立ち止まった。


用事があるのが自分ではないかもしれないとも考えていた葵だったが、目の前に立たれたことでその考えは無くなり、自分はこれから何を言われるのだろうかと考えていると、彼女の方からニッコリと明るい太陽のような笑みを浮かべながらゆっくりと話し始めた。


「久しぶり……」


彼女は少し恥じらった様子を浮かべながらも、葵の目にはとても嬉しそうに見えていた。



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