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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
五章 ミスコン優秀賞達
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俺より可愛い奴なんていません。5-18

はっきりと室内に響き渡った音により、室内は静まり返り、その音を出した張本人であるあおいは、その場にいた全員から視線を一斉に受けていた。


先程までガヤガヤと盛り上がっていた分、静かになった事で不穏な空気になりつつあった。


ほとんどの者が驚いた表情のまま、何事かと葵の事を見つめていたが、何故か葵もまた驚いた表情を浮かべ、振り払った自分の手を見つめていた。


「あ、葵……? どうかしたのか??」


手を払いのけられたことで硬直する河野こうのと、何故か自分の取った行動に驚いている葵に恐る恐る北川きたがわが尋ねた。


「え? あぁ、いやッ……」


北川に声をかけられた事で、葵はハッと我に返り、思考が追いつていない様子で、考えが定まらないまま、言葉を漏らすように何かを否定しようと声を上げた。


葵は焦った様子で辺りを見渡すと、ようやくここで自分がすべての人から視線を集めている事に気づき、何か答えなければいけないとすぐに思った。


焦った状況の中でも、必死に頭を使い、どうにかこの微妙な空気を払拭できるように考え、

すぐにそれは浮かび、この状況をどう弁明するかを決めた時には、葵は既に落ち着きを取り戻していた。


葵は河野に体ごと視線を向けると、ゆっくりと話し始めた。


「今回の件はミスコンのついでみたいなもんで、実際取り仕切ってる主催者みたいなものだから、俺がいる限り、そうゆうのは無しな?」


葵は優しい口調のまま、軽く注意するようにして河野に言い聞かせ、葵がその言葉を放ったことで張りつめていた空気が一気に和らいだような感覚になった。


葵は河野が何をしようとしたのか全てを言わなかったが、事の惨状、そして二人の間に美雪がいたことからほとんどの者が何があって、葵が勢いよく河野の手を払ったのか何となく想像ができた。


「なんだよ河野、お前またそうやって手当たり次第に女の子にちょっかいだしたのか~??」


「河野サイテー……」


葵の言葉を聞いた馬場ばばはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ、からかうようにしてそういい、佐々ささきは冗談抜きに軽蔑した目を河野に向けながら冷たく言い放った。


河野に群がり、彼の行動に非難が殺到するのと、先程まで楽しげだった雰囲気が戻ってきたことに、葵はひとまず安心し、一息ついた。


そして葵は、さっきの自分の行動を思い返し、静かに黙り込み考え事をし始めた。


一通りいきさつを説明し、再び考え事をするように黙り込んだ葵を見ていたあや紗枝さえは不思議そうにその光景を見ていた。


「アレ、何か今日変じゃない??」


綾は先ほどの葵との妙なやり取りもあったことからか、葵の状態を不審に思っていた。


綾が、隣にいる紗枝にしか聞こえないくらいの音量で紗枝に尋ねるたが、紗枝は葵と美雪のいる方向を茫然と固まった様子で見つめるだけで、何も反応はしなかった。


「ちょっと紗枝?? 聞いてる?」


自分の質問に何のリアクションも起こさない紗枝に、綾が先ほどより少し大きな声で紗枝に呼びかけた。


「え? な、なにッ!?」


「ちょっと~、聞いててよ~……。

だから、今日のアイツちょっとおかしくないかって……。確かに、元から女装が趣味のおかしな奴ではあるけどさぁ……」


綾に尋ねられると紗枝は、ビクリと体を跳ねらせ、驚いた様子で反応し、そんな紗枝の反応にも綾は不審に感じたが、それよりもまずは別の事を話題にあげるため、ひとまずそこには触れずに、葵の行動の不自然さの話を上げた。


「立花君は別におかしな人じゃないよ……、優しいし……」


「いやいや、そういう惚気の話じゃなく……、今の立花だよ。

挙動と言い、さっき話した時も妙にいつも以上に絡みずらかったし……」


葵に気がある紗枝の惚気た答えに綾はマジレスした後、神妙な表情を浮かべて続けて話した。


「とゆうか、アイツ今回のこのイベント超乗り気じゃなかったじゃん?

最初、自分がいかない話だった時は、『私がどうゆう予定を立ててるの?』って聞いたら、

『知らね、景品したけど俺いかないし、興味ないし』とか、真顔で言ってきたんだよ??」


「あぁ、まぁ、立花君言いそうかも……」


綾の次第に熱を帯びていく熱演に、紗枝は葵をフォローできず、苦笑いを浮かべながら合図地を打った。


そして綾の熱演は止まること無く、ヒートアップしてきていた。


「それでね? あたしが『チャラ男多いし、そういうやらしい空気になったらどうすんだよ!?』って聞いたら、鼻で笑った後『何が悲しくてお前に行くんだよ……』だってよッ!!

めっちゃむかついたわッ!!」


綾はずっと不満に思っていたのか、積年の恨みを晴らすように紗枝に思いっきり愚痴を零していた。


「大体、自分だってそんなモテる方じゃないでしょ??

いっつも暗いし、無愛想で性格最悪だし……」


「ま、まぁまぁ、綾……。

立花君も本気で思ってるわけじゃないよ? 多分……。

綾とは軽口叩き合う仲みたいになってるから、ついつい思ってなくても口をついて出ちゃうんだよ……。

綾と立花君を見てると仲良かそうで偶に羨ましいなって思うし……」


「いや、何処がッ!!?」


紗枝を宥め、葵の失言のフォローをしようと言葉を連ね、何とか説得しようとしたが、上手くいかず、綾の熱が冷める事は無かった。


紗枝は沸騰しまくっている綾を、クールダウンさせる為に言ったその言葉だったが、作り話やその場凌ぎの為に言った言葉なんかでは無く、割と本心を綾に伝えていた。


「ど、何処がって……、結構、綾と立花君って言いたい事言い合うし、距離近くないかな?

偶にムッとする事もあるよ??」


「え……?」


綾の「何処が」の言葉に紗枝は納得いかなかったのか、少しずつ饒舌になっていき、紗枝の思わぬ反論に、綾は声を漏らし固まっていた。


「今日だって、立花君は何だかんだ綾と1番話してる気がする……。

どうやってそんな関係を築いたの?? 最近までそんなに仲良くなかったよね??」


予期せぬ質問により綾は、熱がどんどんと引いていき、それとは対照的に今度は珍しく紗枝が、饒舌になっていき、少し興奮した面持ちで綾に問いかけていった。


「い、いや、別に……仲良い訳じゃないよ?

アイツがムカつく奴なのは確かだけど…………」


「いや、綾と立花君は仲良さげに見える。

クラスの他の子とかにも聞いたけど、同じ答えだったもん!!」


綾は葵に気はなく、先程から本心だけを言っているつもりだったが、紗枝にそれは届かず、紗枝は頬を膨らませ、怒っているわけではなさそうだったが、それでも不満そうに納得がいっていない様子だった。


「ほ、他の子が言ってたって言われてもな~……。

ほんと何もないし、仲いいわけじゃないんだけどな~……」


紗枝の態度に綾は若干押され気味になりつつも、真実を答えた。


紗枝が葵に対して、好意を持ち始めている事を知っているため、綾は答え方に気を使っていた。


しかし、そんな中でも紗枝の頬を膨らませて不満を言うその愛くるしい光景に、同性ながらも心を打たれ、それと同時に「何故こんなに可愛くて、優しい子が立花なんかを」と、心の中で思っていた。


「もしかして、綾も立花君の事を……」


「いやッ! 待ってッ!!

それだけはホント待ってッ!! まじで違うからッ!」


紗枝の愛くるしさに若干トリップ感を味わっていた綾だったが、ついに紗枝の思い過ごしは、綾にとって一番可能性が低く、そう思われたくない方向へと進み、紗枝の言葉を思いきり遮った。


綾の否定の声は自分で思ったよりも大きく、部屋中に響き渡り、視線を集めてしまった。


一斉に視線を浴びた綾は、急に恥ずかしくなり、恥ずかしそうに片手を頭に当て、ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべながら申し訳なさそうに謝罪した。


「ほらぁ~、紗枝があんまりにもあり得なくて、ひどい悪口を言うから、視線集めちゃったじゃん……」


「ご、ごめん……」


綾はいまだに顔を少し赤らめ、恥ずかしそうにそう呟くと、何故かそこまで悪いことをしたわけではない、優しい紗枝も謝罪していた。


そして二人はそのまま静かに顔を見合わせていたが、急にこの状況を可笑しく感じ、二人でくすくすと笑いあった。


「おら、うるさいの。最後の曲はじまるぞ」


今回のイベントの最後を締めくくる曲が流れ始めると、楽し気に笑いあう二人に、葵がいつものカラオケに似つかないローテンションの声で呼びかけた。


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