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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
五章 ミスコン優秀賞達
101/204

俺より可愛い奴なんていません。5-16

あおいが曲を入れ、歌い始めて数分経ち、葵が遂にその曲を歌い上げると、周りからパラパラと拍手が上がった。


一言で言えば葵の歌声は完璧だった。


カラオケの点数は大して良くは無かったが、なるべく原曲に寄せた歌い方をしていたため、聞いている分にはかなりの腕前だった。


葵が歌っている間に、女子陣からは懐かしいとの声が上がり、サビに入ると流石に一応流行った曲という事もあって、男子陣も聞いたことがあるといった様子で、「あぁ〜」などと声を上げていた。


葵は歌い上げると満足した様子でマイクを置いた。


少しの間、静寂が流れ葵の歌声に感心した様子で周りは何も喋れずにいたが、スグにその静寂は破られた。


「ハイスペック過ぎる……」


葵の見事といわざるを得ない出来に、綾は若干恨めしそうに呟いた。


「実力差があり過ぎて、嫌味も言えないか??」


綾の呟きを聞き逃さなかった葵は、ニヤッと不気味に微笑みながら、挑発するように答え、そんな葵の嫌味に綾は何も言い返す事が出来ずにいた。


葵が周りからの賞賛や驚きを得て、満足げにソファにより寄りかかると、次の瞬間近くの席に座っていた紗枝さえあおいが身を乗り出す勢いで葵に攻めよった。


「なんで知ってるのッ!?」

「なんで知ってるんですかッ!?」


ほぼ同時に、葵に詰め寄るようにして少し興奮した面持ちで葵に2人はそう尋ねた。


2人の熱に葵は押され、若干驚いた様子で二人を見つめた後、淡々と答え始めた。


「いや、何でって……有名だったし流行ったじゃん昔……。

姉貴に連れられて見に行ったし映画……、漫画も家にあるから読んだこともある」


葵の答えに二人はどんどんと目を輝かせていった。


「まさか立花君がNA〇Aを読んだことあるとはね~……」


「立花さんッ! NA〇Aでいうと誰がタイプですかッ!?

女の子と男の子両方答えてくださいッ」


「いや、誰がって……、俺男でその時は小学生とかだぞ??

そうゆう目で見た事ないからわかんねぇよ、とゆうか男の方は今でも答えらんねぇし……」


二人の好きな漫画だったのか、紗枝と美雪はますますテンションがあがっており、葵はそんな二人ついていけなかった。


そしてそんな二人はNA〇Aの話題でますます盛り上がり、ついには葵を置いていき二人で話始めていた。


「いやぁ~、まさかこんなタイムリーなところで、あれを歌うとはね……」


一斉に質問攻めにあった上に、勝手に二人で盛り上がり、会話に取り残された葵に今度は綾が声をかけ始めた。


「なんだよタイムリーって……、結構古いだろこの曲」


「あぁ、まぁ確かにこの曲自体は懐かしいなぁって感じなんだけど、つい最近三人で漫画喫茶に立ち寄った時、丁度NA〇Aを手に取って、二人の中でブームが再熱しちゃってるんだよね……」


「まじか……」


葵がそう呟くと、綾は怪訝そうな表情を浮かべ始め、葵を何故か疑うような視線を向け始めた。


「まさか立花……、知ってて狙ったわけじゃないよね??」


「はぁッ!?」


綾のまさかの質問に葵は声を上げた。


「なんで、俺がそんなことしなきゃいけねぇんだよ……」


「だって、男でこの歌は歌わないでしょ?

それにこのタイミング……、どっかから聞きつけてわざと狙ったとしか……」


「意味わからん……。

俺にメリットあんのかよソレ……」


綾の妄言にいよいよ葵は呆れ出し、力ない声で呟いた。


「好感度アップを狙ったんでしょッ!!

もう観念したら?」


呆れる葵とは裏腹に綾は、今日何度目かわからない勝ち誇った表情を浮かべ葵にそう言い放った。


葵は気づかなかったが、先程まで二人で盛り上がっていた紗枝や美雪もこちらの会話を聞いていた。


「ちげーよ。

俺の十八番なんだよ……。カラオケ行った時の……」


「はぁッ!? NA〇Aが??」


「そうだよ、女装してる時に男の曲なんて歌えねぇだろ……。

キーもそこまで高いわけじゃないし、上手く歌えるからな」


葵が本当の理由を答えると、その場だけ静かになり、心なしか冷ややかな空気が流れ始めた。


「な、なんだよ……」


真実を答えると綾は「はぁ~」と大きなため息を付き、がっかりと言った態度を露骨に取っていた。


紗枝や美雪も同様に少し暗い表情を浮かべ、心なしか少し悲しそうに葵を見つめていた。


「嘘でも、女受けを狙ったとか言えないのかねぇ~」


葵の気づいていない二人の表情を尻目に、綾は不満そうに呟いた。


「狙ってないんだから仕方ねぇだろ……」


葵の言葉にますます綾は深いため息を付いていたが、葵は気にすることなく続けて話した。


「それに、別にこの曲に思入れが無いとは言ってねぇだろ。

当時はそれなりにハマって読んでたし、れんとか幼い頃でもカッコいいとか思ったし……」


葵がそう答えると綾は驚いた表情を浮かべ固まり、葵がその綾の顔を見て不思議に思っていると不意に葵の視界の外から、葵の服の袖が引かれた。


葵が袖の引かれた方向へと視線を向けると、紗枝は少し恥ずかしそうにしながら葵の服の袖を掴んでおり、美雪も葵の事をしっかりと見つめていた。


二人は最初の目の輝きを再び葵に向けており、まだ何も言葉を発していなかったが、葵は何を問われ始めるのか、大体察しがついた。


「ですよねッ!? 当時他の少女漫画と違ってかなり大人っぽい漫画だったですし、蓮はかっこよかったぁ……」


「蓮かぁ……、女の子は?

あの中だと、どういう娘がタイプなの??」


最近ブームが来始めている二人の熱は再熱し、更には止まらず葵は二人に質問攻めにあった。


綾はそんな光景をニヤニヤと笑みを浮かべながら見つめ、葵のカラオケはその一曲を最後に、紗枝や美雪の質問攻めにより終わりを迎えた。


◇ ◇ ◇ ◇


葵達は、時間目一杯までカラオケを楽しみラスト数分前のコールが部屋に流れると、最後の曲をみんなで歌う流れになっていた。


葵は結局、あの一曲を最後にとうとうカラオケの終了時間になっていた。


最初から特に歌う気も無かったため、そこまでがっかりもしなかったが、美雪と紗枝の少女漫画トークには少し疲れていた。


葵も姉と妹がいる関係で、家に多くの少女漫画があり、将来女装にハマってしまう性格も相まってか、葵はそれらに抵抗なく、普通に読んでいたりしていた。


そうして知識はあったため、他の漫画の話題に変わってもほとんどが読んだ事のある物で、熱量はともかく、話には大体ついていけていた。


「もう終わりか~。最後何入れる??」


「これでいいんじゃない?」


河野こうのが周りに問いかけると、佐々ささきはリモコンを操作し、曲を選択し河野に画面を見せ同意を取るとした。


「あぁ、なるほどねッ! いいんじゃない!?」


河野の賛成を受けると、佐々木は他の面々にも画面を見せていき、特に異論が上がることなかった。


佐々木が選曲した物は、最近CMソングとしてよく使われ流行っている曲だった。


流石は女子のカースト上位にいる佐々木だなと思わせるほどに、センスが良く、流行りに敏感な事がよくわかった。


葵も選曲された曲を知ってはいたのだが、サビの部分しかよくわからず、全部歌えといわれてもあまり自信が無かった。


「それじゃ、入れるねッ!

マイク回すからちゃんと歌ってねッ!!」


佐々木の言葉に葵は、ドキッとしながらも、歌えない時はその時一緒に歌っている相方にでも任せればいいかと内心思い、楽観的に結論付けた。


そんな風に考えていると不意に、葵の腕が服越しにつつかれた。


葵はもちろんそれに気づき、隣を見るとそこには、美雪の姿があった。


美雪は心配そうな表情を浮かべたまま、葵を頼るようなそんな視線を向けていた。


「ど、どうした……?」


急な出来事に葵は若干言葉を詰まらせながら、尋ねると美雪は素直に葵の質問に答え始めた。


「え、えっとぉ……、この曲なんですけど、私、サビしかたぶん歌えないんですけど、どうしたらいいでしょうか」


「い、いや……、どうしたらって言われても……。

俺もサビしかたぶん歌えないし、その時の相方に任せれば??」


「いやッ! そんな無責任ッ……、の、ノリが悪いとか思われません??」


葵の考えに美雪は正直に答えたが、途中葵に対してこの物の言いは失礼かと思ったのか、いい直しして答えた。


葵は内心、「そこまで言って、言い直す必要があったのか?」と思いながらも、そこについて追及することはなかった。


「別にしょうがないんじゃない?

まぁ……、ちょっと待ってろ」


葵は美雪にそう告げると美雪から視線を逸らして、ワイワイと盛り上がっている佐々木に視線を向け、声を掛けた。


「なぁ、佐々木。

この曲なんだけどさ、俺と橋本はしもと、あんま知らないんだ……。

サビだけになるけどいいだろ?」


「え? あ、あぁ、まぁいいよ。

分からないんじゃしょうが無いしね」


葵に声を掛けられ、せっかく北川と話をしていたのを中断させられ、かなり不機嫌な表情を葵に向けていたが、葵の声に反応し答えてくれていた。


声のトーンは低く、明らかに不機嫌さがあったが、葵は特に気にかける事無く、「悪いな」と一言だけ告げると、美雪に視線を戻した。


「ほら、何とかなんだろ?

後はサビだけ歌えば問題ないだろ?」


葵は特に深く考えなく、美雪の問題を解決してあげ、同時に自分もサビ以外は免除にして貰った。


しかし、葵は美雪に話している内に違和感を感じ始め、何か忘れているような気がしてならなかった。


そして、それは別に深く考えずともすぐに分かった。


「マイク2本あるんで、常に誰かと誰かはデュエットですよね?

サビだけしか歌えないですし、他に私達以外にサビしか歌えない人が居なかったら……」


葵が自分が話していて思い付いた事を、美雪は丁度口に出し、葵はそれに気付かされた。


流石にサビを2度も3度も、他に歌い人がいる為、歌う事は無いだろうが、それでも葵は美雪と2人で歌う事がこの時点で決定していた。


葵はそれに気づくと、だんだんと顔が熱くなっていくのがわかった。


他意は無く、ただ純粋に歌えない個所を歌わされるような事が無いように、回避しただけだったが結果的に、美雪と半強制的にデュエットになっただけだった。


葵が美雪とのデュエットにしたようにも見えなくもないこの状況で、葵はただ固まることしかできなかった。


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