サーナの実力1 ホントなら切腹ものだぞ、しかしっ
「そもそも、どうして僕らが陛下とグルだと思ったんです?」
俺がぶつぶつ言ってると、クレールが興味ありげに身を乗り出した。
「僕にせよヴァレリーにせよ、隊長に関することなら、たとえ陛下に口止めされても、こっそり教えますよ。仲間じゃないですか?」
「元隊長だよ、元!」
俺は遅ればせながら、訂正を入れた。
「だっておまえ、そもそもここの配置からして妙だろ? ゲートを設置してあるから、重要な場所なのはわかるけど、建前的には世界をわたる術は帝国が独占している。襲われる心配ないのに、なんでロイヤルガードの部隊から人数割くんだ? そこからして、もう怪しい」
この際だから、俺は思いきって以前からの疑問を述べた。
大企業の海外出張所のごときこの場所に、なぜロイヤルガードなんて虎の子を配置するのか、意味がわからない。
陛下がなにか企んでいると思っても、不思議はないはずだ。
……しかし、俺がそう力説すると、クレールはなぜか度し難い馬鹿を見るような目で見た。
「なんだ、その目つきは? 何か知ってるなら、話せよ」
「いや、本当に僕は何も聞かされてませんよ。勘ぐらないでください」
クレールは慌てて首を振る。
「ただし、僕はおそらく隊長よりは客観的に物事を見られますね」
おおっ、この青二才が言い切りやがったぞっ。
「客観的にって、なんだよ?」
「つまり、大陸全土にその名も高き、かの天威が、帝国を去ることの意味です」
「……は?」
「は、じゃありませんよ」
クレールは始めて顔をしかめた。
「大陸の他の国同様、邪神レヴィアタンに散々国中を荒らされた我が帝国が、どうして未だに他国の侵略を免れていると思います? 言うまでもなく、『ガランディア帝国には、邪神レヴィアタンすら倒した、あの天威あり!』と大陸中に知れ渡っているからです。隊長、貴方が帝国にいる限り、我が国は安泰なんです。むしろ、帝国を去った後こそ危ない」
俺が口を挟む暇もなく、一気に捲し立てやがった。
「当然ながら、帝国本国では、対外的には未だに隊長は隊長のままなんです。他国の者は、隊長が引退したなんて知らないし、実際、隊長の影武者だっていて、不在を隠しています」
「……えーっ」
「えー、じゃありませんっ」
うお、逆に怒られちまった。
「多分、僕らがここに配置されているのは、隊長と気心が知れた部下であるというのと、万一にも隊長の引退が対外的にバレた時、他国の引き抜きを警戒しているからだと思いますね。事実、ここへ就任する時には陛下に、『セージの客人が来た場合、予に教えてくれ』と言われましたし」
うそつけー、と言いたいところだが、こいつがこれだけ熱心に説明するってことは、少なくとも陛下は、本当にそういうつもりでロイヤルガードを配置したのかもしれない。
あと、陛下もまた、ゲートは自分達の独占技術じゃないと思っているのか……。
言いたいことは山ほどあるが、俺はあえて全部飛ばし、最初の疑問を述べた。
「なら……サーナの件についちゃ、陛下は完全にシロか?」
「いぇえ、それがそうとも言い切れない部分もありまして」
腕組みして顔をしかめたクレールに、今度は俺が身を乗り出した。
「なにか怪しいことがあったのか?」
「怪しいかどうかはともかく、つい数日前、陛下から連絡がありました。一つは無論、サーナさんがこちらに来るという公式連絡ですが、もう一つ――しばらく厳戒態勢を取るように、とのお言葉を頂きました」
「厳戒態勢? 敵が来られるはずもない場所なのに?」
「僕らもそう思いましたが、それについては質問しても教えてくれませんでしたね」
クレールが両手を広げ、つまらなそうに言う。
その時、なぜか奥のドアがまた開き、サーナが顔を出した。
「おや、練習試合はもう飽きました?」
愛想よく尋ねたクレールに、サーナはなぜか困惑顔で答えた。
「そういうわけじゃないです。ただ皆さん……もうサーナとは試合したくないそうなので」
「そりゃまたなんで?」
俺が首を傾げると、サーナはいよいよ言いにくそうに俯いた。
「あ、わかりましたよ! もしや、もう全員と試合して負かしちゃいました?」
はははっ、まさかねぇという完全な冗談口調で、クレールが割り込む。
ところがだ、サーナはようやく顔を上げ、小さく頷いのである。
「そういう……ことになります」
俺とクレールは思わず顔を見合わせた。
ちなみに、クレールは完全に笑顔が引きつっていた。
皇帝と帝室そのものを護衛する、エリート戦士のロイヤルガードが、女の子一人に負けたとか!
ホントなら切腹ものだぞ、しかしっ。