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偶然か必然か(続かず) こいつは本気で何も知らないのかっ

 両開きの扉を一杯に開き、ウェーブのかかった金髪を振り乱した美女が、俺を睨みつけている……ように見える。


 ていうか、こいつはここが日本だとわかっているのだろうか?


 なぜか帝国軍ご指定の、漆黒の軍服なんぞ着ているが。





「おー、久しぶりだな……まあ、俺が帰還してから一度覗いただけだから、半年ぶりくらい?」

「八ヶ月と十日ぶりですっ」


 やたらと正確に否定され、あまつさえ抱きつかれた。


「わっ」


 まさか、元部下がそんなことするとは思わなかったので、さすがの俺も焦った。


「落ち着け、ヴァレリー。子供が誤解したらどうするっ」



「もう、誤解しつつあります」



 暗い声がして横を向くと、サーナが頬を膨らまして俺を見上げていた……拗ねた目つきで。

 この子でも、こんな表情する時あるのか。


「以前の部下で、ヴァレリー少尉な。で、カウンターの向こうで笑ってる性格悪そうなのが、クレールな」


 部屋の奥でデスクの一つにふんぞり返る、痩身の男を指差してやる。


「ガキみたいに見えるけど、あれでも中尉だ。俺の元副官……て、もう知ってるよな。朝に来てるんだし」

「はい。存じ上げています」


 ちらっとクレールを見て低頭してから、サーナが頷いた。

 なぜかヴァレリーはわざと無視したように見えるのがたまらん。


「隊長、久しぶりなのにそれはひどい、ひどい紹介の仕方ですよっ」


 今になってクレールが声を上げたが、無視。

 代わりに、まだしがみついているヴァレリーを引き離す。


「ほらほら、離れた離れた。おまえ、情緒不安定に見えるぞ。女日照りの俺を、あまり刺激しないでくれ」

「わ、私は別に正常ですっ」


 むっとして言い返されたが、今頃になって恥ずかしくなってきたのか、自分から離れた。顔が真っ赤である。


「サーナちゃんのことで、なにか問題ですか?」


 あらかじめ予想していたように述べ、クレールがようやく席を立った。


「彼女、今朝到着したばかりですが」

「別にサーナを送り返す気はないよ、おまえはそう疑ってるみたいだが」


 しっかり否定してやると、サーナがぱっと顔を上げ、輝く笑顔を見せてくれた。


「サーナ、悪いけど俺、ちょっとクレールと話があるんだ……いろいろ帝都のことも聞きたいし。サーナは横の体育館……じゃなくて剣技場で、こいつらに胸を貸してやってくれ」

「ええっ!? 私だってお話ししたいですよっ」


 ヴァレリーが抗議するように俺を見たが、クレールが助け船を出してくれた。


「奥の部屋に交代要員が待機しているから、ヴァレリーは彼らも連れて、剣技場へ案内してあげてほしいな。僕は僕で、隊長と話があるから」

「剣技場、ですか」

「わかりました……けど」


 大いに不満そうなヴァレリーはもちろん、サーナも少し残念そうだったが。

 俺が「サーナの腕も見たいし、後で相手してくれな」と声をかけると、ようやくサーナの顔に笑顔が戻った。


「はいっ」

「あ、今から相手するヤツらは、遠慮なく叩きのめしていいよ」

「奥の部屋にいる連中はともかく、私は簡単に負けませんよっ」


 冗談の通じないヴァレリーが、やたらと声を張り上げる。


「わかったから、行った行った!」


 俺が笑顔で手を振ると、ようやく二人して奥のドアを開けて部屋を出てくれた。

 言われた通り、ヴァレリーが交代要員を叩き起こして、剣技場へ連れて行くのだろう。


 まあ、あの二人だけじゃ、相性悪そうだしな。






 部屋の中が静かになってからようやく、俺は奥のデスクまで行き、勝手に椅子を取ってきて座った。

 ちなみにこの部屋には帝国の人間しか来ないので、前からある元公民館の受付カウンターと、その奥のソファーセット、それに椅子と机が三セットしかない。


 事務員の部屋だったのだろう、元は。

 サーナとヴァレリーの足音が遠ざかるのを待ってから、俺はおもむろに尋ねた。



「なあ、アラン陛下の伝言とか、俺にないか?」

「どうしてです?」


 椅子に座り直したクレールに、俺は顔をしかめてやる。

 このガキ、トボけ腐ってやがるなっ。


「いろいろ唐突すぎるからだ。俺がこっそり、ホームに寄付してた件を探り出したのは偶然としてもだ。あのぐうたらな陛下が、アルザス地方の各ホームへの巡察とか、サーナに直々に会ったりとか、有り得ないだろ? 挙げ句の果てに、養女としてサーナがうちへ来た……偶然にしては、出来すぎじゃないか? まさかとは思うが、陛下はあの子が、俺に手紙書いてたのまで知ってるのか?」


「いや、どうでしょう――ていうか」


 クレールは短く刈り込んだ金髪を、手でわさわさ掻き混ぜた。


「むしろ今の話、僕は全部初耳なんですがっ」


 愉快そうに俺を見る。


「隊長、ホームに寄付してたんですか……へぇえええ。しかも女の子と文通……へぇえええっ」


 人の悪い笑みを広げて、俺を見る。まだ三十歳にもならん若造が、生意気な。


「邪神も青ざめるロイヤルガードの隊長が、ホームに寄付して女の子と文通……へぇえええ」

「いちいち繰り返すなよ、殺すぞっ!」


 今度は俺が赤くなる番だったかもしれない。


「文通というか、あの子がお礼手紙くれたんだっ。返事くらいして、当然だろ!」


 なんだよ、こいつは本気で何も知らないのかっ。てっきり陛下とグルだと思ってたのに。



話して損したぞっ。



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