(間奏)初めての新品お洋服
ショッピングセンターでの買い物は、予定通り専門店街の洋服店がメインとなったが、サーナがまた、何を着ても似合いそうなので、本人に任せることにした。
だいたい、平日の暇そうな店内には、三人の女性店員さんがいたのだが、サーナを見た途端、全員が息を呑んだ挙げ句、ため息をついたりした。
……やっぱ、女性から見ても美人なのだな。
俺に言わせれば、金髪碧眼かつ、顔の元々の造作が神の手による彫刻みたいに完璧なのに、全体として見ると、なぜかひどく繊細そうに見えるのだ。
「長い金髪が綺麗すぎ!」
「小顔の上に、顎のラインが芸術的だわっ」
「碧眼が、とても大きくて素敵」
三名が三名とも、それぞれ違う賛辞を述べ、俺が「下着は多めにと……あと、似合いそうな洋服を三着ほどお願いします」と頼んだ途端、全員がサーナにつきっきりになった。
サーナはひどくどぎまぎしていて、「こんなにたくさんのお洋服、見たことないです」と俺に囁きかけ、むしろ腰が引けていた。
「三着だけだから、安心して選ぶといいよ。俺は外で待ってるから」
「あの、セージさま」
店員達に聞こえないように、サーナが囁きかける。
「なに?」
「セージさまのお好みは、どんなデザインですか?」
「……む?」
いっちょまえに、俺の好みなんか気にせんでええ! と言いかけたが。
本当にそう言うと、この子は哀しむかもしれない。質問した時の目が、ヤケに真剣だったし。
かといって、「生地のうっすい、激烈にエロいのを頼む」とかジョークを飛ばせる年頃の子でもない。やむなく俺は、少し考えてまっとうなお勧めをしておいた。
「ドレスタイプのが、一着くらいはあるといいかもしれないな。サーナには似合うだろうから。後は普段気安く着られるのを三着分。つまり、全部で四着に変更しとくか」
実際の買い物は、実に二時間近くに及んだが、最後にはサーナも、ドレス一着と普段着三着分を決めたようだ。
内心、俺が密かに困ったのは、店員のお勧めを聞くごとに、サーナはその洋服に着替えて、なぜか俺に感想を聞きにくることだ。
「どうでしょうか? お好みに合いますか?」
……なんて心配そうに。
俺の好みは度外視でいいというのに……なかなかそうはっきりも言えない。だから結局、付き合って真剣に考える羽目になった。
これがなければ、多分もっと早く決まっていただろう。
それでもようやく買い物が終わったので、購入した分は全て店から発送してもらうことにして、俺はほっとして引き上げた。
――いや、本当に疲れた!
俺自身は、普段は通販とかで服買ってるしな。
次の目的地であるゲートまでは、そこから徒歩十分というところだった。
この街の旧公民館を、日本に紛れ込んで生活している帝国の駐在員が買い取り、あの異世界の大陸と道を繋ぐゲートとしている。
言わば、固定された転移門だが……今のところ、そこを利用する以外に、帝国と日本を行き来する術はない……ないはずだ。
世界を渡る術は帝国の国家機密だし、他国では、向こうからのランダム召喚は可能でも、自分達がこっちへ飛ぶことはできないはず。
まあ、それは建前に過ぎないだけで、実は他国でもこっそり実現しているかもだが。
……旧公民館がある場所へ行くまでは、サーナはひどくニコニコしていて、幸せそうだった。
「サーナは、新しいお洋服を着るのって、始めてです!」
と何度も口にしていたので、よほど嬉しかったのだろう。
ただ、問題の公民館に近付くにつれ、また不安を覚えたのか、ふいに俺と手を繋いできた。
「大丈夫だって」
不安そうな顔を見下ろし、俺は諭してやる。
「来る時に見ただろうけど、今あそこには、駐在を命じられた俺の元部下しかいないはずだよ。もちろん、様子見だけしたら、すぐ帰るからな」
「は、はいっ」
俺はまたサーナの頭を撫でてやり、街外れの旧公民館まで足を運んだ。
野外公園の一角にポツンと建つ場所だが、見た目は小さな体育館のような建物と、それに付随する平屋の建物にすぎない。
平屋の方は、入り口が両開きのガラス戸なので、見た目だけならコンビニみたいに見えなくもない。ただ、訪問する者は規定の手順がある。
俺が二回ほど入り口を叩き、さらに間を置いて三回、最後にもう一度二回叩くと……しばらくして女の声がひそひそと聞こえた。
「汝、帝国の関係者か?」
「この馬鹿みたいなやりとり、いい加減にやめないか?」
アホらしくなった俺は、外から呼びかけた。
「押し入るつもりの奴は、手順なんか無視して突っ込んでくるぞ、多分」
途端に、「セージ隊長っ」とでっかい声がして、扉が開いた。