天才少女の決意2(終) サーナは、セージ流を極めるつもりなんですっ
「つまりそのっ」
俺の不審顔を見て思いきったのか、サーナは自ら説明してくれた。
「エ、エキュラの森へ二人で行く覚悟のことですっ」
「えきゅら?」
しばらくあちらの世界から離れていたので、すぐにはピンとこなかったが、それでもすぐに思い出した。
向こうの世界、特に帝国の昔話に、「愛する二人がエキュラの森へと趣き、口付けを交わす。すると、主神リキュアが降臨して祝福を下さり、二人は子供を授かった」というサンタクロースもびっくりな寓話があり、帝国の母親は、幼子にはだいたいこの話をする。
ませガキが、「子供はどうやってできるのーーーっ」と必ず訊くから、説明としてはちょうどいいのだろう。
おそらくこの子も、院長先生あたりから聞かされ、そのまま信じ込んでいると見た。
(そうか、まだそういう段階で、別に自暴自棄になって飛び出したわけじゃないな……なんで帝室が俺に命令書まで寄越したのか謎だが)
少しだけ安心した俺は、ひとまず彼女を受け入れるにした。
まだ打つ手は残っているはずだが、対処には少し時間がかかるし、早急に追い出すとサーナが哀しむだろう。
ナイーヴな子なのは、これまでの文通で嫌というほどわかっている。
「なるほど、サーナの覚悟はよくわかった……となれば、俺としては拒否する理由なんかないが、ひとまず着替えとかいるよな?」
柔らかく言ってやると、サーナはひどく恥ずかしそうに俯く。
古くさいバッグを持つ手に、キュッと力が入ったのがわかった。
「あの……ホームで着用していた着替えを持って来ています……ご迷惑をおかけするわけには」
そのバッグに入っているのだとしたら、多分着替えとやらはワンセットで終わりだろうし、それもかなりの古着に違いない。
「着替え一組じゃ、少ないよ。容姿に恵まれてるんだし、女の子はお洒落しなきゃな。仮の親だろうが、娘に古くさいパンツなんか穿かせるわけにはいかん」
それに、と俺はわざと厳めしい顔を作った。
「子供は普通、親に『ご迷惑をおかけするわけには』なんて言わないぜ? 大いに迷惑かけるべきだぞ、子供の特権なんだから」
「……はい」
だから、いちいち泣きそうな顔するなと。
気が差した俺は、輝くような金髪を無造作に掻き混ぜてやった。
「というわけで、ちょっとだけ待ってくれ。上着取ってくる」
ついでに、買い物帰りにゲート(転移門)へ寄って、そこの係員にちょっと確かめてみる必要があるだろう。
この件には、どうも裏がある気がしてならない。
だいたい、俺がこっそりしていた寄付を、帝室が嗅ぎつけた時点で怪しいからな!
十月も終わろうとしているこの日は、幸運にも暑くも寒くもない穏やかな秋晴れで、まあ買い物に出かけるにはもってこいだった。
散歩がてら、近所のショッピングセンター内の専門店へ行こうとしたのだが、ほんの二キロほどを歩く間、サーナはやたらと俺の横顔を見上げてしばしばため息をつく。
さすがに気になったので、「年齢の割に若く見えるだろ? 実は元の身体は」と言いかけた途端、「存じ上げています」と熱心に答えてくれた。
「邪神、レヴィアタンを倒した時、悪しき神の最後の呪いをかわすため、捨てたのですよね!」
「……よく知ってるな」
俺は苦笑した。
邪神と戦った話はまだ最近だし、割と広まってもいるが、俺が自分の肉体を犠牲にしたことは、あまり知られていないと思っていたのだ。
「倒すことは可能でも、死に瀕した邪神の最後の呪いだけは、たとえ顕現した神であろうと防げない。レヴィアタンを倒した者は、必ず己の肉体が腐り果てる。だから俺は、あらかじめホムンクルス体を用意していたんだ……今の身体は、その時に自分で創造したものってわけ。元の年齢に合わせる必要もないから、若返りしちまってる」
ちなみに、元は人造のものであるホムンクルス体は、魔力によって老化を防げるので、自殺するか殺されるかしない限り、俺は永遠にこのままの姿だろう……。
首を振り、俺は過去の記憶を振り払う。
話を変える意味でも、逆に質問してやった。
「そういえば、俺も思い出したよ。サーナは独学で剣技を学ぼうとしてるんだよな? よく手紙に書いてあっただろ?」
「はいっ」
めちゃくちゃ嬉しそうにサーナは破顔した。嘘みたいに白い歯が眩しい。
思い出したと言えば、確かこの子との文通の時に、年齢は十三歳だと教えてもらった気がする。本気で親子ほど年が離れているな。
「サーナは、セージ流を極めるつもりなんですっ」
「……は?」
回想中だった俺は頬が引きつり、思わず彼女を見下ろした。