デートという名のイベント2(終) 随分と高いですねー。落ちたら死んじゃうんでしょうか!
ただ、部屋へ戻った後のサーナは、ひどく楽しそうにしていて、それを見ていた俺は、「まあいいか」と妥協してしまった。
まだサーナが来てからいくらも経っていないのに、すっかり自分の家族のようになってしまっていて、ちょっと戸惑うが。
翌日、俺達は朝食をホテルで摂った後、予定通りに遊園地へ向かった。
ディ○ニーランドも考えたのだが、どうせなら動画で見た派手なジェットコースターの遊園地へ行くことにし、電車で遠出した。
今日は平日な上に、元々あの遊園地はディ○ニーランドに客を取られまくりで、普段から入場者数が激減しているらしい。
実際、ほぼ開園と同時に着いたが、特に入場門前で並んでいるということもなかった。
これがディ○ニーランドなら、まずそこで列に並ぶ必要があっただろう。
「空いてるのはいいなぁ」
「他はもっと混んでいるのですか?」
昨晩届いた洋服に着替えたサーナが尋ねる。
ゴシック風衣装なので、下手すると本物の王女様みたいに見える。
事実、入場門をくぐる時、周囲の注目の的だったほどだ。
「たとえば有名なディ○ニーランドとかだと、入るだけで列に並ぶ必要があって、乗り物乗るにも、いちいち列に並ぶ必要があるらしい……まあ、俺のはテレビで見た知識だけど」
サーナの肩を叩き、俺はニヤッと笑った。
実は自分でも少し楽しみだったのだ。
「早速、動画で見たジェットコースターに乗るか!」
「はいっ」
やたら元気なサーナの返事を聞き、俺達は園内で一番目立つ遊具へと急いだ。
ここにはさすがに列があったが、それでも十人足らずで、余裕で待てる人数だった。
「しかしこれ、下から見るとすげーな。五回転くらいするせいか、うねうねとよく輪っかが連続していること」
「随分と高いですねー。落ちたら死んじゃうんでしょうか!」
……明るい声で言わないで欲しい。
「ジェットコースターは、毎年のように死亡事故があるから、十分注意しないと駄目だぞ。特に、安全ベルトはちゃんとかけないと」
それとなく脅してやったが、サーナのわくわく顔は陰らなかった。
「でも、セージさまなら、振り落とされても大丈夫ですよね!」
「はっは、こいつぅ! 大丈夫なわけ、あるかー」
馬鹿な会話をしているうちに、もう順番がきた。
入れ替わりに降りた集団のうち、女の子の二人組が、ふらつきながら泣いているのが気になったりする。
「こわかった、こわかったねっ!」
「もう二度と乗らないもんっ」
「わー、スリルありそうですっ」
二人を見送ったサーナが、余計に楽しそうに言う。
この子、実は怖いもの知らずなのかもしれない。
俺は逆に、多少不安になってきた。
ジェットコースターに乗ったのは、小学生の頃が最初で最後だが、その時は終始ゲラゲラ笑っている余裕があった。
しかし、あれからもう二十年以上も過ぎているし、当時乗ったのより、こっちの方が遥かに高くて回転がエグい。
途中、螺旋に回転しつつ、突進する場所もあるしな。ちょっと気になる……ちょっとだけ。
しかし、既に順番が来てるし、今更「俺は見てるわ」とも言えない。
俺は、なるべくさりげない表情で、サーナと共にジェットコースターの先頭(!)に乗り込み、安全ベルトを装着した。
なぜか俺達の後ろはもう誰もいなくて、今回は貸し切りらしい。
「二人きりですよ、二人きりっ」
「お、おお……」
つか、今少し緊張しているんで、話しかけてくれるなと思う。
「動きましたっ」
ゴトゴトッと音がして、乗り込んだショボい籠みたいな箱が動き出す。
二人だけなので多少は気が楽だが、なんか緊張してきたぞ……だいたい、いきなりぐんぐん上昇し始めたけど、どこまで上がるんだこれ。
小学生の頃に乗ったヤツは、もっと全体的に低かったからな。
サーナは一ミリも動揺した様子がなく、俺にくっついて終始笑っている。なんと二分くらいかけて頂上まで上がったが……何十メートルあるんだろか、一体。
そういや、宣伝パンフに日本で何番目の高さとかあったような。
(ヤバい、俺としたことがちょっとびびってきた)
密かに生唾を飲み込んだところで、サーナがふいに「あっ」と声を上げた。
「ど、どうしたっ」
「いえ、あそこを見てください」
この極限状態で、園内の一箇所を指差す。
そこには……金髪をした洋風の男共が数名ほど固まっていた。
「おいおい、こんなとこまでかっ」
まさかあいつら、王国側の連中かっ。
俺が閃いた瞬間、ジェットコースターは頂点に達し、そのまま奈落の底へ落ち始めた。
「ま、まずいっ」




