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天才少女の決意1 覚悟? なんの覚悟か!?


「ええと、あのさ」


 俺はびっくりするほど熱心に俺を見つめているサーナに、声をかけた。

 一応、最後の抵抗というか、疑問に感じた部分を申し立ててみようと思ったのだ。


 別にこの子に不満はないものの、仮にも年頃の女の子が、外見は置いて中身はおっさんの俺と、上手くやれると思えない。





「なんでしょうかっ」


 緊張しているのか、少し声が震えていた。


「いや、まあそう緊張せず。あのな、寄付って……俺、個人宛に送ってない気がするんだが? 確かに帝国に招聘しょうへいされた数年の間、毎月寄付してたけど、寄付したのはホーム全体というか、施設宛てだった気がする」


 そう、俺はあくまでもホーム(孤児院)宛てに寄付をしていたのであり、別に一個人にではない。

 しかし、サーナはほっとしたように首を振った。


「それは、問題ないんです。元軍人さんや現役軍人さんから届いた寄付金は、寄付してくださったお一人ずつに対して、院長先生がそれぞれ担当孤児を決めてしまわれるので。それで……」


 恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうな、実に複雑な表情を見せ、サーナがもじもじと続けた。


「セージさまの担当は、最初に寄付金が送られた時から、わたしに決まりました……お手紙のやりとりしてたと思いますけど?」

「う……うん、してた。そうか、君があのサーナなんだな」


 実は俺、その手紙も、単にホームを代表して、その子がお礼の手紙を書いているものと勘違いしていたりする。

 さすがに毎日ではないが、ほぼ毎週届いていたな。

 俺もまた律儀に「孤児の子が、義務感とはいえ、お礼メールならぬ手紙をくれるんだ。俺も応えないと」と思い、毎週返信してたほどだ。 


 ……いや、ここは正直に話そう。


 文通始めて半年後くらいに、俺は早くもめんどくさくなり、一度返信を辞めたことがある。

 俺が辞めれば向こうも返事を辞める……これで、お互い気楽になり、まさに「winwinの関係だろ?」と思って。


 しかし、義務感で書いていたのは、どうやら俺だけらしかった。


 返事をやめるや否や、今度は毎日のように手紙が届くようになり、「お風邪(返事しない言い訳)を召したそうですか、ご無事ですか……サーナはセージさまの治癒をお祈りします」とか「今日からリキュア神(帝国の神様な)にお祈りも捧げ、みそぎも始めました。どうかご無事で」等々、「めんどいから返信やめた」とはとても白状できない有様だった。


 仮病の振りしてから、五回目くらいに届いた文面が、また凄いぞ?


「サーナが前に頂いたぬいぐるみのセージ(名付けたらしい)が、棚から落ちましたっ。ものすごく心配ですっ。今夜は徹夜でお祈りしますっ」

 なんて書いてあって、人間の俺の方がびびった。


 ぐーたらな俺も、さすがに禊ぎのためにすっ裸で水に浸かるサーナや、俺の名をつけたぬいぐるみが落ちただけで不安になる彼女を思うと、怠け心も引っ込むというものだ。

 結果的に、去年こちらの世界に戻るまで、文通は続くこととなった。


 最後に出したのは、帰還直前の「俺は引退して普通の男に戻り、故国日本でスローライフを送ります」という、昔のアイドルの引退宣言みたいな内容で、暗に「もう返事出せないよ」と知らせたつもりである。


 ただ、寄付金だけは途切れずに続くよう、友人に頼んではおいたが。

 などと、つらつらと考えていた俺は、いつのまにか静まり返っていることに気付き、サーナに注目した。




「……なにを涙ぐんでるんだよ?」


 涙を溜めた瞳に狼狽し、恐る恐る尋ねる。


「いえ……初めてお会いできた上に、保護者になって頂いて幸せだったのですが……サーナが来たのは間違いだったのでしょうか。きっと……本当はセージさまに、き、嫌われていたのですね」

「ああ、違う違う。そうじゃないんだ! 俺はほらっ」


 とっさに上手い言い訳が思いつかず、俺は「ええい、ままよっ」と閃いたそのままを口にした。


「女に縁が無い独身者だし、普段から一人だからな。将来的に手出しするような事故が起きたら、まずいなと」


 後半は苦し紛れの嘘だが、少なくとも、独身歴長いのは事実である。

 あと、向こうの世界じゃ「女の子の日」が来てさえいれば、普通に未成年でも手出しはできるので、そうズレた嘘でもない。


 もっとも、この子がその基準に達しているか俺は知らんし、その気もないが。

 とにかく今は、奇跡的にジャージのポケットに入っていたよれたハンカチで、サーナの顔を拭ってやる。


「だから、泣くなよな」

「……はいっ」


 ほっとしたような顔でサーナは頷いた。

 すっかり機嫌が直ったのか、「今泣いた子が、もう笑った」の状態、そのままである。


「でも、それならなんの心配もありませんわ」


 実にお上品な言い方で、サーナは天使のように微笑んだ。


「サーナは既に覚悟を持って、セージさまの元を訪ねているのですから」

「……は?」


 さすがの俺も、ちょっと顔をしかめた。

 覚悟? なんの覚悟か!?


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