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お引っ越し1 あと二十五年若けりゃ、仲間に加わったかもしれないのだが

 うちにきた王国側のおっさんを置き去りにして、俺達は潰れたスーパーを出た。


 どうせもうすぐ術から醒めるだろうから、後は勝手にやるだろう。

 それ以前に、ここの住所も教えたことだし、遠からず調査に来るであろうクレールの部下達が、おっさんを連れていくかもだが。


 そして、引退した戦士が首を突っ込むことでもないので、俺はサーナを連れてとっとと移動した。当初の予定通り、しばらく住処を変えることにしたのだ。


 移転先は……当面、ホテルである。





 幸い、まだ多少の蓄えもあったので、ケチらず、割と名のある外資系のホテルに部屋を取った。部屋を分けてもよかったが、サーナが本気で嫌がるので、二人同じ部屋で。


 ……まあ、寝室が別にある部屋なので、大丈夫だろう。


 ちなみに、なんで金持ちでもないのにそんな贅沢するかというと、(例外はあれど)ホテルは高級になればなるほどセキュリティーがしっかりしているし、それに人目も多くなる。

 まさかとは思うが、また敵が新たな工作員を送りつけようとしても、今度はそう上手くいかないはずだ。





 ガランディア帝国の文明度は、魔法と機械が融合した他に類を見ない発展の仕方だが……少なくとも、ベッドはこっちの世界の方が上だったらしい。


 サーナは好奇心で入った寝室のベッドがめっぽう気に入ったらしいかった。




「セージさまっ」


 しばらく目を輝かせて、寝具やらマットやらを調べていたサーナだが。

 布団をめくった下のマットレスを手で押して見て、びっくりしたように俺を見た。


「寝具は嘘のようにふかふかでしたけど、このマットレスはどういうことでしょうか? なんだか中に固いものがたくさん入っていて、随分と弾力があります」

「うん。種類によるけど、マットの一部は、中に金属製の……え~、スプリングだかコイル? とにかくそんなのが入ってるんだよ。そうだ、ちょっとそのマットの上に立ってごらん」


 素直な彼女は、質問もせずに室内用スリッパを脱いでベッドの上に立ってくれた。


「こうでしょうか?」

「そうそう……おお、モデルさんみたいだな、サーナ」


 思った通りを述べてやると、サーナがはにかんだ表情を浮かべた。


「……お、お世辞ばかり」

「いや、本気だって」


 実際、うちに来た時のブレザー制服と似た格好の今は、金髪碧眼の効果もあってから、制服のモデルさんに見えたりする。


 だが、別にモデル台のつもりで、上に立てと言ったわけじゃない。





「次に、その上で飛んだり跳ねたりしてごらん」

「こうですか――あっ」


 思わぬ弾力に驚いたのか、飛び上がりながら、サーナがきょとんとした顔をした。

 たちまち、俺がそれ以上勧めないうちに、自分で何度も何度も跳びはね始めた。なにがおかしいのか、空中にいる間はしきりにくすくす笑っている。


 この最上階は天井も高いし、上に頭をぶつける心配はない。


 俺もあと二十五年若けりゃ、仲間に加わったかもしれないのだが、残念である。

 ……思わずそう思ったほど、サーナは喜んでいた。

 本当はこの手の遊びはマットの寿命を縮めるので、やらない方がいいのだが、サーナの笑顔を見るためなら――


「おっと!」


 ポカンと見ていると、飛び上がり過ぎたせいか、落下のさいにスカートがまくれ上がって、思いっきり可愛い下着が見えてしまった。

 俺は慌てて窓の方を向いた。


 サーナは別に気にした様子もないのに、俺が反応してどうするんだと思うが……反射的に目を逸らしてしまったのだから、仕方ない。


(ったく、中年の俺がいちいちドギマギしてどうするよ)


 内心で呆れた俺は、こっそりため息をついたが、「セージさまっ」といきなり大声がして、慌てて正面を向いた。

 なぜか、上から両手両足を広げたサーナが落ちてくるところで、慌てふためいた。


「な、なんだなんだっ!」


 とっさに自分も手を広げ、怪我をしないように、ふんわりと受け止めてやる。

 お互いに抱き合う形になってしまったが、少なくともサーナはころころと笑っていた。


「楽しい、楽しいですね、これっ」

「いや……そうじゃなく、いきなり俺の方へ飛んで来たら危ないだろっ」


 しかも、姿勢が万歳アタックでもするかのような、大の字姿勢ときた。


「大丈夫です!」


 降ろしてやったサーナは、まだこっちの首に両手を回したまま、笑顔全開だった。


「セージさまなら、ちゃんと受け止めてくださるだろうという、自信がありましたもの」

「それでも危ないよ」


 拳でこつんと小さく額を叩き、俺は苦笑した。



 こんな風に自然に接してくれるのは、今のうちだけかもしれないな……なんて考えながら。

 


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