疑われた英雄2(終) ロイヤルガードは、陛下と隊長以外の命令に、従う義務ナシ
――移動の件はおいて、敵の隠れ家探査は、運が無かったらしい。
おっさんを連れて到着した元スーパーには、既に人の気配がなかった。
捕虜が持ってた鍵で、裏口を開けて侵入したが、事務室にあたる広い部屋は、もぬけの空である。
おそらく、なんらかの理由で、訪問者のおっさんが失敗したことがバレたのだろう。
逃げたのは間違いないだろうが、よほそ急いで撤収したのか、複数の事務机の上に、俺達のことを調べたノートなどが残されていた。
俺のことも、現在の住所を記した地図やら、既に日本に戻って一年経っていることまで、ばっちり調べ上げている。
他にも、皇帝アランの動向や、彼が現在どこにいるかなど、唖然とするほど詳細にわたっていた。
「なんとまあ、怪しい――」
言いかけた時、ポケットの中でスマホが振動した。
普段は、滅多に電話なんか、かかってこないんだが。胡散臭い思いで取り出すと、相手の表示は昨日会ったクレールである。
……昨日の今日で、なんの用事だ?
「もしもし?」
俺が警戒に満ちた声を出すと、クレールののんびりした声が応えた。
『隊長、そちらに帝国の手の者が誰か行ってます?』
「帝国? 王国じゃないのか? ヴィランデル王国の奴なら、ちょっかいかけに来たぞ」
俺がざっとおっさんの訪問と、今自分が王国の連中が逃げた後の拠点にいることを話してやる。もちろん、ここの住所も教えてやった。調査してもらわないといけないからな。
全部聞いた後、なぜかクレールはやたら感心したように唸った。
『ははぁ……なるほどなぁ』
「おい、自分だけわかったような声だすな。そもそも、どういう用件だ?」
『いや、本国から連絡がありまして。天威の動きに注意せよと』
「俺が内通してるってガセ情報が、もう出回ってんのか!」
嫌過ぎる話に、思わず声が大きくなった。
『う~ん、微妙に違いますね』
「そ、そうか……じゃあ、なんだ?」
『もはや天威は裏切って、ヴィランデル王国に寝返ったとか』
「内通より、さらにひどいわあっ」
思わず大声が出たじゃないか!
『はははっ。まあでも、疑いの元は陛下じゃなくて、元老院ですよ。警戒指示が来たのも、そっちからなので、ご心配なく。わざわざ使者まで来たので、「ロイヤルガードは、陛下と隊長以外の命令に、従う義務ナシ」と伝えて、追い返しました』
「そうか……そりゃ苦労かけたな」
『いえいえ、当然です。時に、実はもう一つ情報がありまして、陛下が今、病床にあって、明日をも知れない状態だという話が出回っているんですが、これはご存じですか?』
「いや、初耳だ。でもそれは、アランが故意に流した、大嘘だと思うね!」
俺は確信を持って答えた。
『気が合いますね』
クレールが嬉しそうに言う。
『僕もそう思います。ただ、隊長が聞き出した帝国側の内通者については……実は身近にいるやもしれません』
最後は一転して、小声になっていた。
「そうだろうな」
自然と俺の声が低くなった。
「俺の日本での住処を知ってて、なおかつゲートに容易に近づける奴となると、ごく限られてしまう。言うまでもないが、気をつけろよ、クレール。可能なら、早めに手を打て。俺はこれからサーナと移動するが、落ち着いたらまた連絡入れる」
『了解です。なるべく早く、朗報をお知らせできるようにします』
話はここまでで、俺達は互いに電話を切った。
こちらでも、一度だけ。
新たな連載始めてますので、ご興味のある方はぜひ。
「好きだった同級生が自殺した十年後、遅すぎる告白を受けた俺は、過去に戻ってハッピーエンドを目指す!」
だいたい、タイトル通りの内容です。




