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疑われた英雄1 二人で、駆け落ちですか!?(歓喜)

 五分後、俺達はおっさんを先頭に立てて、街を移動中だった。


 彼が教えてくれたのが、割と近所の潰れたスーパーだったので。

 なんでそんなところを滞在先に選ぶのかと思うが……どうやらヴィランデル王国は、こちらの世界に渡ってきてまだ日が浅いので、いろんな意味で準備不足らしい。




「セージさまのことを含め、既に王国側に重要情報が洩れているのは確実なんでしょうけれど、彼らは転移術をも入手しているということでしょうか?」


 ずっと考えていたのか、サーナが今思い出したように言う。

 俺は、ぱっとサーナを見た。


「ナイスだ、サーナ。それ訊くのを忘れてたよ。隠れ家にゲートがあるのは聞いたが、それはまだ質問してなかった」


 ずっとアラン皇帝の本心を考えていたのだが、そのせいで、肝心な部分を聞き損ねるところだった。自分で思うより、サーナの行く末を心配していたようだ。

 俺は早速、前をよたよた行くおっさんに訊いた。


「おい、世界をわたる知識は、誰から得た?」

「……帝国内にいる、内通者からだと聞いております」


 俺とサーナは思わず顔を見合わせた。


「嫌過ぎるが、納得できる話だな。で、誰だそれ? おまえは、名前を知ってるか?」

「私は……単なるコマですので……聞かされておりません。ただ」

「ただ、なんだ!?」


 厳しい声で問うと、向こうはしれっと吐かしやがった。


「個人的には……お会いする直前までは……内通者は貴方だと思っておりました。密かにそんな噂が……流れていましたので」


「――っ! ふざけんなっ」


 人をからかってんのかと思ったが、おっさんの顔は今も茫洋とした表情のままだ。まだちゃんと、俺の術中にある。

 本気で、俺が帝国の裏切り者だと思っていたらしい。


「言っとくがおまえ、術が解けた後も、そんなことをしゃべって回るなよっ。本気にする奴がいたら、どうするっ!?」


 ガミガミと命じたが、沈黙していたサーナが、さらなる爆弾を落としてくれた。


「まさかとは思いますが、その情報って味方をも欺く、王国側の罠の布石では? 帝国の皇帝陛下が、王国側を罠にかけつつあるように」


 サーナの鋭すぎる指摘に、俺は一瞬足が止まってしまった。


「つまり、こういうことか? 王国側の馬鹿たれ共が、俺が内通者だと敵の帝国側に思わせるため、味方も巻き込んでそんな大嘘情報を流していると?」


「そう、そうです。帝国側に、セージさまが内通していると思わせることに成功すれば、英雄天威を排除できると考えたのでは? そのためにも、まず味方に偽情報を密かに流すのは、よい手段のように思えますわ」


 大きく頷き、心配そうな顔を見せてくれたが、誰よりも俺が「こいつぁ、ヤバいかも」と思い始めている。

 敵を欺くにはまず味方からと言うし、現に帝国のアランだって、俺はその本心を計りかねている。ヴィランデル王国側も、同じく策を用いようとしていても、全く不思議はない。


 それに、帝国の攻略を本気で考えるなら、連中は俺が邪魔だと勘違いしそうだ。


 こっちは本気で引退した身なのだが、敵はそう思ってはくれまい。

 俺自身の目で見ても、かなり良い手に思えるのが嫌すぎる。なぜなら、アランはそんな情報を信じはすまいが、あいにく俺を嫌う奴も帝国には多いので。





 顔をしかめて考え込んでいたせいか、サーナが憂い顔で俺を見つめていた。


「大丈夫だよ」


 俺はあえて笑ってみせた。


「仮にそれが本当だったとしても、俺を片付けるのが容易じゃないのは、みんな知っているさ。それに、さすがに皇帝のアランは、俺を疑わないはずだ」

「そう、そうですねっ。セージさまなら、その程度の罠にはびくともしませんよね。余計なことをお話しして、ごめんなさい」


 適当な説明にあっさり納得して、サーナはほっと嘆息していた。

 この子は本気で俺を、不死身の英雄だと思っているらしい。


「お、おぉ。まあいいさ」


 ああ、俺もそこまで自分を信じられたらいいんだがっ。


「でもアレだ、なにか思いついたら、どんどん意見していいんだぞ?」


 サーナの鋭い指摘に肝を冷やしたので、俺はあえてそう念を押しておいた。

 この子はマジで聡いからな。




 ついでではないが、俺は思いきって提案してみた。


「ところで、サーナ」

「はい?」

「サーナは俺が勧めても、コトが片付くまで、一人で避難とかはすまいな?」

「しません!!」


 びっくりするほど大声で言われ、俺は飛び上がりそうになった。


「わ、わかってる。だからそれを踏まえて、今提案しようとしたんだ」

「……と言いますと?」

「用心深い声、出すなって。つまり、もはや俺の所在もバレてるようだし、面倒ごとに巻き込まれそうだし、一時的に引っ越しするかなと」


「それって――」 


 いきなりサーナの瞳に、星が散ったように見えた。

 胸元で両手を合わせ、もの凄く嬉しそうに述べた

「二人で、駆け落ちですかっ!?」

「――っ!」


 驚きのあまり、しゃっくりが出たじゃないかっ。


「いや……まあ拠点移動だよ、うん」


 俺はかろうじて、そう答えた。

 この子は基本的に聡くて鋭いのに、たまに乙女ちっく全開になるな!


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