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異世界からの使者2(終) サーナとセージさまには絆が

 フォースルールというのは一種の精神支配で、プラーナをコントロールする術を知る術者なら、大抵はそっちの修練も積んでいるし、大なり小なり使える。


 上手く術がかかれば、敵は喜んでなんでも話してくれるのだ。


 このおっさんはおそらく捨て駒だろうから、大したことは知らない可能性もあるが――と思いつつも、駄目元で尋問した。

 叩き起こして即座にフォースルールにかけて質問したが、予想通りさほどの情報は得られなかった。敵も、上手く行けば儲け物、くらいのつもりだったのだろう。


 ただ、ちょっかいかけてきた大元は、判明した。


 帝国の南に位置する、新興国のヴィランデル王国というところで、おっさんは本当にかの国の王宮で、書記官を勤めているらしい。

 敵は、「騙しにかけるなら、文官を選んだ方が本当らしく見える」ということで、彼が選抜されたのだとか。


 おっさんの本名もわかったが、どうでもいいのですぐ忘れた。




「とりあえずわかったのは、なぜか新興国が帝国に手を出してきたってことで……こりゃ、きな臭いな」


 俺は顎を撫でて、唸った。


「連中は当然、俺が見破る可能性は考えていたはずだ。それでもこんなおっさんを寄越すからには、それだけのリスクを負う覚悟はあるってことになる」


 ぶつぶつ言いながら、諦め切れずに男に質問を重ねると、さらに嫌なことがわかった。

 こいつは詳細な事情を知らないようだが、どうもヴィランデル側では、皇帝アランとサーナの間に、なんらかの関係があると見ているらしい。


 どうしてそう判断したのかおっさんは聞かされていないものの、本国のヴィランデル王室では、かなり自信を持っているそうな。





「ホームを巡察して回っていたからかな?」


 呟くと、俺に寄り添うように立っていたサーナは、眉根を寄せた。


「でも、アルザス地方の、他のホームにも巡察に行かれていたそうですよ」

「そうかもしれないけど、俺のところに来たのはサーナだけだ」


 俺が指摘すると、サーナは焦ったように「それは、サーナとセージさまには絆が――」と言いかけた。


「わかってる!」


 俺は柔らかく笑って頷いた。

 いや、本当はちょっと驚いたけどな。

 絆かぁ? それはまた、なんとロマン溢れる言い方か。


「多分敵さんは、俺がホームに寄付していたこととか、俺とサーナの文通のやりとりまでは、知らないんだよ。……ただ、皇帝があのホームを訪問して、少なからずサーナとやりとりしたことは知っていたと。おそらく、日頃から皇帝の動向をそれとなく見張っていたんだろう」


「すると、ヴィランデル王国側は……その、何か勘違いを?」


 聡いサーナは、既にある程度の結論に至ったらしい。

 俺はこの子ほど頭がよくないが、それでもこれだけ材料が揃えば、同じ疑いを持つ。





「つまりだな、敵はこう思ったかもしれない」


 俺は敵の立場から見た推測を話した。


「……普段はホームなど巡察に行かない皇帝が、なぜか今回は巡察して、しかもあるホームの少女と、特に親しげにやりとりした。それからさほど経たないうち、問題の少女はホームを出て、引退したロートル戦士の元へ向かった。この二つの出来事が、偶然であるはずがない。もちろん、皇帝はかの引退戦士の元へ、その子を一時的に避難させていると推測できる。……そこまでするからには、あの少女は皇帝と深い関わりがあるのだろう。例えば、隠し子とか!」



「それはないと思いますっ。有り得ないです!」



 サーナはびっくりしたように首を振った。

 なぜか嫌そうでもある。


「だってサーナは――」

「わかってるって」


 なぜか立ったままで座らないサーナの腕に、俺はそっと触れた。


「あいにく俺自身は、別の推測をしているんだ。これは多分、全部ひっくるめて、アラン皇帝の遠謀だね。俺と敵をまとめて、騙しにかかってると見た。アランは、性格悪いからな。本当に隠したいことは他にあって、そこから敵の目を逸らすために違いない」

「つまり、罠……ですか?」


 返事の割に、ひどくほっとしたようにサーナが言う。

 皇帝の隠し子だと聞けば、むしろ喜ぶ女の子も多いだろうに……不思議な子である。


「そうとも。現に引退した俺程度の立場でも、たった今、敵が推測しそうなことを簡単に予想できたじゃないか? あの不肖の弟子が、そんなわかりやすいこと企むもんか」


 不肖の弟子だの性格悪いだの、旧臣のくせに言いたい放題だが、奴は俺の弟子でもあるし、特に気にしなかった。

 ただもちろん、俺の予想こそが外れていて、本当にサーナがアランの隠し子である可能性もあると言えばある。

 そしてもし本当にそうなら……このことは大きな意味を持つ。


 なぜなら現皇帝のアランには、現状、後継者がいないからだ。

 妃(妻)はいるが、まだ子がいない。

 サーナが本当にアランの隠し子なら……この子にちょっかいかける理由など、無数にあるわけだ。


 しかし俺は、あえてそっちの予想は語らなかった。それより今は、やることがたくさん出来たしな。まずはおっさんに、最後の質問だ。


「なあおい、おまえを送り込んだヴィランデル王国の連中は、どこに潜んでいる? どうせそいつらもこっちに来てるんだろ?」


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