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天威の予感2(終) サーナは寝相が悪いのです、はい

 自分で思うよりも、俺は緊張していたらしい。


 いつもだと、夜中に一度くらい目が覚めるのだが、サーナという家族が増えたその夜は、朝まで死んだように眠っていた。


 ただし、朝方に目が覚めるとやたらと寝汗をかいていて、「風邪でも引いたかぁ?」と思った。

 そろそろ晩秋だし、もはや寝汗をかくような時期ではないのだ。





「おまけに、身体も妙に重いときている。……いくさから遠ざかって一年、なまったかねぇ」


 まだ半分は夢の世界にいた俺は、嘆息して手を動かした。

 やたら暑いので、本能的に布団をのけようとしたのだ。

 しかし……なにやら途中で手がぶつかった。



「なんだ?」 


 徐々に目が覚めてきたが、俺はその「むにゅっ」とした感触の「なにか」を手で掴んでみた。やたらと絶妙な感触だが、なんだこれ?


 途端に、布団の中から「う……はぁあ」という、情感たっぷりのため息が聞こえた。


「――っ! まさかっ」


 慌てて起き上がろうとしたが、左足になにかが絡まっていて、容易に身を起こせない。焦った俺は、とにかく布団をがばっとめくった。




「うわっ」


 道理で身体が重いし、寝汗をかくはずである。

 薄いパジャマ姿のサーナが、俺に絡みつくようにして抱きつき、安らかに眠っていた。

 ちなみに、絡みつくというのは文字通りの意味で、基本、俺の胸に覆い被さるような姿勢なのだが、サーナの左足が、俺の右足に絡みついているのである。


 べったりくっつくとは、まさにこのこと。

 しかも、そうとは知らなかった俺は、どうやらこの子の胸をがっちり手で掴むという暴挙に及んだらしい。




「手が後ろに回ったら、どうすんだよ!」


 焦りまくった俺は、とにかくサーナを揺さぶって起こした。


「おいおい、サーナ!」

「……はぁい」


 ガクガク揺すっていると、ようやく寝ぼけた返事がして、サーナの目が開く。至近から俺を見つめて、にっこり笑った。


「おはようございます、セージさまっ。二日目の朝ですね……ふわぁ」


 可愛いあくびをした後、もそもそと起きてぺたっと女の子座りをした。

 透き通った碧眼には、一切の驚きも焦りもない。

 あたふたしているのは、俺のみである。


「いや、なんで全然驚かないんだ、サーナっ。ベッドに入ったら駄目だろ! と叱ろうとしている俺が、馬鹿みたいじゃないか」

「はい?」


 目を擦った後、ようやくサーナはちょっと罰の悪そうな顔を見せた。


「ええと……その」


 どうでもいいがこの子、ブラとかそういうのはまだ着けてないらしい。

 俺の憮然ぶぜんとした表情を見て、ベッドの横の自分で敷いたはずの寝具を見て、サーナはようやく言い訳を口にする。


「実は……サーナは寝相が悪いのです、はい」

「それが言い訳かーっ」


 俺は思わず、全力で突っ込んでいた。





 あまりガミガミ言いたくないので、「今後は注意しなさい」とだけ言い置いたが。

 本人が朝食の席でも必死に説明したところによると、寝相が悪いのは本当らしい。ホームの他のルームメイト達にも、「顔のわりに、ひどく寝相悪いわっ」などと、ひどい言い方で呆れられるのだと。


 だからといって、やっぱり床からベッドの中へ移動するのは有り得ないはずだが、本人はいたって真面目な顔で、「きっと、夜中に寂しくなって、セージさまのぬくもりを求めたのだと思います」などと、真顔で言いやがる。


 本気で言ってそうに見えるのがたまらん。


 孤児がどれほどの孤独感を抱えているか、知らぬ俺ではないので、非常に怒りにくいが……こういうことが続くのは、やはりまずいだろう。

 なんとかせねばならん! と思ったのだが。


「それであの……」

 目玉焼きを食べる手を止め、サーナが今思い出したように言う。

「起きる直前、サーナはセージさまに抱っこされる夢を見ました……幸せな夢でしたが、あれは夢ではなかったのですね。感激のあまりか、ずいぶんと胸が苦しかったですわ」


 小首を傾げ、夢見るような表情で微笑む。


「お……おぉ」


 俺の方は、逆に声が用心深くなった。

 それ、多分俺が本当に胸を掴んだから、苦しかったんじゃ……?

 いつ真実がバレるかと、気が気ではなかった――が。

 

 ふいに、玄関のチャイムが鳴った。


 俺は思わずメシをかき込む箸が止まり、サーナは箸代わりのフォークが止まった。




「俺が出るから、あまり物音立てちゃ駄目だぞ?」


 とっさに注意すると、こくりと頷く。


「まあ……どうせ大した用事じゃないよ」


 サーナの頭を撫で、俺はキッチンを出た。





 俺はまず玄関まで出て、「誰かな?」と声に出してみた。

 相変わらずインターホンは故障中だし、この場で訊くしかない。

 するとドアの向こうで、記憶にない声が答えた。


「私はレグナスと申します。ガランディア帝国の皇帝特使として参りました。……ぜひ、セージ殿にお会いしたい」

 

 中年らしき男の声を聞き、俺は確信した。


 ああ、こりゃ厄介ごとの前触れに違いないな。 



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