サーナの実力4(終) この子と暮らすのは、そう嫌ってわけじゃないな
「あっ」
途中で気付いたらしいが、もう遅い。
その時にはもう、俺は地を這うような姿勢から瞬時に右足を繰り出し、存分にサーナの両足を払っている。
彼女はたまらず身体のバランスを崩し、倒れ込んでいた。
どうでもいいが、ゴツッと鈍い音がした。倒れ込んだ時、床に頭をぶつけたせいだろう。
……おい、受け身はどうした、受け身はっ。
焦った俺がサーナを覗き込むと、この子は既に、安らかな顔で気絶していた。
なぜか微笑しているのがたまらん。
「じゃなくて、気絶したぞっ」
逆に俺がびびったじゃないか!
もしかしてこの子、剣技は置いて、受け身とか身体強化とか、そっちは知らないのかっ。
慌てて駆け寄り、抱き起こしたが、本気で意識を失っている。
とはいえ……外傷は特にないので、ただの脳しんとうだろう。
「うわぁ。本当に隊長は」
なぜかため息をついて、クレールが寄ってきた。
「大人げないですねぇ、実に」
「お、おまえなっ」
さっきは、わざと負けるなとか言ったくせに、こいつっ。
別に魔法治癒とかですぐに起こしてもよかったんだが――。
なぜか責任を感じ、俺はサーナを背負ってゲートを後にした。
ヴァレリーが「私が抱いてお供しますっ」と鼻息も荒く言ったが、それは丁重にお断りした。
だいたい、あいつは任務の最中だし。
それに、サーナ一人をおぶるくらい、大した大仕事ではない。
十三歳にはしては多少高めの身長だが、それでも細身の子なので、ほとんど体重なんか感じなかった。
……ぐったりした身体をおぶって歩くうち、ある時点からこそこそ動く気配がした。
なのに、呼びかけても返事がない。
しばらくは素人芸に付き合ってやったが、なぜか背中で切ないため息なんかついたりするので、気になってしょうがない。
とうとう立ち止まって諭してやった。
「なあ? もう目覚めているのなら、自分で歩いた方がよくないか?」
びくっと身体が震えた後、可愛い声がした。
「……も、もう少しだけ、このままで」
「まあ、いいけど」
気絶させた後ろめたさもあり、俺はもう少しわがままを聞いてやることにした。
なぜか通行人の人目を引くので、気が進まないのだが。
「うふふふっ」
それに、くすぐったそうな笑い方をして、両手両足を絡めて、ますますしがみついてくる。
「セージ様の香りがしますっ」
「ちゃんと風呂入ってるぞ?」
おどけて答えた後、俺は軽く咳払いする。
「さっきは悪かった。つい本気になった」
「遊び半分で相手されるより、ずっと幸せでした」
「お……おお」
当初はそういう予定だったので、さすがに強く出られない。
「それに、セージさまが想像以上のお方だったので、サーナは幸せです。……背中温かいですし」
「二つのことをいっぺんに言うなよ」
あちこち痒くなりそうな思いで答えた途端、サーナがわざわざ耳元に唇を寄せ、囁いた。
「セージさま……大好きです」
「……む
」
ヤバい、なんて答えたらいいのかわからん。
ただ、今この瞬間、さすがの俺もはっきりと意識した。
多分俺……この子と暮らすのは、そう嫌ってわけじゃないな。




