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足長おじさんの縁が、とんでもないことに


 ようやく故郷である日本へ帰り、一人でのんびり暮らしていた俺の元へ、その子は突然、やってきた。



 ドアのインターホンが鳴ったのは、まだ九時前の早朝で、俺はほとんど起きたばかりだった。

(こんな朝早くに誰だよ?)

 そう思ってインターホンの映像を確認しようとしたが、あいにくボロマンションだけあって、故障中である。


 覗き窓は曇っていて向こうが見えず、やむなく俺はドアを開けた。





「うちはテレビないから、受信料は」


 断り文句の途中で、勘違いに気付いた。

 集金人がまさか金髪の少女ということはあるまいし、それにブレザーの制服に似た、不思議な私服を着ているということもあるまい。


 正直、ヨーロッパあたりから留学してきた学生にしか見えなかった。


 それにしては、年齢が低そうだが。

 玄関先で固まる俺とその子、二人して思わず見つめ合ってしまった。

 金髪に似合う大きな碧眼の少女は、なぜかバラ色に染まった頬で俺を熱心に見つめている。ちょっと瞳が潤んでいたりして、中身は既におっさんの世代である俺ですら、ちょっとどぎまぎしたほどだ。


 まあ、俺の外見的には、二十歳そこそこなんだが。

でもその意識はモロに年齢相応のおっさんだ。実年齢三十七だしな。





「え~と」


 俺は頭をかきながら考え、ようやく少女が独り者のマンションを訪れる理由を見つけた。きっと、外国かぶれしたイベントのアレだろう? 

 長らく異世界にいたとはいえ、それくらいわかるのだ。


「悪い、今お菓子とかうちにないんだ? 気の済むまで悪戯していいよ?」


 なんなら俺が悪戯しようか? 

 とか言いかけ、あまりに寒いギャグなので、謹むことにした。


「はい?」


 熱心に見つめていた少女は、夢から覚めたような顔になり、慌ててブレザーの内ポケットから手紙を出した。





「し、失礼しましたっ。既に連絡がいっているものと。……あの、これに詳しいことが書かれているはずです」

「え……ハロウィンじゃないの?」

「ハロウィンってなんですか」


 真顔で訊き返された。

 これは……ハロウィンじゃないな、うん。

 ようやく理解し、俺は眉をひそめて封書を開けた。


 しかもこの丸めた封書、俺が去年までいた異世界の国と同じで、赤い封蝋で閉じてやがる。おまけに、封蝋の向き合った龍の紋章は、紛れもなくガランディア帝国のものときた。


 まさか、今更また俺をこき使う気か? もしそうなら、帝国に災いあれ!


 すっかり疑って手紙を広げたが……いや内容は、またしてもこき使おうという召喚話じゃなかった。

 その代わり、むしろそっちの方がマシだろうと思うような内容だった――ある意味では。




 

 手紙の文章は、極めて事務的だった。



□ガランディア帝室の名において、貴官セージには、以下の責務を果たしてもらいたい。


 このような、読んだ瞬間に、その紙で洟をかみたくなるような文言がまずあり、次にこうあった。



「帝国の英雄である貴官が、ニッポンなる国へ戻った後で判明したことだが。貴官は我が帝国を去る直前まで、戦災時特別ホーム(孤児院)宛てに、毎月寄付を行っていたことが判明した。

 その義侠心、まことに殊勝である。

 皇帝陛下も、「さすがは、【天威】の二つ名を持つセージ(俺の名)ぞっ。敵に強く、民に優しい行いである!」と激賞されていた。


 ……話は変わるが、あいにく我が帝国においては、まだ国内事情が安定したとはいえず、戦災孤児は日に日に増えつつある。


 そこで貴官も承知とは思うが、ここは一つ、予備役軍人としての責務を果たして頂きたい。既に承知かと思うが、予備役軍務規定の三条第七項にこうある。


『その意志あれば、速やかに戦災孤児を引き取り、成人年齢の十五歳まで保護者として責任を持つべし……最低でも一人は保護すべし』


 ――という条項のことだが。



 今回、貴官が特に寄付金を送っていた孤児である、サーナという少女が、君を保護者として指定した。よって、本人の希望に従い、サーナの保護者として貴官を認定した。

 この通知文章を読んだ時点で、貴官は彼女の保護者である。以上。


 ガランディア帝国万歳!  



   


(なにが以上で、なにが万歳かっ)

 俺は内心で呻きつつ、 その文面を五回読み返す……ようやく内容が頭に染み込んできた。


 つまり、砕けた言い方に直すと、「おまえな、帝国にいた頃、こっそり孤児院に寄付金送ってただろ? 今も帝国は孤児で溢れそうだし、今後もその調子で頼むわ。とりあえず今は、保護者として一人頼むぞ?」ということだ。


 突っ込みどころは満載だが、まず俺は孤児院宛に寄付してただけで、個人宛じゃなかったはずだ。


 ただし、サーナという子がしばしばお礼の手紙をくれたのは、知っている。

 返事書いたから……ひょっとして、その縁か?


 俺が呆然として顔を上げると、くたびれたバッグを両手で持ったサーナが、緊張した顔で俺を見つめていた。


 島崎聖司しまざき せいじ、一世一代のピンチだった。


予定的に、数話分くらいの中編でいくつもりですが、例によって長くなる可能性もあります。

興味ある方は、どうかおつきあいください。

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