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第四話 水兵リーベ

八っつぁんがご隠居さまに尋ねたことは……

「どーも、こんちわー。ご隠居いんきょさま、いらっしゃいますかー?」

「おやおや、誰かと思ったら、八っつぁんじゃないか。どうした、何か困りごとかね」

「さすがご隠居さま。さっしがいいねえ」

「ふふふ。おまえさんがわしのところに来るのは、何かあった時ぐらいなものだろう」

「違えねえ。いえ、実はね、教えていただきてえことがありまして」

「一応、森羅万象しんらばんしょうに通じているつもりだが、難問かね?」

「どうですかねえ。難しいことなのかどうかも、あっしにはわからねえんですけど」

「まあ、言ってごらんなさい」

「へい。うちのガキが、最近、妙な歌をうたっていまして」

「ほう、どんな歌かね?」

「ちょっと待ってくだせえよ。覚えきれねえんで、紙に書いてきやした。ええと、あったあった。じゃ、言いますよ。『すいへえりーべぼくのふね、ななまがりしっぷすくらーくか』ってんですけど、ご存知ですかい?」

「えっ、あ、ああ、あれか。うんうん、知ってるとも」

「どういう意味なんですか?」

「ええと、ちょっとお待ちなさいよ。おまえさんがわかるようにゆっくり説明するから」

「お願えしますよ」

「ああ、まず、最初は、うん、水兵だな」

「水兵ってえと、船に乗ってる兵隊さんのことですかい?」

「そうだな。だが、この場合、人間ではないんだ」

「えっ、じゃあ、何なんですか?」

「カモメだ。おまえだって知っているだろう。歌にもあるぞ」

「ああ、『カモメの水兵さん』ですね」

「そのとおり。で、そのカモメの名前がリーベというんだ」

「へえ。外国のカモメだったんですねえ」

「そういうことだ。ところで、このリーベ、真面目なヤツだったが、悪い友達がいた」

「何ていうヤツですか?」

「ジョナという名前だ」

「うーん、カモメのジョナさんかあ、なんか聞き覚えがありますね」

「そうかもしれん。さて、このジョナというヤツが、リーベにいろいろな考えを吹き込んだ。もっと自由に生きるべきだ、とかな。そのため、リーベは真面目まじめに水兵の仕事をしているのが馬鹿馬鹿しくなった。その時言ったのが、『ぼく、ノー、船』だ」

「ははあ、そこは伸ばしてノーなんですね」

「そうだ。ちょうど日本に駐留ちゅうりゅうしている時だったから、もう船の仕事はイヤだということを、覚えたばかりの日本語でしゃべったわけだ。その夜、リーベは停泊中の船からこっそり逃げだし、不法滞在者として警察に追われる身となった。たまたまだが、その地域が七曲署の管轄だった」

「ほう。『ななまがり』ってえのは、警察署のことですか。これも聞き覚えがありやすね」

「七曲署の刑事に追っかけられて、リーベはどんどん逃げた。カモメってえのは飛ぶには飛ぶが、いわゆる高飛びはしないから、だんだん追い詰められた。あわてて逃げる途中、曲がり角でドーンと壁にぶつかって気絶しちまった。刑事はリーベを逮捕したものの、打ち身で肩をらしているのに気がついた。八っつぁんだったら、こんな時どうするね?」

「そうすねえ、膏薬こうやくでもってやりますかね」

「うん、そうだな。この場合、刑事はリーベに湿布を貼ってやった。すると、リーベはすぐに楽になった。だから『しっぷすぐらーく』ってことだな。おまえさんは『く』に濁点を付け忘れているよ」

「なるほどねえ。あ、でも、最後に『か』が残ってますけど」

「ええと、それはだな、うん。取調べを受けている時、自分がカモメであることをかくそうと、『かー』と鳴いたのさ。のまねをするカラスというが、この場合はカラスのまねをするカモメだな。だが、カモメはカモメ。そんなことで誤魔化ごまかせるはずもなく、牢屋ろうやに入られることになった。だから、真面目にコツコツ生きることが大事だ、という教えだな」

「いやあ、勉強になりやした。ところで、ご隠居さま。もうひとつ聞きたいことがありまして。『ひとよひとよに、ひとみごろ』ってえのは、どういう意味なんでしょう?」

「うーん、昔、人見五郎という男がおってな」

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