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第十話 私小説始めました

 考えても考えても新しいアイデアが浮かばないので、今回は私小説を書こうと思う。

 専門家からは、こんなもの私小説じゃないと怒られるかもしれないが、作者であるわたし自身が主人公の小説なのだから、これを私小説と言わずに何と言うのだろう。

 だが、リアルな自分のことなどほとんど書いたことがないので、何をどう書けばいいのかさっぱりわからない。ともかく、今日の出来事を時系列で書いてみるとしよう。

 わたしは朝起きた。顔を洗って歯をみがき。

 あ、ちょっと待って。

 わたしのプロフィールは、年齢性別不詳ふしょうということにしている。ここでひげったりしたら、男性であると言っているのと同じだ。逆に、髪をブラッシングなどすれば、女性と告白するようなものだ。それでは、覆面ふくめんレスラーが覆面を脱ぐようなもので。

 あれっ、それは違うな。レスラーが覆面をしていても、性別はわかる。

 うーん、まあ、いいだろう。

 とにかく、朝食にしよう。わたしは納豆が好きで、ほぼ毎日。

 あっ、いけない。

 納豆を食べる習慣がない地方の出身ではないことがバレて、いやいや、推測されてしまう。まあ、何かを食べたんだということぐらいにしておこう。

 それから、車で職場に向かって。

 あーっ、ダメだ、すごく限定されてしまう。

 職場に向かう、というからには学生でも専業主婦でもなく、車を使うほど職場が遠いところにあるということは、農家や自営業でもないことになる。

 どうしよう。

 そもそも、年齢性別不詳の私小説なんか成立しないのだろうか。それとも、もっと曖昧あいまいに書いてみたらいいのかもしれない。

 わたしはあれに乗ってそこに向かったが、渋滞で全然進めない。このままでは、そこの始まる時間に間に合わず、誰かさんに大目玉おおめだまをくらってしまう。このあたりから脇道わきみちに入って、住宅街を抜けた方がいいだろう。

 ダメだダメだ。まだ具体的な言葉が多すぎる。

 いっそ、伏字ふせじにしたらどうだろう。

 わたしはジグザグに○○を通り抜け、ようやく□□に着いた。朝のミーティング、あ、いや、朝の△△には、何とかに合った。さあ、今日こそは、●●を■■するぞ。▲▲だ。

 ああーっ、もう! ここはどこ? わたしは誰?

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