二話 女神降臨
文章力が拙いので多少読みづらかったり、説明が分かりづらい所があると思います、申し訳ないです。
これから自分の表現力をもっと高めていきたいです……。
暫く何もない方向へまっすぐ歩き続ける。
すると新はこれまでにない程の衝撃を受けた。
「ここは宙に浮いているっていうのか!?」
そう、この世界の端―その向こうの眼界に広がる景色は空だ。
しかし高い。
真下も見るが、横幅の大きい薄い雲がゆっくりと風に乗って進んでいる。
下に降りれば地上があるのか、無いのか。
そもそも降りられたとしてそこは果たして新が知っている世界なのか。
状況を鑑みれば異世界なのは間違いない……筈。
「こんな浮島……でもここは墓の下にある地下のはず、あーもう! 分からねぇー! 何なんだこの世界! ガチで異世界としか言いようがない……」
しかし言動とは裏腹に、新の心は弾んでいた。
「いや、でもそうか、異世界に来ちゃったか……てことは何? 俺神様に能力授かっちゃったり!? しちゃうわけー!?」
そう、何を隠そう新は類まれな異世界転移好きなのである。
特に俺TUEEEEが。
それはなぜかと言うと新は純粋に努力が嫌いだからだ。
嫌いな理由は単純で、「報われないから」。
そんな新が俺TUEEEEに傾倒していくのは時間の問題であった。
そしてそんな俺TUEEEEの本場とも言える異世界転移を経験した新、興奮するのは自明の理だ。
「しかし遅いなぁー、神様。もう未来の勇者は到着しているっていうのに、一体どこでなにやってんだ?」
周りを見渡してもそれらしき人物はいないどころか、徐々に日も傾き始めている。
一体どうしたものかと思考していると、突然背後に異常な程の明るさの光の球体が出現した。
現れたのは丁度この世界の中心点辺りで、それと共に辺り一面に激しい衝撃が波を打ち、浮島の端に立っていた新の身体にも同様に衝撃波がぶつかり、
「お、落ちる!」
背後からの突然の衝撃に、酷使し続けた新の足腰は自身の身体を支える程の力も無くそのまま宙へ放り出されそうになる。
しかし、火事場の馬鹿力か姿勢を屈めて芝生を掴みギリギリのラインで一命を取り留めた。
「あ、危なかった……」
そう一息を吐くのも束の間、今度はその光る謎の球体からとある人物が降り立つ。
眩い光の中シルエットしか見えないが徐々にその光も霧散していき、ようやくその人物の全容が明らかになった。
新は思わず息を吞む。
それほどに美しい女性だった。
空のように青い髪を腰の辺りまで伸ばし、また瞳はその髪と同様に青。
鼻は高く、唇は薄く、更にその人間離れした肌の白さからはもはや人ですらない様に感じられた。
どうやら白いローブのようなものに身を包んでいるらしく、髪の毛の青がよく映えている。
ローブのせいでスタイルは分からないが身長は百八十センチほどはあるのではないだろうか。
「あれが神様、なのか?」
思わずそう呟く。
その神と思しき存在はキョロキョロとせわしなく周りを見渡し、どこか落ち着かない様子である。
「ヴォルテール、侵入者がいるっていうのは本当なのですか?」
青髪の美女が何もない空中へ向かって声を掛けた。
するとどういうことか、何も無かった筈の空間に黄金の装飾を施した騎士が現れた。
その騎士の腰には二つの剣がぶら下がっており、いかにも西洋っぽい。
「左様で御座います、アナティウス様。宮殿内にある探知魔法に何者かが引っかかったという反応が、こちらに」
ヴォルテールと呼ばれた人物は話しかけられた人物に向かって跪きながら報告をする。
声は渋く、そして低い。
カッコいいおじさんって感じだな、と新は思った。
「さっきの美人さんが女神だとすれば、アイツは女神お抱えの騎士ってとこか」
浮島の切れ目で芝生を掴み、その体を宙へとぶら下げながら話を聞く新。
「しかしこの状況はちとやばいな、腕の筋肉もそろそろ限界だし。でも上に登っても話しかけられそうな雰囲気でもないな。んー、どうしたものか」
直感的に今姿を現すのはマズイ、と考える。
すると新は目の前に体よく大木があることに気付いた。
女神の場所からは目測で約二十メートルと言ったところだ。
だがこのまま登って一気に走ろうものなら簡単に自分の存在はバレてしまうだろう。
ならばと、新は芝生を掴んでは離し、掴んでは離しを繰り返し徐々に右に寄っていくことにした。
女神と自分の一直線上の間に大木を挟み、新の存在を視認することが不可能になってから登るのだ。
「しかし私の《庭》侵入者だなんて、珍しいこともあるものですね」
アナティウスは微笑みながらそう言った。
「ええ、この世界では大災害の後、ここまで辿り着くことの出来るものはだいぶ減ってしまいました」
「ならばやはりあの反応は間違いなのでは?」
「何を仰る! 確かにここに到達できるものは少なくなったと言いましたが、到達できる者も少なからずまだ存在するのは事実、警戒しておくに越したことは御座いません。さらに言えば、あの魔具は世界有数の優秀な魔導士が結束して作り上げたものです、間違いなどあるはずがありません」
「しかし結局は人が作り上げたものです、完璧とまではいかないでしょう?」
先程とは打って変わって、凛とした表情で応える女神。
あの口ぶりからやはりあの人は女神なのだ。
間違っても落ちたりしないように少しずつ進んできた新は、丁度女神たちの死角である木の裏までやってきていた。
そろそろ本当に限界なのでいそいそと浮島をよじ登りながら今までのことを整理してみる。
小説を買った帰りに裏道でズッコケて、その勢いで墓を壊し、なんだかんだで穴に落ちて、助けは来なさそうなので長い一本道を歩いていたら、扉の向こうに光が差してたからその扉に入った。
しかしそこはどうやら俺が今まで生きてきた世界ではない。
そこであてもなくフラフラしていたらよく分からん女神とお供がやってきて、「私の《庭》に侵入者……」とか言い出して……。
「ていうことは俺は今、侵入者扱いな訳だ」
やっとこさよじ登り、木の幹に背中を持たれてポンッと手を叩く。
「それってさぁ、大問題じゃね?」
自分の身に何が起きているのかを細かく把握した新は顔を青ざめさせる。
「あの金のおじさんの口ぶりから察するに、見つけ次第殺すってことだろ……」
てことはバレたらヤバイ。
幹にもたれ掛かりながら息を潜める新。
「しかし、本当に侵入者は逃げたのでしょうか」
ヴォルテールは女神に問いかける。
知らない内に話がずいぶんと進んでしまったようだ、聞き逃すまいと新は聞き耳を立てる。
「ええ、私の気配察知の魔法では感じ取れませんもの」
「そうですか、神聖魔法なら間違いは無いでしょう、この後はいかがなさいますか? 侵入者が去ったとは言え、また性懲りもなく侵入して来るとも限りませんし。黄金騎士団を呼びつけてこの《庭》に一晩見張りを付けるという手も御座いますが」
「そんなことされたらたまったもんじゃない!」ヴォルテールの提案を聞き、新は全身から血の気が引いてゆくのを感じる。
「本当にヴォルテールは心配性なのね。そんなことをしなくても大丈夫よ、例え幾千の侵入者が来たとしてもあの『扉』を見つけるのは不可能なのですから」
「左様ですか、ならば宮殿に戻りましょう。今日もアナティウス様のご加護を賜りたいと、各地から人が集まって来ています故」
「そうですわね、急ぎませんと」
そう言いながら、アナティウスは右腕を天に掲げ、「ヴァンデ」と言葉を発する。
すると、太陽から幾千もの光が降り注ぎ始めた。
降り注ぐ光の粒子はまるで、アナティウスのいる場所のみに降っている雪の様だ。
あまりに衝撃的な現象に、新は思わず木の幹から身を乗り出しその光の行く先を見つめる。
だがこの行動はまずかった。
右腕を天に掲げ光を集めていたアナティウスと丁度視線が重なってしまったのだ。
「終わった」そう思った。
すぐにでも戻ろうかと考えるが、蛇に睨まれた蛙のように身体が硬直して動かない。
こちらを見つめながら微笑むアナティウス。
「殺される!」と新は心の底から恐怖を感じた。
しかしそんな新の想像とは裏腹に、光はアナティウスたちを包み、先程と同様に光の球体となってそのまま消えてどこかへ行ってしまった。
「た、助かった……」
球体が消えた瞬間、こわばっていた身体の力が抜けそのまま木の下にぐったりと倒れこむ。
「マジ、絶望的だったな……」
ふと空を見上げると光を吸われた太陽は周辺の空や雲を朱く染め上げていた。
今日が終わる。
なにはともあれ助かったのだ、次アナティウスに会うようなことがあれば死ぬ気で隠れなければならないな。
「俺の存在に、最初から気づいていたのだろうか……」
アナティウスは新を見つめて微笑んでいた。
きっと最初から分かった上で泳がされていたのだろう。
しかしなぜ助けられたのだろうか。
俺に何かいい使い道でも多い付いたのだろうか。
先程から仰向けに項垂れている新の頭の中は疑問しか浮かばない。
「まあそういうことは明日考えるとして、今日のところはとりあえず寝よう」
そして夕焼けの中、新は眠りについたのであった。