表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/21

◆迷い 後編◆

(あんまりです)

 とぼとぼと部屋に戻ってきたセレナは、崩れるようにソファに座り唇を指でおさえる。

 誰かの面影を重ねて見られることはもちろん嫌だ。

 けれど勘違いしそうになってしまう自分はもっと嫌だ。

「セレナ様?」

 ふと、窓の外から声がかかった。

 顔をあげると庭師のケントがきょとんとセレナを見つめている。

「どうしたの? 泣いてる」

「――こ、これはっ、その」

 言えるわけがない。

「旦那様と何かあった?」

「ち、ちが、います」

 こんな態度ではそうだと言っているようなものだ。

 ケントは「ちょっと待って」と言うと、何かを手にセレナを呼んだ。

「セレナ様、こっち来れる?」

「? はい」

 近づくと、白い小さな花を手渡された。

「わあ! きれいですね!」

 すさんだ心が和む。

「よかった、笑ってくれて」

「え、あ……」

 無意識に笑っていたことに気づいて、少し恥ずかしくなる。


「ねえ、セレナ様は旦那様が嫌い?」

「え? いえ、そういうわけでは……」

「じゃあ、好き?」

 ケントの問いはセレナにとってむごいものだった。

「……良い人だとは、思いますよ」

 視線をそらしたセレナをじっと見つめて、ケントは少し間をあけて笑った。

「……そっか、なら、よかった」

 綺麗な緑色の瞳が細まって、それを猫のようだとセレナは思った。

「花くらいで笑ってくれるなら、毎日セレナ様に花を届けてあげるよ」

「いえ、これで充分です。ありがとう、ケントさん」

 小さな贈り物が心から嬉しかった。


「ケントさんはここに住み込みで働いているのですか?」

 セレナの問いに、ケントは頷く。

「うん、俺、両親も家族もいないから」

「いない、って……」

「殺されちゃったんだよね、助かったのは俺だけ。その時のことはよく覚えていないんだけど」

「――すみません」

 謝るセレナにケントは笑って首を横に振った。

「ううん、平気だよ。俺は何も覚えてないんだし」

 今後ケントと話す時には気をつけようと、セレナは考えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ