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◆再会?◆

 夢を見た。

 陰惨な人間模様だった。

 過去にセレナであった人は殺された。

 権力闘争の果ての、暗殺だった。


『あなたを殺すのはそう、僕であるべきだし、ハッピーエンドでしょう?』

 死に際に聞いたのはそんな、少年の言葉だった。


 セレナはもう一つ夢を見た。

 それは今を生きているセレナが、まだ幼い頃の夢だ。

 アムレアン伯爵家、白い大きな屋敷だったのをうっすら覚えている。


 そこには金髪碧眼の、セレナより少し年上の男の子がいて……そして……。

『血で染めたような髪だ、気味が悪い』

 そう、その子に言われたのをいまさら思いだした。


(たしかに、あなたの輝くような金髪とは比べられないかもしれませんが。

 本当になぜ招待されたのか分かりません)

 うなされながら、セレナは夜明けを迎えた。


 翌日になり、結局どうしようもなくアムレアン伯爵家へやって来たセレナは固まっていた。

「ようこそ、セレナ嬢」

 屋敷に通されてすぐにやって来たのは、昨日夢で思い出した少年……青年だった。

 金髪碧眼で、王子様のような容姿の。


「お招き頂き、光栄です……ヴィヒトリ様」

 名前はそう、合っているはず。

 セレナの髪を血染めのようだと言った、過去の少年。

 もちろん、彼がそう感じたのならそれは仕方ない、ただ少しばかりの苦手意識は抱いてしまう。


「あの、本日は……」

「そんなにかしこまらないでほしい、君と話がしたいんだ」

 セレナの疑問に、彼はにこにこと笑って庭園へ案内した。


 椅子もテーブルも、用意された茶菓子もすべてセレナには普段手の届かないようなものばかり。

 クロヴェル男爵家の家計は実のところ破滅寸前なのだ。

 だからというのもあり、邪魔であるのもありセレナが出稼ぎに出ている。

 母親の形見であった手鏡をとられてしまい、セレナは逆らうことができない。


「どうぞ、好きだなけ食べて?」

 ヴィヒトリの言葉にはっと我に返った。

 ついつい視線がお菓子や良い香りのお茶に向かっていたようで。

 こんなこと継母やアデリーナに知られたらどうなるだろう。


 青ざめていると、彼は不思議そうな顔をしてセレナを見つめる。

「どうしたの? 具合が悪い?」

「いえ、いいえ、だいじょうぶです、そんなことは……ないのですが」

 本題を間違えてはいけないと首を横に振る。

 それを見てヴィヒトリが先に口を開いた。

「今日ここに呼んだことであれば、本当にただ君に会ってみたかっただけなんだよ」

「……それはなぜでしょう?」

 理由を聞いてこいと継母に怒鳴られたので一応聞いておく。

 セレナとしても疑問だ。


「好奇心かな? 貴族の令嬢でありながら、昼間は市場で林檎を売っている君に」

「――」

 絶句した。

 一番知られたくないことをこの人は知っている。

 頭を抱えそうになりながら、とにかくこれだけは言わねばと口を開くセレナ。


「ヴィヒトリ様、そのことは他言無用でいてはいただけませんでしょうか」

「そう言うと思っていたよ、けど、ただでというのはね」

「!」

 金銭などと言われたらとても用意できない。

 いっそう青ざめるセレナに、彼は笑って告げる。


「これからもこうしてお茶会に来てくれないかな、君と話がしたい」

「はい?」

 意外な言葉に首を傾げる。

 けれどヴィヒトリは笑顔を絶やさず続ける。


「私に敬称もいらないし、ただここに来て、一緒に話してくれるだけでいいんだ」

「な、なぜでしょう?」

 それこそアデリーナのほうが適任だ。

 セレナにはそう面白い貴族の話題なんてないのだし。


「君に興味があるからかな」

 アデリーナと継母になんと言えばいいのだろうと、思考がぐるぐる回る。

「それはさておき、食べないのかい?」

 ヴィヒトリの言葉に、セレナは食欲と思考の狭間で悩んだ。


(いえ、アデリーナとお母さまのことはなるようにしかなりませんし、とにかく今は今ですね)

 さっと切り替えて、過去の記憶にある通りの作法で茶菓子を口に運ぶ。


「おいしいです!」

 本当においしい、素直に嬉しくなってしまう。

「やっと笑ってくれた」

「?」

 視線をヴィヒトリに戻すと、彼も幸せそうに微笑んでいた。


「君ときたら、ずっと神妙な顔をしていたからね。笑顔が見られて嬉しいよ」

「そうでしたか?」

「うん、ずっとね」


 そのあと少ししてヴィヒトリは仕事で、お茶会は終わったが、帰り際老齢の執事に包みを渡された。

 中身はお菓子だと聞いて胸がはずんだが、持って帰れば継母とアデリーナにとられてしまうのが目に見えている。


(はあ、緊張しました……)

 執事と別れてすぐのことだった。

「あれ、林檎売りのお姉さんだ」

「ひっ」

 なぜそのことを、と思って振り返ると、庭師と思しき少年が顔を覗かせた。

 こげ茶色の髪に緑の瞳を持つ少年だった。


「珍しいなあ、旦那様がこんなふうにお客さんを呼ぶなんて……ってそうじゃないよね。はじめまして、俺はここで庭師をしてるケント=ヴァリラ」

「……はじめまして、セレナです」

 あえて家名を伏せる。


「セレナ! いい名前だね、またここに来るの?」

「ええ」

「そう、じゃあまた今度話そう。今日はもう日も沈むし、ゆっくり休みなよね」

 そう言ってケントは明るい笑顔で去っていった。

(心臓がもちませんよ……)

 林檎売りの意味あいで。

 ヴィヒトリが用意してくれた馬車に乗り込み、セレナはほっと息をついてクロヴェル邸へ戻った。


 ◇◇◇


「旦那様、いかがでございました?」

 執事の問いに、去っていく馬車を見送りながらヴィヒトリは微笑んだ。

「ああ、間違いない……彼女だ」

「それはようございました」

「しかし、彼女は何も覚えていないようだ、かといって何も知らないわけでもない」

 それに執事は穏やかに笑った。

「それはそうでしょう、前世のことですから」

「残念だよ、それはそうとマルクス、君は何か私に隠しているだろう」

「はて」

 とぼける執事に、ヴィヒトリは眉を寄せる。


「過去の私は彼女に何を言ったんだ?」

「そのことですか、えぇ、あなた様はあのお方にそれは酷い言葉をかけられました」

 その内容を聞いている、と視線で訴える主人に、執事、マルクスは穏やかに告げる。

「旦那様は――」

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