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7、会議

「撃てーっ!!」

 ここにいるのは、自衛隊の隊員。二十を越える自衛隊員が、持っている銃を一斉に発砲した。バズーカまで撃つ。

 相手は、血塗られた日本刀を持つボロボロの男子高校生。しかし、飛んできた銃弾は、全て彼をすり抜けてしまう。

 そう、彼がボロボロなのは、自衛隊の攻撃のせいではない。彼の生前の姿であり、自分がどれだけ苦しんだかを教える為に、あえてこの姿のままでいるのだ。

「そうだ、もっと撃ってこい。お前達が抵抗すればするほど、僕は怒れる」

 怨霊斬也くん。彼はもはや、日本という国全体にとっての脅威と化している。

「そうすれば、僕はもっと早く人間を殺せるようになるんだ!!」

 斬也くんは日本刀から真紅の光の刃を飛ばし、自衛隊を全滅させる。

「僕は、人間を滅ぼす。殺して殺して殺し尽くして、この世界を滅ぼせば、その時こそ僕の気持ちは報われるんだ」

 斬也くんはひたすら独白を続け、人間を殺していく。これを繰り返して、殺す人間が一人もいなくなった時、自分が抱え続けてきた苦しみは、今度こそ消え去ると信じていたから。




『現在自衛隊が、突如として現れた何者かと交戦中です! あっ! こちらに何かが――』

 相馬が車に積んでいたラジオで、斬也くんが今どういう状態にあるかを調べていた佐紀達。ラジオから聞こえていた声が消えた事で、斬也くんがどんな殺戮を行っているのか、よくわかった。

「自衛隊まで出動してるとか……」

「完全に見境がなくなっている……」

 佐紀と成治は呟く。

 斬也くんは生前自分をいじめた者とその関係者、自分を見殺しにした者達をターゲットにしていた。それがどういうわけか、自分の目に映る者全てを見境なく殺しまくっている。あまりの暴虐に自衛隊が出動したほどだ。

「あんた達のせいよ」

 シャサは、佐紀と木葉に向かって言う。彼女は斬也くんと契約した身である為、彼の心がある程度わかるらしい。だから、慈厳寺には入れなかったが、あの時何が起こったのかは把握している。

「あんた達が自分達の美しい友情を見せつけたりしたから、友情に飢えてるあいつの心が壊れたのよ」

 斬也くんが何より欲しがっていた、友情。人との繋がり。絆。それを二人が見せつけてしまったせいで、絆への渇望が憎悪に変わり、暴走してしまったのだ。

「……だからって佐紀を見捨てろっていうの? そんな事、あたしには出来ないわ」

 しかし、あの場で佐紀を見殺しにするなど、木葉には絶対に出来なかった。

「まぁあそこでそいつが死んだとしても、状況は変わらなかったでしょうね。いつかはこうなっていたはずだから」

 遅かれ早かれ、斬也くんは必ず自分と関係ない人間も憎み始める。シャサにはその確信があるようだ。

「そんな事を言い争っていても仕方あるまい。今は、怨霊をどうするかを考えねば」

 龍霊が言い争いをやめさせる。斬也くんは殺せば殺すほど強くなる怨霊。現在進行形で死人を増やし続けている彼をどうにかする方法を早く見つけなければ、どうしようもなくなる。

「藤宮桐也は既に、わしにも倒せぬ存在と化している。となれば、封印するしかない」

 はっきり言って、斬也くんを倒すという目的で話を進めるなら、もう手遅れである。もはや斬也くんは、龍霊にすら倒せない怨霊になっていた。

 しかし、封印という目的で話を進めるなら、まだ手は残されていた。

「封印って、どうやって?」

 奈美子は尋ねる。倒すのは無理。封印にしても、相当難易度が高いはずだ。一体どうやって封印すればいいのか、奈美子にはさっぱりわからなかった。

「……わしと、照命宗の全ての霊力を合わせれば、まだ可能です」

「猊下。封印自体は、我々の力があれば足りましょう。しかし、問題は怨霊をどこに封印するかです」

 そばで話を聞いていた法力僧が、龍霊の作戦に異を唱える。

 封印する為には、場所や物などの媒体が必要だ。しかし斬也くんほどの怨霊を生半可な媒体に封印すれば、すぐに復活してしまう。

 斬也くんの封印には、斬也くんの力を完全に受け止められる器が必要なのだ。

「それなら、あいつの刀はどうかしら?」

 その問題に対して一石を投じたのは、シャサだった。

「……そっか! 斬也くんが使ってる刀は、斬也くん自身を殺した凶器!」

「そして今は斬也くんの武器として、斬也くんの力を受け続けてる。龍霊さん、どうですか!?」

 ゲームが好きな佐紀と木葉は、この手の話のセオリーをよく知っている。

 あの刀は、例のどら息子が桐也を殺す時に使った凶器であり、桐也の血が染み付いている。これにより、刀は桐也と密接な繋がりを得た。

 今、刀は斬也くんと一体化し、斬也くんの力を長く受け続けている。斬也くんの強大な力を受け止めているのだ。彼を封印する器として、これ以上適している媒体はない。

「ふむ……理には叶っております」

 龍霊も刀を封印に使う事には賛成した。

「しかし問題は、どうやって封印するかです」

 肝心な媒体は、今封印するターゲットの手の中。他の媒体のように、前もって手に入れるという事が出来ない。

「方法としては、法力を集中する場所に怨霊をおびき寄せ、そこで封印するしかない。しかし、その為には怨霊を封印の地におびき寄せ、術が完成するまで時間稼ぎをする囮役が必要になる」

 まず、広い場所を選ばなければならない。本当は寺院などの法力が集めやすい場所がいいのだが、今回は一刻を争うので、贅沢は言っていられず、二番目に法力が集めやすい広い場所を使うのだ。

 次に、斬也くんを封印の地におびき寄せ、さらにそこに縫い付けておく囮役がいる。封印の術も、すぐには発動出来ない。

 斬也くんが入り込んだ瞬間に発動出来るように準備をしておくと、恐らく引っ掛からない。斬也くんほど強力な怨霊を封じるとなると、必要になる法力も馬鹿にならないのだ。法力を感じる技能を身に付けている今の斬也くんには、気取られる可能性がある。

 だから術式だけを仕掛けておき、斬也くんが入り込んだ段階で法力を集め始めなければならない。そして、それには数分かかる。

「広い場所なら逃げ回りやすい。しかし、どこにしたものか……まぁ、それは追々考えるとしよう。問題は囮役だ」

 囮役。常に斬也くんから殺意を向けられ、いつ殺されてもおかしくない、一番危険な役回り。

「それなら、私がやります」

 自ら名乗り出たのは、佐紀だった。

「佐紀!?」

「いいよ、お父さん。私は斬也くんから恨まれてるし、私が囮になれば、斬也くんは必ず追いかけてくる」

 確かに、相手が強い敵意を持つ者が囮役になれば、より効果的だ。しかも斬也くんは完全に暴走しているので、必ず追いかけてくる。

「……それなら、お父さんも一緒に囮になろう」

「お父さん……いいの?」

「言ったはずだ。桐也君がこうなってしまったのは、私のせい。その償いがしたいと」

 もう、助ける事は出来ない。しかし、それでも成治は、何かせずにはいられなかった。

「それに、たった一人の娘にそんな危ない真似、させられるか」

「お父さん……」

「じゃああたしも囮になる! この悪魔の人の話が正しいなら、斬也くんはあたしも憎んでるはずだから」

 木葉も囮役を買って出る。

「じゃあ私も!」

「私達も!」

 奈美子と里美達も囮役になろうとしたが、龍霊が止めた。

「あなた達は囮にはなれない。怨霊との繋がりが薄すぎる」

 いくら見境がなくなったとはいっても、やはり関心があるかないかでは成功する確率が雲泥の差である。それに、最悪の事態に備えて犠牲者を増やすわけにもいかなかった。

「お母さん、ありがとう」

「大丈夫。私達は、必ず生きて戻る」

「だから任せて!」

 本当は恐ろしくて仕方なかったが、斬也くんを止めなければ被害は拡大する一方だ。やらなければならない。

「……本当にごめんなさい」

 奈美子は自分達の無力を恥じた。

「ところで、まさか自分は無関係だなどと、思ってはいまいな?」

 と、龍霊は唐突にシャサに話を振った。

「はぁ!? ま、まさか私にも、囮役をやれっていうの!?」

「当然だろうが。そちらの契約がどういうものかわかっておらんが、契約主の権限で動きを止めるとかは出来るのだろう? 途中までは制御出来ていたようだからな」

「あ、あんた、私の命は保障してくれるって……!!」

「事態の中心におるくせに、いつまで甘ったれた事を言うとるんじゃ貴様は!! 何の力も持たん一般人が命を懸けとるのに、この騒動のきっかけである貴様が、自ら働かんで何とするか!!」

「私悪魔だもん!! 人間がどうなったって知らないもん!!」

「黙れ!! ごちゃごちゃ言うとると、わしが貴様を滅するぞ!! 本当ならとっくに滅ぼしとるというのに、少しは感謝せんか!!」

「うう……わかったわよぉ……」

 散々ごねていたシャサだったが、龍霊に滅すると言われてはたまらず、仕方なくこの作戦に協力する事にした。

(もうすぐ作戦が始まるんだ。これで、ようやく終わるんだ……!!)

 これから龍霊達は、各地の同志に呼び掛けたり、斬也くんの封印に使う場所を決める為の会議を、本格的に始める。

 斬也くんに会った日からまだ数日しか経っていなかったが、佐紀にとっては一週間にも、一ヵ月にも匹敵する長さだった。しかし、彼に怯え続ける期間も、もうすぐ終わる。

 作戦の中心人物となるのは佐紀。だから、作戦が始まるまでの時間が、恐ろしくて恐ろしくて。だが、それ以上に、彼との因縁を終わらせる為、早く作戦を始めて欲しかった。

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