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6、真実

 夜通し走り続けた佐紀達。今彼女達は、斬也くんを倒す方法を探す為、照命宗の本山を目指しているところだ。

 高速道路を降り、照命宗の法力僧の運転に任せる佐紀達。

 一同は今、とても神妙な面持ちをしていた。まさか斬也くんが、あそこまで危険な怨霊とは思っていなかったのだ。

「浄安住職の切り札が効けば良いのですが、恐らく足止め程度にしかならないでしょう」

 この法力僧から、慈厳寺が呪われた土地の上に建てられたという事は、既に聞かされた。しかし、浄化が進んだ呪いでは、斬也くんの動きを封じる事は出来ても、打倒は不可能との事。斬也くんは、本当に危険な怨霊なのだ。

「着きました」

 そして、とうとう一同は、唯一斬也くんを打倒出来るという人間の下へたどり着いた。

 照命宗総本山、流仙寺。長い石段を登り、一同は向かう。

「例の方々をお連れしました」

 法力僧は、入口を守っている二人の法力僧に言う。

「ご苦労だったな」

 すると、門の中から、白い髭を生やした老人が出てきた。

「猊下!! こちらまでお出でに!?」

 法力僧は驚く。この老人が、照命宗の法主、龍霊である。

「そろそろ着く頃だと思うてな。それだけ邪悪な気を放っておれば、嫌でも気付くわ」

 龍霊は照命宗最強の法力僧であり、今まで彼が成仏させられなかった悪霊や怨霊、滅せなかった魑魅魍魎は存在しないらしい。

 彼が見たのは佐紀と成治。やはり、斬也くんからはまだ逃れられていないようだ。

「助けて頂けますか?」

 佐紀は早速本題に入った。龍霊はしばらく沈黙すると、ゆっくり答える。

「……はっきり言って、難しいとしか言えません。これほどまでに強大な怨霊は、初めてなので」

「そんな……猊下ほどの法力僧でも……」

「諦めるにはまだ早い。打てるだけの手は、全力で打たせてもらう」

 龍霊でも斬也くんを成仏させるのは難しいが、不可能ではない。諦めるのは、自分が打てる手を全て打ち尽くしてからだと、龍霊は言った。

「さぁて、まずは件の怨霊の、本質を聞き出さんとな」

 そう言うと龍霊は、佐紀達の少し後ろ、何もない空間に向かって、突然片手をかざした。

「うあっ!!」

 するとその何もない空間に、女性が現れた。しかし背中からコウモリのような羽根が生えており、両手を後ろ手に回している。恐らく、龍霊の法力に縛られているのだろう。

「お主、人間ではないな? ずっと彼らの後ろに付きまとっておったろう。名と正体を明かせ」

 全員が驚く中、龍霊だけは淡々と女性に質問する。

「……私はシャサ。悪魔よ」

 龍霊の法力は強く、逃げられない。観念して女性は、自分の名と正体を話した。

「あ、悪魔!?」

 驚く木葉。幽霊がいるのならもしかしてとは思っていたが、本当に悪魔がいるとは思っていなかった。

 しかし、なぜこんな所にいるのだろうか。龍霊の話によると、ずっと今まで彼女らを尾けてきていたらしいが。

「では、シャサとやら。何故この方々に付きまとっておった?」

 龍霊の質問に、シャサは答えない。

「さてはお主、この方々に取り憑いている怨霊と何か繋がりを持っておるな?」

 龍霊は次の質問をするが、やはりシャサは答えない。成治が龍霊に訊ねる。

「どうしてそう思われるのですか?」

「あなた方に取り憑いている邪気が、普通ではないからです。微量ではありますが、人間にはあり得ない気が混じっている。そう、この悪魔と同じ力が」

 龍霊曰く、二人に憑いている斬也くんの邪気には、人間としての怨念だけでなく、悪魔の魔力も宿っているのだという。

 そして、二人に悪魔が付きまとっていた。無関係とは思えない。

「答えよ。貴様は何を知っている?」

「……話す前に、私の命の安全を保証して」

 龍霊が再度質問して、シャサはようやく言葉を発した。質問への答えではなく、要求だったが。

「ほう、そのような要求が通ると思うか」

「保証しないなら教えない。死ぬ気になって暴れれば、一人か二人、道連れに出来るわよ? 無駄な血は流したくないでしょ? そもそも、私相手に力を割いてる余裕はないと思うけど?」

 シャサの強気な言葉を聞いて、龍霊は少し考えた後、その要求を飲む事にした。

「良かろう。では、貴様が知っている事を全て、洗いざらい吐いてもらうぞ」

「いいわ。まず最初に、あいつを怨霊に変えたのは私よ」

「やはりか」

 龍霊の予想通り、藤宮桐也を怨霊に変えたのは、シャサだった。それを聞いて、奈美子は黙っていられない。

「ちょ、ちょっと待って! あなたが斬也くんを怨霊に変えた!? 何でそんな事したの!?」

「面白そうだったから」

「面白そうだったからって……!!」

 シャサが桐也を怨霊に変えた理由を知って、奈美子はさらに怒る。そんなふざけた理由で、自分の娘と夫が命を狙われる事になったのだから、怒らないはずはないが。

「まぁ最後まで聞いてよ。で、お坊さんの予想通り、あいつはただの人間じゃないわ」

 奈美子を黙らせてから、シャサは斬也くんの素性について語り始めた。

「あんた達ってさ、異世界とかパラレルワールドとか、信じる? いや、信じるかどうかはどうでもいいわ。とにかく、そういうこの世界と違う世界は存在するの」

 シャサの話だと、この世にはたくさんの異世界が存在し、この世界はそれらの世界と繋がっており、彼女はその内の一つからやって来たのだそうだ。

 彼女だけでなく、気付いていないだけで既にかなりの異世界の住人が、この世界に出入りしているらしい。

「それで千年くらい前、私より先にこの世界にやって来た悪魔がいてね、そいつがこの世界の人間と交わって子供を残したの。あいつはその子孫よ」

 藤宮家は悪魔と人間の間に出来た混血児の家系であり、桐也はその子孫。悪魔の血はずいぶんと薄まってしまっているが、桐也の代でその血が突然色濃く出たらしい。

「あんた達の言葉で言うところの、先祖帰りね。あいつの目が赤かったでしょ? それはその影響」

 桐也は先祖帰りの影響で、彼の先祖の悪魔の特徴の一つ、赤い瞳が現れてしまったのだ。

 普通悪魔が人間社会に溶け込む時は、人間に変身するものなのだが、藤宮家の何代目かの当主が、自分達の家系に悪魔がいたという記録を抹消してしまい、結果自分の力を操る術が失われてしまっていた。

 桐也は自分の一族の身勝手のせいで、人間に擬態出来なくなったのだ。それが、彼にとって最大の不幸と言えるだろう。

「もちろん面白そうだったってのもあるけど、自分の素性や力を知らず、何も果たせないまま死ぬのは可哀想だって思ってね、力の使い方を教える代わりに、私のしもべになるっていう契約を結んだのよ」

 こうして桐也は、シャサの力で怨霊のしもべとなった。

 それでしばらくは、桐也の復讐したいという願いを叶えてやっていたのだが、殺した相手が六十人を超えた辺りで誤算が生じた。

 桐也は殺した相手の力を己のものにするという、特殊能力を身に付けていたのだ。なぜこんな能力を身に付けたのかは不明だが、とにかく桐也の力は、シャサの力を超え始めたのである。

「今はもう、完全に私の支配から抜け出してる。それで今一番激しく適切な抵抗をしてるあんた達に頼ろうと思ったわけ」

 シャサの話をまとめると、こうだ。

 興味本意で手を出した相手が予想以上の怪物であり、手に負えなくなったから助けてもらいに来た。

「呆れた話だな」

「ほんと。自分でまいた種でしょうに……」

 相馬と里美は呆れていた。相手の力を見誤った挙げ句大勢の人間に迷惑をかけ、結局最後まで他力本願。間抜けもいいところだ。

「全部私が悪いわけじゃないわ。あいつが助けて欲しがってた時に何もせず、保身に走った。これはその報いよ。あんた達にだって原因はあるわ」

 確かに、シャサ一人のせいには出来ない。多くの人々が桐也を助けなかったせいで、今の事態を招いたのだ。

「ここで言い争っていても仕方ない。ほれ」

 龍霊は法力を解き、シャサに数珠を渡した。

「何よこれ?」

「それを持っていればお前もここに入れる。事情に詳しいようだから、お前にも協力してもらう」

 流仙寺にも、幽霊や悪魔が入って来れないよう、結界が張ってある。この数珠は、それを無効化する為のものだ。

「嫌とは言わせんぞ。お前がきっかけを作った事に違いはないのだ。責任を取れ」

「……わかったわよ……」

 シャサは渋々ながらも、協力する事にした。断れば、この場で悪魔祓いされてしまう。

「お父さん。私達、助かるのかな?」

「……祈るしかないさ」

 佐紀の問いに、成治はそうとしか答えられなかった。




 一方、慈厳寺跡。

「下がってください!」

「危険なので近付かないで下さい!」

 破壊された慈厳寺の真上に、闇の塊が浮いており、周囲には野次馬が集まっていた。警察が立ち入り禁止の線を引き、厳戒体制で調査している。

 下手に近付くと、闇の塊の中から手が伸びてきて、引きずり込まれそうになるので、調査は遅々として進んでいないが。



 しかし次の瞬間、闇の、いや、怨念の塊が、無数の人間の断末魔のような声を上げ、爆発した。



 その跡から、日本刀を持った少年が現れる。

「君! 大丈夫か!」

 少年に駆け寄る警官達。

 だが、警官の一人が、少年に斬り殺された。

 困惑する警官達を、瞬間移動を繰り返しながら、斬り殺していく少年。

 彼の名は、藤宮桐也。今は怨霊斬也くん。

 自身を捕らえる怨念を叩き伏せ、脱出したのだ。

「いつの間にかすごいたくさんの人が集まってるね」

 自分が起こした惨劇を見た野次馬が、悲鳴を上げながら逃げていく。

「待ちなよ。せっかく来てくれたんだから、そのまま殺されていきなって!」

 斬也くんは笑い、日本刀から真紅の光の刃を飛ばした。

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