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【百五十七丁目】「ズバリ“トイレの花子さん”だよ!」

 放課後。

 それぞれの転入先の教室で転校生として紹介され、授業を終えた後、僕たちは一度、生徒会室に集合することになった。

 朝、話に出た「見回り部隊」メンバーとの顔合わせが行われることになったからだ。

 ちなみに妹の美恋(みれん)も志願したが「下級生を危険にさらすわけにはいかない」と生徒怪長である詩騙(うたかた) 陽想華(ひそか)さんに制止されてしまい、膨れていたが素直に身を引いた。


「は、はじめまして、尾行澤(おゆきざわ) 平斗(へいと)です…」


追掛(おいがけ) 霙路(えいじ)でぃす。まー、よろしくな」


 そう言って挨拶してくれたのは、二人の男子生徒だった。

 二人とも小柄でよく似通った容姿の持ち主だ。

 まるで双子みたいである。

 強いて言えば、長い前髪で目元を隠した尾行澤くんは、少しおどおどとした気弱な感じ。

 右目だけを前髪で隠した追掛くんは、イタズラ好きでやんちゃな感じがした。

 この二人が怪長の紹介してくれた「見回り部隊」のメンバーである。

 見回り部隊とは、最近、旧校舎の周囲で頻発する怪異から生徒たちを守るために特別住民(ようかい)によって結成された有志団体だ。

 その見回り部隊に志願した僕…十乃(とおの) めぐる改め女子高生に変身中の「乙野(おとの) めぐ」だが、一緒に参加することになった五猟(ごりょう) 沙槻さん(戦斎女(いくさのいつきめ))と、砲見(つつみ) 摩矢(まや)さん(野鉄砲(のでっぽう))と共に彼らと自己紹介を交わした。

 ちなみに、彼らはどちらも特別住民(ようかい)だ。

 尾行澤くんは“べとべとさん”

 奈良県などに現れる妖怪で、夜道を歩く人間の後をつけてくる妖怪で、姿は見えず、後をつけてくる以外に人には害を及ぼさない。

 また、避けたい時は「べとべとさん、先へお越し」と道端に避けて言うと、ついて来なくなるという。

 追掛くんは“ぴしゃがつく”

 福井県の妖怪で、夜道をついて来るのは“べとべとさん”と同じだが、こちらは足音を(みぞれ)を踏むような「ピシャッピシャッ」という足音させる。

 そして“べとべとさん”とは違い、一度ついて来ると離れないという特性を持つ。

 イタズラ好きそうな追掛くんのイメージにピッタリだ。

 見回り部隊にはまだ何人かいるようだが、当面はこの二人が僕たちのサポート役に選ばれたという。

 聞けばこの二人、以前に起きた生徒誘拐事件で、犯人逮捕にひと役かったとか。

 何とも心強い仲間だ。


「それで、僕たちは具体的にどんな活動をすればいいんですか?」


 僕が二人に尋ねると、追掛くんが説明してくれた。


「なーに、そんなに難しいもんじゃねぇよ。放課後、旧校舎周辺を見回って、うろついている生徒を見つけたら追い払う」


「…それだけ?」


 摩矢さんが拍子抜けしたように聞き返す。


「もともと、旧校舎は生徒が入れないよう封鎖されているんです」


 今度は尾行澤くんが応えた。


「だから、生徒の出入りはほとんど無いんですが、最近、旧校舎周辺で怪異が目撃されるようになって、生徒たちが興味を持ったみたいで…」


「じゃあ、その人たちを注意して回ればいいんですね」


 何だ、簡単な仕事じゃないか。

 これなら“トイレの花子さん”に接触する片手間にこなせそうだ。


「ひとつ、しつもんがあります」


 と、沙槻さんが手を上げる。


「もくげきされた『かいい』とは、いったいどのようなものなのでしょうか?」


 さすがは“戦斎女(いくさのいつきめ)

 相手の情報は逐次確認を怠らない。


 …ん?

 相手?


 僕は慌てて沙槻さんに耳打ちした。


(さ、沙槻さん、もしかして怪異と一戦交える気ですか!?)


 すると、沙槻さんはコクリと頷いた。


(はい。じょうきょうしだいでは…ですけれど)


(相手は例の『都市伝説』かも知れませんよ!?)


(のぞむところです。ぜんかいはにげられてしまいましたから、つぎはおくれはとりません)


 さ、さすがは戦斎女(いくさのいつきめ)

 魔を(はら)う生粋の戦巫女(いくさみこ)だ。

 見た目は可憐な少女だが、生粋のの武闘派である。


「ええと…話していいんですか、怪長?」


 尾行澤くんが戸惑ったようにそう尋ねると。生徒会長の席に座っていた詩騙怪長が「無問題」と書かれた扇子を広げた。


「構わん。彼女たちも今や見回り部隊の一員だ。情報の共有はむしろ推奨しよう。聞けば、彼女たちは自衛手段も豊富そうだし、正体不明の相手なら、いざという時に迅速に動けた方がいいはずだ」


 …僕、戦闘手段は全く皆無ですけどね。

 詩騙会長の言葉に、尾行澤くんたちが頷き合った。

 追掛くんが最初に口を開く。


「目撃した生徒からの情報では、現れた怪異は主に二種類らしい。一体は男。で、もう一体は女」


「どっちも生徒に声を掛けてきて、付きまとってきたらしいです。運よく、何とか逃げきることはできたそうですが…」


 尾行澤くんが続けてそう補足する。


「単なる人間の変質者じゃ?」


 摩矢さんの言葉に、尾行澤くんが首を横に振った。


「僕たちも実際に見たんですが、妖気を発していましたから、間違いなく特別住民(ようかい)だと思います」


「ただ、雰囲気はちょっと妙な感じだったよな」


 追掛くんの言葉に、僕は聞き返した。


「妙な感じって…どんな?」


「そうだな…普通、特別住民(ようかい)同士なら、何となくお互いが特別住民(ようかい)だって分かるもんなんだけど、あいつらからは何か違和感みたいなのを感じたんだ」


「違和感?」


「何て言ったらいいのかなー…親近感というか、懐かしさっていうか、特別住民(ようかい)同士なら通じ合うもんが無いっていうか…」


 不意に摩矢さんが僕の制服の袖を引く。


「それ、私も『都市伝説』と出会った時に感じた」


「摩矢さんも?」


「たしかにわたしもようかいとはちがうものをかんじました」


 沙槻さんも頷く。


「『としでんせつ』のなりたちが、ようかいのそれとはことなるせいかもしれません」


 二人が同時に遭遇した都市伝説「アクロバティックサラサラ」は、インターネットが発達した現代に誕生した怪異だ。

 つまり、妖怪のように歳月を経て伝承・逸話といった下地となるものもほとんんど無い。

 しかし、インターネット上で急速に広がり「実在 (するかもしれない)存在」として確立した彼らは、ある意味「新しい妖怪」と言えなくもない。

 が、同じ怪異でも、やはり成り立ちが異なるせいか、異質な存在になるのだろう。


「…先程から気になっていたのだが『都市伝説』がどうかしたのかね?」


 僕たちのやり取りを聞いていた詩騙怪長が口を挟んでくる。


 し、しまった!

 僕たちが実は降神町役場の人間で、都市伝説の怪異たちが妖怪に宣戦布告し、その対策のために動いているのは内緒だった!

 もし、そんな存在が生徒に危害を加えるような事態を巻き起こしていると知れたら、校内も大パニックだ。

 ここはうまくごまかしておくべきか…


「あ、いえ…実は、その…降神高校に現れている怪異は、インターネットにある都市伝説にそっくりだなって…」


「ふむ…?」


 詩騙怪長が興味深そうに卓上で指を組む。


「都市伝説か…ふむ。うさんくさいが、我々妖怪が実在するのだから、そうした存在も実在しておかしくはないかも知れないな」


「えー、でもさぁ、仮にそういう連中がいたとして、何で降神高校(ここ)に姿を見せるんだ?しかも、何が目的で生徒にちょっかいかけてきてるのさ?」


 怪長の呟きに、追掛くんがもっともな意見を出す。

 何とか僕たちの素性や目的はごまかせたようだけど…咄嗟に口にした内容だったせいか、都市伝説へと関心が向いてしまったな。

 そう考えていると、詩騙怪長は「妙案」と書かれた扇子を広げた。


「よし。それなら事の次第を確かめる方法が無くもないぞ」


「どうするんです?」


 尾行澤くんの質問に、詩騙怪長がビシッと扇子で彼方を指す。


「我が校の生き字引にして、守護神を頼るのだ!」


「守護神?」


 聞き返した僕に詩騙怪長がニヤリと笑う。


「ズバリ“トイレの花子さん”だよ!」


 僕は思わず噴き出した。

 意図しない会話の流れの中で、接触しようとしていた相手の名前が唐突に登場したのだからやむを得ない。


「…どうしたのかね、乙野くん?」


 不思議そうに尋ねる詩騙怪長に、僕は慌てて両手を振って言った。


「あー!いや!その!僕…じゃなかった、私も会いたいなぁと思いまして!“トイレの花子さん”に!是が非にも!」


 こんな形で訪れたチャンスである。

 活かさない手は無い。

 摩矢さんと沙槻さんを見ると、二人とも小さく頷いている。

 僕の不審な様子に怪訝そうな顔をしていた詩騙怪長たちだが、


「まあいいだろう。では、早速、見回りがてらに旧校舎へと向かうとしよう」


 詩騙怪長の号令で、僕たちは旧校舎へと向かいことになった。

 目的は「都市伝説オブ都市伝説」でもある“トイレの花子さん”

 果たしてどんな結末が待っているのか、僕は内心ドキドキだった。

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