【百五十四丁目】「さあ、兄さん…聞かせて」
皆さん、こんにちは。
十乃 美恋です。
突然ですが、私、ついにチャンスをモノにしてしまったかも知れません。
「美恋…」
「兄さん…」
舞台は家の自室。
時間は深夜手前の夜11時。
同居している両親は、選挙に立つ親戚の立候補者の事務所で後援会のお手伝い中。
祖父母は朝が早いので、離れで就寝中。
ついでに、飼い猫のナベシマさんも恒例の家出中。
つまり、兄の巡と「二人きり」の状況だ。
しかも、しかもである。
今回は驚くべきことに兄自ら私の牙城…もとい、自室へとやって来たのである。
これを千載一遇のチャンスと言わずに何と言おうかッ!
カモがネギ背負ってきたこの状況に、思わず鼻血…は堪え、舌なめずり…も我慢し、ル〇ンダイブ…も思いとどまった。
理性を総動員、緊急配備。
いつものクールモードをフルパワーで維持。
でも、部分的に隙を見せるために、やや抑え気味に。
こういうチャンスを予測していたわけではないが、いつものダルダルなトレーナーではなく、可愛めなパジャマだったのがラッキー♡
よーしエラいぞ、私!
下着は…さすがに最終決戦用装備とはいかないが、ブラもパンツもまあまあ。
アダルティには至らずとも、清純的なものを身に着けている。
しかも、レース部分が透けるタイプでちょっと扇情的。
よーしエロいぞ、私♡
こうした状況で、一方の兄はというと…
見慣れた部屋着ではあるが、顔を赤らめ、何かモジモジとし、照れたように私を直視できないでいた。
その様子は、普段の朴念仁な兄からは想像もつかない。
あからさまに「胸に秘めていた何かを告白しようと思っているものの、気恥ずかしくて言い出せない」オーラ全開である。
嗚呼…ようやくだ。
ようやく二人は結ばれる。
兄と妹という壁によって阻まれていた二人の想いが、今夜ついにそれを乗り越え、一つになるのだ。
皆さん、今度こそこの物語は終わります。
次回からは「美恋Loveダイアリー♡MaxHeart」始まるよっ!
「美恋…その…ずっと、実は言い出せなかったことがあるんだ」
立ち尽くしていた兄が、思い切った様子でついに口を開いた。
「何?」
それに対し、務めて普通を装う私。
さりげなく乾かしたての自慢の黒髪をかき上げる。
室内にふわりとシャンプーの香りが漂い、結界となって広がった。
これでもう、兄の目はハートマーク必然だろう。
「…いや、やっぱり聞かなかったことにしてくれ」
だが。
兄はまるで私の張った結界に抵抗するかの如く、この場を去ろうとした。
ちょいちょいちょい!!?
ちょっとタンマ!!!
ここまできてそれは無しでしょ!!!
「そう言われると、余計に気になるんですけど?」
内心焦りまくりつつ、私はクールモードを継続した。
冗談ではない!
ここまで来てあっさり帰られたら女が廃る!
くそう、こうなったら奥の手も使ってやる…!
「大抵のことには驚かないから…言ってください、兄さん」
そう言いながら、暑がるフリをして極々さり気なくパジャマのボタンを一つ外す。
ハラリと襟元が広がり、胸元が覗く。
あくまでチラリとした程度でだ。
ここで思い切って行ってはただの痴女である。
果たして効果があったのか。
兄は顔をさらに赤くして言った。
「美恋、僕たちは兄妹だ」
「ええ、そうですね」
「小さい頃から一緒だったし、家族として仲良くやってこれたと思うんだ」
「ええ、私もそう思います」
「けど…今からお願いすることは、そうした関係を…打ち壊すことになると思う。そして、それはきっと美恋をたくさん困らせる」
下を向いていた兄が、覚悟を決めたように私を見る。
その眼には本気の想いが宿っているのがはっきりと分かった。
「それか…美恋が僕のことを嫌いになってしまうかも知れない」
告白キターーー(≧∀≦)ーーー!!!!!
ぃよおっしゃーーーーーーーーー!!!!!
もう間違いない!!!!
ハイ、決まった!
決定!
確定!
当選確実!
兄のこの様子や台詞に含まれた意味合い、もう動かしようのない告白である!
苦節十七年、兄への秘められた禁忌の想いが、ついに実を結ぶ時が来た!
ヒャッハーーーーーーーーーーーーー!
…コホン。
思わず自己陶酔に陥りそうになったが、それをおくびにも出さず、私は兄へ向き直った。
「兄さん」
「は、はい!」
シャキンと身を正す兄へ、私はクールモードをさらに抑えて微笑んだ。
「兄さんが言うように、私たちはこれまで普通の兄と妹として仲良くやってこれたと思います。それには私も感謝しています」
「美恋…」
「それも全ては兄さんの優しさがあったからこそだと思います。だから…今度は私が兄さんのお願いに優しさで応える番だと思うの…」
腰掛けていたベッドから立ち上がり、私は一歩踏み出した。
「兄さん…私、覚悟は出来てる…だから、言って?」
「美恋…」
「私なら大丈夫。きっと全部受け入れてみせるから…」
最高の微笑みを浮かべて見せる。
慈愛と情熱と…愛情を精一杯込めて。
私は兄へとまた一歩近づいた。
「さあ、兄さん…聞かせて」
「ありがとう…美恋」
兄は感極まったように顔を上げ。
真剣な表情で口を開いた。
「美恋…お願いだ。僕にお前の、せ…」
せ?
清純?
清廉な操?
ま、まさか…〇〇〇〇とか…!?
ドキドキしながら続きを待つ私に、兄は意を決したように言い放った。
「僕にお前の制服を貸してくれないかっ!?」
…
……
………
…………
まさかの。
変態宣言だった。




