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妖しい、僕のまち 〜妖怪娘だらけの役場で公務員やっています〜  作者: 詩月 七夜
第九章 六月の花嫁達に祝福の鐘の音を ~目目連・舞首~
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【九十二丁目】「…二弐め、余計な事を…!!」

「…割とあっさり見付かりましたね、ミスター・十乃とおの


 冷静な意見を述べるフランチェスカ(雷獣らいじゅう)の背後、ドレッシングルームから顔だけ覗かせ、体をカーテンで隠した黒塚くろづかがワナワナと体を震わせた。


「二弐め、何をしでかしておるのだ、あの馬鹿者が…!!」


 降神町ジューンブライド・パーティー会場。

 盛り上がる花嫁達とステージ上でのパフォーマンスを、会場の片隅から見ていた黒塚達一同は、あまりの事の成り行きに困惑していた。


「で、でも、ふたにさまは、なぜ、あんなまねを…!?」


「さあ。あの人の考える事は、時々よく分からない」


 同じく顔だけ出し、カーテンで身体を隠したまま唖然となる沙槻さつき戦斎女いくさのいつきめ)に、やはり顔だけの摩矢まや野鉄砲のでっぽう)が、無表情のまま答える。

 ただ、その声は少しゲンナリしていた。

 二弐のささやかな想いは、まだこの二人には届かなかったようである。


「OH!すごい盛り上がりデース!さては、これが日本ジャパンの『MATSURIまつり』ネー!?ワッショイワッショイ、そーれ塩撒いて送れ―!!…そーだ『MIKOSHIみこし』はどこですカー!?」


「ふわあ…スゴイカッコいい人ばっか…いいなあ、あんな彼氏、欲しいなぁ」


 既に着替え終えたリュカ(犬神いぬがみ)が、鮮やかな桜柄の色打掛いろうちかけ姿で興奮した様に騒ぎ立てると、愛らしいワンショルダータイプのウェディングドレスに身を包んだともえ舞首まいくび)が、指をくわえてステージ上の五人を見詰める。

 そこに、


「ええい、落ち着かんか、二人とも!」


 そうリュカと巴を叱責する秋羽あきは三尺坊さんじゃくぼう)。

 キリッとした表情で、秋羽は続けた。


「いいか、仮とはいえ、精鋭たる我が隊の一員なら、何時いかなる場合も平常心を保っておれ!!」


「…そう仰るなら、とっととドレッシングルームそこから出てきたらどうです?」

 

 「私は着る意味がないので」と、一人変わらず制服姿のままのつぶら目目連もくもくれん)が、そう言うと、首だけ出していた秋羽が「グッ…」と言葉を詰まらせる。


「そ、それは…いや、しかし…その、部下達も居る中で、隊長である私がこんな恰好でうろつくというのは、やはり不謹慎というか…」


 視線を逸らしながら、小さな声で言い訳する秋羽。

 それを尻目に、圓は一方の黒塚達を見やる。


「そちらの三人もです。ドレスアップは終わっているのですから、いい加減観念して出ていらしてはどうですか?」


「は、はあ…」


「わ、わかりました」


「了解」


 そう言うと、黒塚、沙槻、摩矢の三人は、意を決した様にカーテンを手放し、ドレッシングルームから身を乗り出した。


 もし。

 その場に一人でも男性がいたら、思わず息を飲んだであろう。

 そして、その場に居合わせた己の幸運に感謝し、同時に、彼女達が自分の恋人ではない不幸を嘆いたに違いない。

 それほどまでに三人は輝いていた。


 長身と美しい黒髪の持ち主である黒塚は、エレガントなマーメイドラインのドレスをまとっていた。

 上半身から膝までスレンダーなラインをしたそのドレスは、モデル顔負けのプロポーションを際立たせている。

 そして、膝下からはまるで人魚の尾鰭おびれの様にスカートが広がっており、それが黒塚の人間離れした美しさを強調していた。

 豊かな黒髪はハーフアップでまとめられ、白いバラで美しく飾られている。


 一方、普段から巫女装束など着物を愛用している沙槻は、やはり白無垢を選んでいた。

 髪型は普段と左程変わらないが、金とこうがいと銀のかんざしで髪を止め、ワンポイントにキキョウをあしらえてあった。

 その清楚な出で立ちは、まさに「大和撫子」そのもの。

 また、普段はひかない唇の紅が、白い肌に映えて何とも艶やかだった。


 小柄な体型の摩矢は、機動性を得るためか、足元がすっきりとしたミニ丈のドレスを選択していた。

 いつもは無造作に結い上げた髪は、きれいにかれ、アップでまとめられている。

 ベアトップの首元は背中が大胆に開き、思いの外華奢なうなじが覗いていた。

 唯一異質なのは…そう、その背に背負われた愛用の猟銃だけである。


 三人の艶姿に、同性であるリュカや巴はもちろん、あまり感情を露わにしない圓やフランチェスカも思わず溜息を洩らした。


「や、やはり、変ではないだろうか?」


「くろづかさまは、よくにあっておいでです。それにくらべたら、わたしのほうが…」


「大丈夫。沙槻もきれい」


「ほ、ほんとうですか、まやさま?」


「うん。文句なし」


「そう言う砲見つつみ、お前も良く似合っているぞ。普段の恰好とはまるで印象が違うな。とても愛らしいぞ」


 黒塚がそう微笑むと、摩矢は少し頬を赤らめ、顔を背けた。


「…ありがと」


「OH!三人とも、Vreyとても Beautifulキレイネー!」


「うわあ…みなさん、本職のモデルさんみたいですぅ」


「せっかくです。録画モード…開始」


 リュカと巴が感嘆の声を上げる横で、フランチェスカが右目に目を当てながら、ボソリとそう呟く。


「さて、残るは貴女だけですよ、日羅ひら戦士長」


 未だにドレッシングルームに立てこもったままの秋羽に、圓がそう告げる。


「こ、これは任務…これは任務…これは任務…………………………………………ぃよしッ!」


 何やらひとしきり葛藤していた秋羽は、意を決した様にカッと目を見開いた。


「秋葉三尺坊大権現、参る…!」


 カーテンを引き裂く様に開け放ち、秋羽は皆の前に立った。


「…おおお」


「あきはさま…すてきです…!」


「うわーお」


 今度は黒塚達が思わず息を飲む。


 黒塚以上の長身である秋羽は、豊満なバストはしているものの、どちらかといえばスレンダーな体型の持ち主だ。

 そんな彼女にあてがわれたのは、ウェディングドレスの王道ともいえるプリンセスラインのドレスだった。

 ドレスとしては、スカート部分がパニエによって大きく膨らんだ、愛らしさを追求したデザインになっている。

 それを大人びた秋羽が身に付けることにより、大人の女性の華やかさと少女の愛らしさは絶妙なバランスで保たれ、見る者を唸らせた。

 いつもは結い上げられた黒髪は左肩に、白い花のシュシュでまとめられている。

 そして、右の耳元には一輪の白百合が大胆に飾られており、見る者の目を引いた。


「や、やはり、こうしたドレスは私などには…」


 赤面しながら俯く秋羽に、リュカがその手をとってはしゃぐ。


「OK!OKよ、Bossボス!今のYou、MarvelousマーベラスにBeautifulネ!まさに『天噛む僧』デース!」


「録画モード、対象を追加…あと『天下無双・・・・』です、ミス・リュカオン。発音は正確に」


「ひゃあああ!か、可愛いです、素敵ですよ、隊長~!」


 皆の喝采を受けながら、秋羽は少しだけ微笑んだ。


「ば、馬鹿者、上司をからかうな……って、ちょっと待った!」


 秋羽は何かに気付いたように、ステージ上を見る。


「十乃殿が見つかったのなら、私達が花嫁衣装に着替える意味はないのでは!?」


「あら、気付いてしまいましたか」


 圓がしれっと言う。


「でもまあ、いいではないですか。せっかくこういう趣旨のイベントですし?」


「圓秘書官…貴女、楽しんでいるでしょう?」


「そんな、人聞きの悪い。私は状況に即した提案をしたまでです。決して、楽しんでなど…」


 恨みがましい視線を向ける秋羽に、圓は相変わらずの無表情のまま答えた。

 但し、その顔は微妙に明後日の方向へと向けられている。


「…そういう台詞は、ちゃんとこっちを向いて言ってください…!」


「その追及はひとまず後回しにしましょう、日羅氏」


 黒塚はそう言うと、ステージ上でイスに括りつけられた巡を見やった。


「とりあえず、彼の無事が確認できたのは幸いでした。しかし…」


 熱狂する花嫁達とおかしな競争のルール説明を始める二弐に、黒塚が嘆息する。


「正体不明の企画の進行は、どうやら私の部下の仕業だったようです。となれば、例の映像の女も、二弐(アレ)の仕業でしょう。お騒がせして済みませんでした。後で私からキツく注意しておきますので…」


「いや、そんな。どうか顔を上げてください、黒塚殿」


 深々と頭を下げ始める黒塚を、秋羽が制した。


「驚きはしましたが、とにかく十乃殿が無事で良かった…それより、この後はどうされるのですか?」


「本来なら今すぐにでも止めさせるところですが…この盛り上がり方では、今更水は差せないでしょう。不本意ではありますが、このまま成り行きを見守るしかありませんね」


 苦笑する黒塚。


「とりあえずは、二弐や来場者がハメを外し過ぎないよう、監視に徹します」


「その答えは早計というものですよ、黒塚さん」


 不意に圓がそう口を挟んだ。

 黒塚をはじめ、全員が圓に注目する。


「それはどういう意味です、圓氏?」


 怪訝そうな黒塚の言葉に、圓が幾分低い声でいう。


「私はまだ状況が変わっているとは思っておりません」


「状況が…変わっていない?」


「つまり、映像にあった女性とあの二口女ふたくちおんなさんが繋がっているようには思えないのです」


 全員が顔を見合わせた。


「圓氏、その根拠をお聞かせください」


 黒塚に尋ねられ、圓は頷いた。


「まず、あの予告映像が、二弐さんというあの女性が用意したものならば、内容がちぐはぐです。彼女は降神町役場の職員ですよね?ならば、当然『イベントの担当者』は十乃さんと知っていたはずです。映像のあの女性が放った『消えるのは誰か?』という言葉と整合がとれません」


「それは…我々をかく乱するためでは?」


「成程。では、そう仮定しましょう」


 秋羽の意見に、あっさり頷きつつ、圓は続けた。


「仮定として、彼女が私達をかく乱するためにあの映像の中で思わせ振りな発言を残したとしたら、それも不自然でしょう。この状況から見て、彼女は私達に『十乃さんが誘拐された』という事実に気付かれるのを遅らせたかった筈です。何しろ、黒塚さん達にこのゲリライベントの存在を気付かれてしまったらお終いでしょうしね」


 黒塚が頷く。


「確かに。そうと分かっていれば、すぐにでも中止させました」


「ええ。ならば何故、彼女はわざわざ『十乃さんの誘拐を』ほのめかしたあの動画を残したのでしょうか?あんなものを残せば、いやが応にも会場の緊張感は高まります。当然、スタッフや警備の目も厳しくなり、彼女自身が動きにくくなるだけでしょうに」


 これには秋羽も沈黙する。

 確かに圓の言い分は的を得ていた。

 二弐がこんな大胆なイベントジャックを行った理由は分からないが、あの映像が彼女にプラスになる要素は何一つない。


「…そして、特別住民対策室の情報統括官の立場で言わせてもらえば」


 圓は秋羽に目をやった。


「画質や特徴をから推測するに、あの動画は普通に市場で手に入るカメラなどで撮影されたものではありません。明らかに専門機関で使用する撮影機材を使用しています」


「そんなことがわかるのですか!?」


 驚く沙槻に、秋羽が説明した。


「五猟の巫女、彼女は我々の部署で多数の情報…つまり、映像情報も分析するプロです。加えて“目目連”である彼女は、その分析・処理能力に非常に特化した妖力を持っています。彼女なら、撮影された映像の随所に、我々が気付かない特徴を知覚することも可能なのです」


 そう言うと、秋羽は表情を引き締めた。


「では、圓秘書官、貴女はあの動画が告げた内容やあの女の目的が真実であると…?」


「はい。信じるかどうかはお任せしますが、ここで私が嘘を言っても何のメリットがないこともお知り置きください」


 と、舞台の方で派手な爆発音が上がる。

 黒塚達が身構えたその視線の先で、一人の女烏天狗が黒焦げになって倒れ伏した。

 その光景に、黒塚が驚きの声を上げた。


「な、何が起こった…!?」


「み、みてください、あれは…!?」


 沙槻が指差す先に、舞台袖からゲルトラウデ(七人ミサキ)が姿を見せる。


「あれは…確か、エルフリーデ殿の配下の…!」


「戦車娘だね。今のはあの娘の仕業か」


 秋羽の言葉に、摩矢が頷きながらそう言った。

 黒塚が歯噛みする。


「二弐め、どういうツテで連れて来たのだ!?」


 一方、その横では秋羽がブツブツと独り言を言っていた。


「あの女烏天狗、太郎坊たろうぼう殿のところで見た女性秘書だったよーな…いや、しかし、あんな感じだったか…!?」


 固まる一同の視線の先で、二弐が彼女がステージの警護役である事を告げる。

 そして…


「「さあ、麗しの花嫁達よ!今こそ、その手に愛と勝利を…『降神町ジューンブライド・パーティー』メインイベント、題して『六月の花嫁大戦ジューンブライド・ウォーズ』…ここに開戦!」」


うおおおおおおおおおおおおお…!!


 二弐の宣言と共に、会場外へと突撃する花嫁達。

 二弐の説明にあった五つの花束ブーケを手に入れるため、全員が我先にと飛び出して行った。

 慌てて、道を譲る形で飛び退く一同。

 その勢いにリュカがゴクリと喉を鳴らす。


「OH…まるでバッファローの群れネー」


二口女かのじょの話術によるものでしょう。全員、目の色が変わっています。あの煽動能力アジテーションはなかなか見事です。理屈は無茶苦茶ですが」


 フランチェスカが冷静にそう分析する。


「…あ、ああっ!十乃さん、連れていかれちゃいましたよ!?」


 巴の言葉に全員がステージに目を向けると、イスに縛られた十乃が、二弐の髪や後ろの口によってイスごとステージの袖へと引っこんでいくところだった。

 沙槻が黒塚に振り返る。


「どうしますか、くろづかさま!?」


「圓氏の推測も無視はできん。とりあえず、今は十乃の身柄だけでも押さえておこう。来い、二人とも!」


「分かった」


 そう言いながら、黒塚が摩矢と沙槻を従えてステージに駆けだす。

 と、それにステージ上に残っていたゲルトラウデが反応した。


「(☆_☆)」


 ジャキン!

 ゴゴゴゴゴ…!

 バラバラバラバラ…!


 出るわ出るわ。

 どういう原理なのか、彼女のスカートの中から玩具の戦車やヘリ、装甲車、ミサイル積載車までが雲霞うんかの如くこぼれ落ち、たちまちステージ上を埋め尽くす。

 それらは接近する黒塚達へ、一斉に砲門を向けた。


「ゲ、ゲウトラウデ氏…!?」


 嫌な予感に黒塚が慌てて急停止する。

 摩矢と沙槻も、殺気溢れる機甲師団パンツアー・ディヴィジョンの様子に足を止めた。


「こ、これは…」


「『絶対死守』のつもりだね…どうするの?」


 摩矢にそう聞かれ、黒塚は一歩踏み出した。


「ゲウトラウデ氏、私です。先に雉鳴山じめいさんでお会いした黒塚です!」


 そのまま事情を話す黒塚。

 そして、ゲウトラウデに更に歩み寄る。


「…という訳なのです。どうです、こちらの事情はお分かりいただけましたか?」


 黒塚の訴えに、ゲウトラウデはコクリと頷いた。

 ホッと胸を撫でおろす一同。


「良かった。では、さっそくここを通してください」


「…それはダメ」


 小さいがハッキリとした意思を込めた声で、ゲルトラウデがそう告げる。

 黒塚は思わず耳を疑った。


「え?」


「事情は分かったけど、二弐さんに言われてるの。『ここを通ろうとする連中は、残らず男日照りの飢えた“行かず後家”だから、絶対通すな』って」


「…二弐あいつめ、余計な事を…!!」


 歯噛みする黒塚は、なおも食い下がった。


「ゲルトラウデ氏!今は時間が惜しいのです。ここは…」


チュイン…!


 その鼻先を、上空に停滞する攻撃ヘリから繰り出された威嚇射撃がかすめた。


「命令は絶対。あと、報酬のおやつがなくなるからダメ」


「しかし…!」


 無言のまま、黒塚達を指差すゲルトラウデ。

 同時に、戦車部隊の砲門が一斉に火を吹く。


ちゅどどどどどどど…!!


「くっ、いかん!全員撤退!」


 たまらず後退してきた三人を、圓達が出迎えた。


「交渉は決裂したようですね」


 ほうほうの体で逃げ帰って来た黒塚達に、圓が肩を竦める。


「め、面目ない」


 着なれないドレスのせいで、普段より動きにくそうな黒塚がそう謝罪した。


「いえ、あれではだれがいってもしかたがありません。よそういじょうにがんこなかたですね」


「強硬突破するにも、あれが相手じゃ分が悪過ぎる」


 沙槻と摩矢も肩で息をしながらそう言った。


「困りましたね…もし、圓秘書官の言葉通りなら、一刻も早く十乃殿を確保する必要があるのですが…」


 嘆息する秋羽に、フランチェスカが言った。


「でも、これはかえって好都合ではありませんか?隊長キャプテン


 それに圓が尋ねる。


「好都合?何故です?」


「現状では、ミスター・十乃に近付こうとするなら、あのステージに接近する必要があります。それにはあの娘の機械化部隊を突破しなくてはなりません。つまり、このまま放置しても、事実上、犯人側も手詰まりに成る筈です」


「…成程。そう言われてみればそうだな。計らずしも、今はゲルトラウデ殿が十乃殿の警護役になっている…ということか」


 秋羽が顎に手を当てて、そう言った。

 沙槻もそれに頷く。


「かのじょのじつりょくは、わたしもめにしたことがあります。よほどのあいてでもないかぎり、おくれはとらないでしょう」


 沙槻は以前、乙輪姫いつわひめ天毎逆あまのざこ)との戦闘の際、ゲルトラウデの砲撃が彼女を追い詰めていた光景を思い出していた。

 摩矢の【暗夜蝙声あんやへんせい】による追尾弾を難なくかわしていた乙輪姫も、ゲルトラウデの砲火の前には苦戦を強いられていた程なのだ。


「では、犯人が実在するとして、ゲルトラウデ殿を突破し、十乃殿に近付くためには…」


「五つの花束ブーケ…ですね」


 圓が頷きながら、後を継ぐ。


「二弐さんが言っていた『五つの特別な花束ブーケ』…それがあれば、安全に十乃さんに近付く事が可能と言う訳です」


「と、いうことは…」


 恐る恐る問い掛ける黒塚に、圓は告げた。


「私達も『六月の花嫁大戦ジューンブライド・ウォーズ』に参戦し、花束ブーケを手に入れましょう。それしか、犯人の接近を防ぐ手段はありません」


「…やっぱり」


 もはや、脱力するしかない黒塚だった。

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