こたつとクリスマスと彼と
家に着き着替えようかとまずは互いに自室へと戻り楽な格好になってからリビングで落ち合う。
酒井さんが買ってきてくれたハンバーガーやらポテトやらをテーブルに出して何も言わずに食べる。
気まずい。
とっても。
食べ終わりお茶でも淹れますねと立ち上がりキッチンへと引っ込む。
急須と湯のみを用意してポットからお湯を入れる。
それを持って戻ると散らかしたままだった包み紙や紙のケースは袋に入っていた。
「実家どこなの?」
お茶を飲みながらそう聞かれて東北の県を告げるとじゃあ新幹線だねと言われる。
え?と返すとどこかへすぐに電話をかけ始める。
いやいや夜行バスで帰りますと告げるももう切符は取れたよと返された。
このままだと私は実家に帰らなくてはいけない。
それで良いのかどうか分からない。
正月明けて帰るのはこの家ではないだろう。
そのままどこかに泊まって家を探して、即日入居して貰ったお給料と残った保険金で家具を揃えて。
いや、ベッドとこたつはくれるかもしれない。
でも、その新しい家には佐久間礼は居ない。
このまま別れたら彼とは友達に戻って下手したら一年に一回会うかどうかの関係になる。
こんなに一緒に居れたのはこの家に二人で住んでいたからだ。
「気をつけて帰ってね」
お茶を啜りながらそう言われ、はい、と小さく返事をした。
翌日は祐樹が計らってくれて俺だけ休日で二日に続いて摂取したアルコールに流石に頭痛くて起きるともう9時を回っていた。
うーんと伸びをしてから着替えて部屋を後にする。
彼女の新幹線は午後だからまだ家には居るだろう。
駅までは車で送っていってあげよう。
「おはよう」
キッチンにいつも通りいる彼女に声をかける。
なにやら料理中らしくこちらを振り向いて頭を下げた。
作業台にはたくさんの容器が並んでいる。
金平牛蒡に煮物、果ては揚げ物まである。
「これは?」
とひとつ摘んでから揚げを口に入れる。
生姜が効いたそれはジューシーで美味い。
「佐久間さんがいつでも食べれるようにって思って」
作り置きかと感動する。
彼女は最後まで俺に優しい。
ありがとうと言えば赤くなって俯いた。
「仕事ですから」
その言葉に軽く落胆するもそんなの感じさせないように笑った。
お惣菜を作り終えてしまえばもう昼前でキッチンを後にして仕度を始める。
と言っても大して荷物も無く、持つのは携帯と財布くらいだ。
実家に帰れば昔着ていた服も残っているだろうと思う。
クローゼットを開けて、昨日着ていたドレスを眺める。
怒涛のようだったけれど夢のようだったと思う。
家でやるパーティも招かれたきちんとしたパーティも。
一般庶民の私が味わえたほんの少しの奇跡のようなもので。
ぱたんと扉を閉めてこたつへ入る。
みかんが無いのはすこし残念だけれどリビングへ行くのも気まずいのでここで時間まで過ごそうと思う。
ドレスもコートも靴もバッグも、全部置いていく。
このこたつもベッドも、全部。
着けっぱなしだった彼から貰ったプラチナのネックレスとピアスを外す。
これも置いて帰ろう。
見れば思い出して切なくなる。
彼もきっと一緒だろうけど誰かに頼んで処分して貰うより他にない。
感傷に浸って目が潤む。
せっかくした余所行きの化粧が落ちてしまうと目元を拭う。
これで良いんだ。
住む世界が違うんだから、と自分に言い聞かせて。
酒井が持ってきた新幹線のチケットを確認してから封筒へ戻す。
それと少し多めに入れた茶封筒を持って彼女の部屋をノックした。
返事を待ってから入るとこたつに入ったままの姿。
「お邪魔します」
断ってから近づきしゃがんで彼女に切符と封筒を渡す。
「今までの分のお給料と切符。ありがとう」
それを素直に受け取ってバッグへとしまい立ち上がろうとした俺を呼び止めた。
「入っていきませんか」
こたつに、と付け加えられそれも良いかなと靴を脱いで彼女の向かいへと座る。
久しぶりの日本伝統的な暖房器具は暖かかった。
「久しぶりだな」
と呟き足を伸ばせばちいさなそれの中で彼女の足とぶつかった。
互いに引っ込め顔を見合わせて笑う。
くすくすと声を潜めてまるで隠れんぼのように笑い合い、それが終わると彼女は俺を見つめた。
まっすぐな視線にどきりとする。
「私のどこが好きなんですか」
爆弾発言だ。
えっと声を詰まらせる。
まさかの発言に顔が赤くなる。
いやいや、綺麗に別れようって俺の努力を無駄にしないでくれよ。
彼女が顔を顰める。
眉を寄せて、上目遣いでこっちを見る。
「聞いてました?」
うんうんと頷くと参ったなぁと頭を掻く。
ワックスで固めていない髪の毛は柔らかいままだ。
「どこがって言われてもね」
「誤魔化さないでください」
きっぱりと言われて閉口する。
すっかり俺の発言を見抜くようになってしまった。
「私お金持ちのお嬢様でも無いし、料理くらいしか取り柄無いし、佐久間さんに見合うだけの学歴も職歴も無い。そんな私のどこが良いんですか」
そういう所だよと言いかけて止める。
気付いていないのならそのままの方が良いから。
「んー、内緒」
誤魔化すと彼女がふんっと鼻息を漏らした。
そういう自然体な所も好きだよと言いたい。
結局誤魔化されて答えが返ってこないまま沈黙が襲う。
もう何も話すことなんか有りませんよとそっぽを向く。
足を伸ばして彼の足をぐいぐい押せばやり返される。
ずっとこの時間が続けばいいのに。
こうしてずっと一緒に居れたらいいのに。
心の底からそう思って顔を向ける。
ん?と彼が私を見る。
そうか。
私の気持ちにまだ彼は気付いていないんだ。
だからこんな風に普通に接してくれる。
こたつから手を伸ばすと意味が分かったようでその手に自分の手を乗せてくれる。
いつもとは反対にこちらから握ると彼の顔が赤くなった。
ずっとこんな風に一緒に居たいなら覚悟決めなくてはいけない。
大変な事もあるかも知れないけど。
でも、彼と一緒に居る方がずっと、幸せなんじゃないだろうか。
そっと口を開く。
彼をまっすぐいつものように見つめて。
「あのね、礼」
彼の目が開く。
そりゃそうだろう。
名前をきちんと呼ぶのは初めてだ。
顔が熱くなる。
きっと彼と同じくらい真っ赤になっている。
手を握り返されて最後の覚悟を決めた。
「私も、礼の事、好きみたい」
次がラストの予定です。
あぁ長かった。




