彼と私とパーティと
11時すこし前になると続々と人が集まってきて口々に挨拶を交わして中へと入ってくる。
キッチンのドアはすこし前に閉めた。
まだ手伝うという高松さんにお礼を行ってリビングへと送り出し、広いキッチンに一人で佇み、余熱が終わったオーブンに粉チーズをかけたピザを入れる。
ワインがほとんどだと聞いて洋風の出来ればイタリアンだなと思い最後に焼き上げたピザを持ってリビングへと向かう。
背の高い社員の人に声をかけてからそれをテーブルへと置いて切り分けるための専用のナイフも添えた。
それからキッチンへと戻る。
時間がきたらしく乾杯の音頭が聞こえる。
婚約したばかりの祐樹さんが短い挨拶と共に声をかけるとカチャンカチャンといくつものワイングラスがぶつかる音がした。
空になった冷蔵庫には酒屋さんが持ってきた大量のワインやらビールやらはたまた缶チューハイが入っている。
それらをいくつか持ってまたリビングへと戻り空いてるスペースに置いて戻る。
後はまぁ足りなくなったら誰か来るだろうと冷蔵庫からデザートのゼリーと生クリームを出してボウルでそれを泡立てる。
すこし固めに立ててから絞り袋に入れてひとつひとつ渦巻き型に絞りミントを添えた。
また冷蔵庫へと戻して後片付けの洗い物を始める。
「ここは幸せな祐樹だな」
と面倒な乾杯の音頭を押し付けてそれが始まり口々に乾杯と言いながらグラスを煽る。
辛口のスパークリングワインが喉にしみていく。
「なんかすごい豪華ですね」
と料理を見た社員に言われてものすごく誇らしい気分になった。
その作った主を探すも見つからず、各々取り皿に取って立食形式のバイキングのように食べている姿に安堵する。
「すごい美味しい」
「本当この鳥なんて味が染みてて」
会話が聞こえてそれを聞かせてやりたいと素直に思った。
「どこの会社に頼んだんですか」
今年入ったばかりの女の社員がそう尋ねてきて一同が静まる。
いや、うんと答えると教えてくださいよーなんて口々に始まる。
「手作りなんだよ」
鳥を頬張っていた祐樹が言うと信じられないと感嘆の声が漏れた。
「家には優秀な家政婦が居るんだ」
彼が余計なことを言う前にそう言うといいなぁと羨望の眼差し。
「まぁまぁ、とりあえず、食べて飲んで。ケーキもあるんだし」
流れを変えるとまたそこら中で雑談が始まる。
まぁ、なんだ、パーティとは名ばかりでただの宴会だ。
空いたグラスに手酌で赤ワインを入れようとすると何人かがお酌をしてくれる。
「社長に手酌させるわけにはいきませんよ」
楽しそうに言う相手にお返しにお酌をして返しごくごくと喉を鳴らして飲み干す。
すると次の奴がすぐにそれを満たしまた飲んだ。
「あ、居た居た」
突然キッチンのドアが開いて顔を出したのは祐樹さんで私を見つけてにっかりと笑った。
あれからずいぶん時間も経ってそろそろデザートかなと思っていた矢先で動きが止まった。
「一番の功労者が何してんだよ、混ざんねーの?」
勝手に冷蔵庫を開けてワインとビールを両手いっぱいに抱える。
首を振ってそれに答えると彼は私の前で立ち止まった。
佐久間さんよりすこし小さいだけの祐樹さんも私からすると十分大きい。
見上げたまま首を傾げるとすこし間を置いて口を開く。
「あのさ」
「はい」
「礼の事どう思ってんの?」
ド直球だ。
真ん中ストライクでびっくりして用意してたスプーンを落とす。
ガラガラと大きな金属音が響く。
「どうって何ですか」
顔が赤くなる。
心臓がどきどきして止まらない。
「いや、いいよ。もう分かったから」
くくっと笑うと固まった私を置いて彼は出て行った。
のろのろと床に落ちたスプーンを拾ってシンクへ持っていく。
洗いなおして布巾で拭きながらもう鼻血でも出るんじゃないかと、冷たくなった手を額に押し当てた。
「お、ぐでんぐでんだな」
キッチンから酒瓶を抱えた祐樹が戻ってくる。
その顔はいつになく楽しそうで幸せそうでいいなぁと思って見つめる。
確かに彼の言う通りもう十分酔っ払っていた。
「断れないからね」
空いたグラスに彼が開けたばかりの白ワインを注ぐ。
お返しに彼のグラスにも注いでやりそっと乾杯をした。
「結婚に」
「お前の春に」
にやりと互いに笑って一気に飲み干す。
だいぶ料理も減ってきて綺麗だったケーキもクリームを崩しながら取り分けられボロボロだ。
「良いなぁ結婚」
お代わりを注ぎあいながらそう言うと彼が照れたように笑う。
「お前もしろよ」
「相手居ないからなぁ」
ぼやく俺にキッチンの方を見た。
いやいやと首を振る。
あの公園以来もう引き止める手立ては想いを伝えることだけだと覚悟はしたが実行に移せていない。
「まぁ、いいや。とりあえず功労者なんだからちゃんと紹介しろよな」
ワインを持ったまま彼が離れていく。
確かにそうだと思いふらつく足を動かして皆の間をすり抜けた。
後ろでビンゴカードを配り始める祐樹の声が聞こえる。
がたんとドアが開く荒々しい音がして振り返ると顔を真っ赤にした佐久間さんが立っていた。
「佐久間さん?」
声をかけると作業台へとグラスを置いてふらふらと千鳥足で近寄ってくる。
彼はそのまま私の前に立つと手を伸ばして引き寄せて私の体を腕で抱きしめた。
「佐久間さん?!」
もう一度名を呼び見上げると彼はにこにこしながら私を見つめた。
「本当にありがとう、皆喜んでるよ」
感謝の言葉に次いで片腕が外れて私の頭を撫でる。
慌てて見回すと、彼の体の向こうでドアが開いていることに気付いて押し返すもなかなか離れない。
焦って彼に告げようとしたその時ドアがゆっくりと誰かの後手に閉まっていった。
その指は最後にピースを作って私の方へと見せる。
祐樹さんだとすぐに分かって戸惑う。
「いえ、仕事ですから」
押し戻すのは諦めてされるがまましている。
扉の向こうでは番号を読み上げる声。
「行かなくて良いんですか」
これだと思い声を掛けるも首を振られてしまう。
「大丈夫、祐樹が居るから」
そりゃそうでしょうけどと思う。
顔が赤くなっていく。
こんな近い距離は久しぶりだ。
「あの、誤解されちゃいますから」
そう呟いて腕から逃げようともがく。
それを許さないと言った風に力が強くなった。
「だめ。ちょっとだけだから」
いや、理由になってないからと反論しようとすると彼の唇がそっと額へと降りてきた。
わぁっと赤面して彼の体に顔を埋める。
キッチンのドアが開く音が不意に響いてびくりと体を震わせると彼はドアにすばやく背を向けた。
「社長ー、何してんすかー」
へべれけになった若い声が響き彼が顔だけ上げて振り返る。
斜め下から見るその顔にいつもの笑顔。
「ちょっと酔ったから冷ましてるだけだよ、すぐ行くから」
すっぽりと彼に隠れて見えていないらしく動けないままドアが閉まるのを待つ。
カタンと小さな音がしてそれが過ぎると彼がほっと脱力をしてから離してくれた。
「危なかったー」
呟いてから私を見つめる。
それからグラスを持って手を伸ばす。
「おいで、皆に紹介したいから」
満面の笑み。
さっきの作り笑いとは違うそれに私は抵抗できなくてエプロンを取って作業台に置くと彼の手を握り返した。




