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私と高松さんとお料理と

翌朝、携帯のアラームで目が覚めると5時でううんと唸って起き上がる。

まだ佐久間さんは寝ている。

着替えてからそっと廊下に出て足音を消してキッチンへと向かう。

まずはとにかく朝食だと、ご飯を炊き、ものすごく手抜きをして用意した。

それらを埋め尽くされたテーブルでは無く、応接セットの方へと運び布巾をかけておく。


さて、どこから始めよう。

オーブンを使う物からかなと冷蔵庫を開け漬け込んでおいた鶏肉を取り出す。

いくら大きいオーブンだといっても限度があり二段に分けても一度に半分しか焼けなくてスイッチを入れてから冷蔵庫へと戻った。

冷凍庫からピザシートを二枚取り出してそれに小鍋に作ったトマトソースをたっぷりと塗っていく。

冷蔵庫からマッシュルームとサラミを取って均等に並べて行き、それをまた冷蔵庫へとしまう。

そうこうしている内にオーブンから呼ばれて扉を開けるとちょうど良い焦げ目がついていて、竹串でひとつ刺してみて透明な汁が出たことを確認する。


「よしよし」


呟きトングでペーパーを引いた皿に盛り付けていき熱が逃げないうちに第二弾を焼き始める。


「おはよう」


そう声をかけられて振り向くと佐久間さんが私服姿で立っている。


「わわっ、今何時ですか」


トングをぱちぱちしながら聞くといつもの時間といわれてうわーっとあせる。

間に合うかな。

いや、間に合わなかったらとりあえず始めてもらえばいいや。

トングを皿に置きそれを作業台においてからご飯を茶碗によそう。


「すいません、セルフで」


とガソリンスタンドかよと突っ込みたくなるような台詞を言って彼に渡すと笑いながらそれを受け取り応接セットへと向かった。


あぁ、新聞も取っていないと慌てて玄関へ向かいポストからそれを取って彼に渡す。


「良いのに、それくらい自分でやるよ」


ほらほらと促されてすみませんと声を掛けてからキッチンへ戻る。

あと一時間で高松さんが来るから、それまでにすこしでも終わらせないととジャガイモ潰したボウルに刻んだきゅうりとハムとコーンの缶の水を切った物を入れてマヨネーズを大量に絞る。

それから開かなかった瓶の蓋を彼にあけてもらって刻んだピクルスとマスタードをたっぷり混ぜた。

塩、胡椒で味を整え、大きなガラスのボウルにサラダ菜を敷き詰めてからそれを移す。


これでサラダはOKでしょ。

ラップをしてそれを冷蔵庫にしまうとピンポーンとチャイムが鳴った。

私が動くよりも早く食べ終わった彼が玄関に向かう。


「やあ、悪いね、朝早くから」

「いえ、働かざる者ですから」


そんな会話が聞こえて顔を出すと背の高いすらりとした黒髪の美人が立っていた。

彼女は私に気付き頭を下げてくる。


「おはようございます」

「あ、おはようございます。今日はよろしくお願いします」


廊下に出て挨拶をすると急いでやりましょうと彼女は私たちが土足なのを見てそのまま入ってきて真っ先にキッチンへと入ってきた。


「何からしましょうか」


そう言われて対面式のカウンターを前に冷蔵庫からレモンを取り出す。

持ってきたエプロンを付けた彼女がそれを受け取り包丁とまな板を取った。


「ひとつは半分にしてあの大きな鍋に絞ってください。それから、もうひとつはくし型に切ってこの皿に添えてもらえますか」


鶏肉がどっさり乗った皿を示すと大きく頷いて作業を始めた。


さてとそこを離れ厚手の鍋に油をたっぷり注いで熱する。

濡らして拭いた菜箸でそこへ入れて温度を確かめてから、くっつかないようにひとつずつ昨日巻いたチーズ春巻きを揚げていく。

新しい綺麗なバットに網を乗せそこにさっと揚げてから取っていき、最後に温度を上げたそこへ入れて二度揚げをした。


終わったという彼女に今度はクラッカーを並べてクリームチーズを乗せていってもらう。


「全部お一人で用意したんですか?」


手を止めないままそう言われて頷きオーブンから鶏肉の残りを出して皿へと移す。


「一日がかりでした」


ふふっと笑い鍋つかみをして鉄板を取り出しシンクで冷やして洗う。


「すごいですね」


褒められて赤くなりありがとうございますと呟いて、しっかりと水気を取ってからオーブンへ戻す。


「そう言えば、みかん、ご馳走さまでした」


思い出し半信半疑でそう告げるといえいえと彼女が手を振る。

あぁ、本当だったんだと思いながら、クラッカーに乗ったクリームチーズに小さく切った生ハムやクランベリージャムなんかを乗せていく。


「佐久間さんとはもう長いんですか?」


何も知らないのであろう彼女は私が彼と付き合っていると思っているらしく何気なくそう聞かれて首を振った。


「いえ、というか。あの、たぶん、思ってらっしゃるような関係じゃないんです」


彼に聞こえないように声を潜めて言うと事情を察したのかそれきりその話題は聞いてこなかった。


「ちょっと行ってくるね」


と佐久間さんが私たちに声を掛けて玄関を出て行く。

ほうっと息を吐き、時計を見た。

もう10時になる所。


「雇い主と家政婦なんですよ」


笑顔を作ってそう告げるとびっくりしたような顔をして私を手を止めて見つめた。




頼んでおいたケーキを受け取り小さな車で戻るとすっかり支度が出来上がっていた。

留守の間に来た祐樹とその部下二名が応接セットを和室へと運んだらしく広くなったリビングにはテーブルを中央へと持ってきてあった。

そのテーブルの上には大皿に乗った料理が並んでいて湯気こそ出ていないものの物凄く美味しそうだ。

真ん中の空いたスペースにケーキを慎重にみんなで置いて息を吐く。


「これで全部?」


笹川君にそう尋ねると首を振って、あとピザがありますと答えが返ってくる。

まだあるの、と正直驚いて言葉を出すと困ったように俯く。


「いや、違うよ。責めてるんじゃなくて」


あわあわと手を振ると祐樹を始め社員三人は顔を見合わせて笑いを噛み殺している。


「大変だったでしょって事ですよね」


助け舟を出してくれたのは意外にも高松さんで笹川君の背を押してキッチンへと戻っていった。

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